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2024.10.28

「アートリンク金山」インタビュー  馬場駿吉氏(旧名古屋ボストン美術館 元館長)

(左から)服部浩之さん、馬場駿吉さん 金山南ビル美術館棟(旧名古屋ボストン美術館)前にて

 

「アートリンク金山」では、11月2日(土)の午後、名古屋のアートやまちづくりの有識者や実践者の皆さんをお招きし、トークセッション「まちづくりとアートの現在・未来」を行います。
基調講演をお願いする馬場駿吉さんは、「アートリンク金山」の主会場で6年前まで開館していた名古屋ボストン美術館の第4代目館長を12年間務められました。医師でありながら俳人としても活躍し、美術・映像・舞踊・音楽などの批評家であり、現代美術のコレクターでもある馬場さんに、今回「かなやまじんくらぶ」の企画監修を務めたキュレイターの服部浩之さんがお話をうかがいました。

 

■ 名古屋ボストン美術館の館長として

 

服部 自分も今年から、青森公立大学国際芸術センター青森の館長を拝命したこともあって、馬場先生が館長になられた経緯と、館長としてのこころがまえみたいなことをお伺いできたらと思います。

馬場 名古屋市民会館には昔からコンサートでよく行っていましたが、金山に文化的なイメージはあまりもっていなかったですね。やはり、名古屋ボストン美術館の館長になってご縁ができて、2006年から閉館する2018年まで週3日通っていました。
 運営上の問題などで館長不在の時があって、館長になってくれないかと頼まれまして。最初は断り気味でね、新聞にもいろいろ書かれていたし、僕の周りにもそんな状況のところに行ってもまずいんじゃないかという人たちもいました。美術館の財団の理事長さんが東海銀行の元頭取の方で、会ってお話をしたんですが、美術の中で何に一番興味を持っていますかと聞かれたので、正直に現代美術と言ったら、ちょっと困ったような顔をしていた。名古屋には日本美術や近代西洋美術を主に持ってきていて、現代美術の展示はあまりなかったから。
 でも結局、ぜひ来て欲しいということだったので行くことにしました。僕が館長に就任するというので、現代美術専門の学芸員も新しく採用してくれてね。館長室に籠るのは嫌だったので、僕の机を学芸員室にもおいてもらって、いつでも学芸員と話ができるようにしていました。学芸員は皆優秀でしたね。

服部 館長によって美術館のあり方自体が少し動いたってことですね。現代美術に主眼を置いた展覧会はボストン美術館のコレクションを用いた「ジム・ダイン―主題と変奏:版画制作の半世紀」(2011年)を開催されてますね。あいちトリエンナーレにあわせて愛知近辺の現代美術のアーティストをとりあげた「時の遊園地」(2010年)や次の年の「呼びとめられたものの光」(2011年)などもいい展覧会でした。

馬場 本家のボストン美術館へも年に一回は行って、理事や学芸員たちと人間関係を作って、いろいろ話ができるようになりました。その甲斐あって、開館10周年の「ゴーギャン展」(2009年)では、ほとんど門外不出でボストン美術館の至宝中の至宝≪我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか≫を日本初公開で展示できたんです。

服部 医師のお仕事は完全にリタイアされていたんですか。

馬場 名古屋市立大学医学部の教授を定年退職したとき、普通なら医療関係のポストに行くんでしょうが、自分は小さいころから俳句をやっていたし、これからは文化関係の世界に行くと宣言したんですよね。そうしたら名古屋市の方で考えてくださったのか、名古屋市美術館の参与、その次は名古屋市文化振興事業団の副理事長を務めました。その後少したってから名古屋ボストン美術館に行きました。

 

■ 俳人としての活動とアーティストたちとの交流

 

服部 『REAR』50号(2024年2月発刊)で、先生の芸術に関わる句が掲載されていて、アーティストや表現者たちとどういうふうに先生が出会ってきたのかが時系列で見えて、本当に面白いなと思っていました。

馬場 2002年に『REAR』という芸術批評誌を出してもう20年以上になりますね。愛知を中心に美術、舞台や音楽などを取り上げていますが、私も創刊者の一人です。編集同人から50号で私の特集をしたいといわれて、断ったんですけど、どうしてもってみんな言ってくれたもんですから。今まで出した5冊の句集から、アーティストと関係のある句を選んでね。

服部 『REAR』以前にも、個人で『点』という俳句同人誌も発行されていますよね。僕たちは今回、金山でZINEを作っていますが、自律した表現のために自由に冊子を作っていくということに何か共通項がある気がしまして。

馬場 1965年創刊ですが、もともと瀧口修造さんが出していた評論集が『点』という名前でした。点というのは短い言葉だし俳句にもぴったりと思って、瀧口さんに了承をもらって使わせてもらいました。装丁は加納光於さんに頼んで、その後も表紙やカットをずっと描いてもらって。同人は宇佐美魚目さん、本郷昭雄さん、大峯あきらさん、友岡子郷さんで武満徹さんや大岡信さんなどにも寄稿してもらいましたね。年に1冊くらいずつ、本当に点々と出していて。同人5人の伝手でいろんな人が寄稿してくれたり、領域を超えて芸術家が紹介されて、それらに僕が俳句を二句、三句とつけるような感じでしたね。

服部 馬場先生は作品をコレクションされるときも、作家と直接会ったり、仕事を依頼したり、作家とコレクターっていう関係だけじゃなくてご自身も表現者、俳人として物を作る人として関わりを持ってらっしゃいますね。

馬場 僕自身も言葉の世界にずっと生きているわけだけど、言葉と美術作品とか、自分以外の領域の人たちのお仕事も、どう向き合えば自分の表現もかかわっていけるかというのは常に思っていますね。いろんな領域のアーティストとのお付き合いというのは、今でも一番大事にしているものですが、俳句っていうのは一対一の関係。とくに美術作品だと一点対一点という形で相対することが多いです。

 ところが舞台関係や音楽だと、句を連ねる、連句のように発句からはじまって結句となる。そこにある種の時間性がでてくるわけです。ダンスや音楽だと、コラボレーションという意味では、そのように時間性を共有するということ、そしてお互いの制作の関わりが真ん中にあって、お互いに力を見せ合ったり、影響し合ったり、そういうことがやっぱり重要かなと思います。

 私のように医学の領域にいた者にとっては、とくに、身体で表現するということの幸せというのは非常に感じるので、自分が今までやってきたことと、どこかでかみ合うなあとも思っています。

服部 重鎮の方だけでなく新進の作家をはじめ、いろんな人やものと、本当に対等に付き合って一緒に作っていらっしゃるということが、自分にもとても参考になるし、これは忘れちゃいけないところだなと思います。

馬場 もちろん既に著名な作家と出会うということもあるんですけど、その人が既に評価されている部分とは、また別の立ち位置で、いろんなことをお話をしたり、その方の小さな作品に出会っても創作のエネルギーを感じるような、そういう世界にずっとこれからも身を置きたい。僕ももう91歳で行き当たりばったりですが、いろんな人に出会ってお話をすることから、自分の命がつながれているような感じがします。

 

■ 医療と芸術の交差

馬場 自分は耳鼻科で、生まれつき外耳が欠損している人の形成手術が専門でした。耳を作るということに徹した時代があって、400件くらい執刀しましたかね。最初は日本ではあまり進んでない分野で、アメリカで新しい形成手術法が開発されたという論文が出たので、渡米して著者に会って技術を習うなどして研究しました。

 ちょうどその頃、三木富雄の≪耳≫の作品に出会いました。巨大な耳を作る人でしたが、ポケットに入るくらいの一番小さい作品もあってコレクションしています。今日も持ってこようと思ってて忘れちゃったんですけど。

 自分の中で、身体というものと、自分のやってる仕事と、直接繋がったのが三木さんの≪耳≫なんです。

服部 耳の形成手術も、医学の新しいこと、まだ誰も明らかにしていないことに取り組んでいらっしゃって、それは現代のアーティストがやってることとも近いし、乱暴なまとめ方かもしれないんですけど、何か新しいもの、新しく生まれることにすごくご関心をお持ちなんですね。俳句、装丁も今生きている作家に、文章もまだ見ぬものをというのが、とても現代的で面白いと思います。

 

■ 名古屋の画廊とアートフェア

馬場 名古屋で開かれるアートフェアというのは、昨年までのホテルでのフェアも含めて、必ず観に行っていました。今回、自分が働いていた美術館棟で開催されるということで、大変嬉しく思っています。

 自分も、いろんな画廊をたくさん回ることがだんだん難しくなってきているので、こういうアートフェアで画廊さんたちが、それぞれの目をかけておられるアーティストたちをご披露いただくというのは、ありがたい機会です。私も6年前までここに通っていたことを思い出して楽しませていただこうと思っている、ということを最後に申し上げたいと思います。

 


 

アートリンク金山 トークセッション「まちづくりとアートの現在・未来」

 期日: 2024年11月2日(土) 13:30~16:30

 会場: 金山南ビル美術館棟 5階

入場無料、定員50名(先着順、予約不要)

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