かなやまじんくらぶまつり アーティストトーク+座談会|前編「ZINEの自由さと複雑なまちの関係性」 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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活動レポート

2025.1.14

かなやまじんくらぶまつり アーティストトーク+座談会|前編「ZINEの自由さと複雑なまちの関係性」

撮影:三浦知也

 

11月9日(土)に行われた「かなやまじんくらぶまつり」は、「かなやまじんくらぶ」で制作したZINEをお披露目し、みんなで楽しむおまつりです。プロジェクトの中心メンバーである版画家・山口麻加さん、印刷家・嶋崎出さん、建築家・河部圭佑さんが登壇しアーティストトークを実施。企画監修の服部浩之さんがモデレーターを務め、トークの前半はかなやまじんくらぶの活動を振り返りました。後半は、金山駅前まちそだて会会長・田中良知さんが加わり、金山の未来についての座談会を実施しました。
(写真左より、服部浩之さん、山口麻加さん、嶋崎出さん、河部圭佑さん)

 

撮影:三浦知也

 

「かなやまじんくらぶ」とは?

ZINE(ジン)とは、個人やグループが自由な手法、テーマで制作する冊子のこと。「かなやまじんくらぶ -まちを歩いて本を作ろう- 」は金山をテーマにZINEを作る参加型アートプロジェクトです。2024年6月に活動を開始し、金山のまちに出かけ、地域の方にお話を聞き、さまざまな版画・印刷の方法でZINEを制作してきました。観光案内や地域情報誌には載っていない金山のまちの魅力、このクラブ活動から浮かび上がるまちの過去・現在・未来を、ZINEを通じて発信します。

(「かなやまじんくらぶ」プロジェクトの概要はこちら

 


 

版画家として、まちを歩きながら一緒に考えるプロセスを経て

撮影:三浦知也

 

服部浩之(以下、服部): ZINEは、プロフェッショナルがプロの力だけで作る本とは違い、誰でも作って表現ができるもの。面白いと思ったら一緒にコラボレーションをしたり、表現を恐れなくていい。アマチュアであることの重要性も考えられるメディアです。特技が異なる山口さん、嶋崎さん、河部さんが「どういう風に作りましょうか?」と相談しながら進めていったのが「かなやまじんくらぶ」の活動です。まずは山口さんが取り組んだことについてお話いただけますか。

 

山口麻加(以下、山口):私はプロジェクトに版画家として参加しました。普段から版画の作品を制作して展覧会で発表していますが、今回は自分の作品を作るのではなく、参加者やプロジェクトメンバーと一緒にリサーチして、そこで私が持っている力やできることをシェアしてかたちにしていくプロジェクトだと理解して取り組みました。なので、私も参加者の一人という感覚もあります。誰かが教える側だったり、導くかたちではなく、皆さんと一緒に考えたり歩いたり試行錯誤しながら、ここに至りました。

 

服部:完成した作品を展覧会で発表するという目標に向かう場合、最短経路を辿りがちですが寄り道もすごく重要で、今回は寄り道自体が表現になっていると感じます。

 

撮影:三浦知也

▲サイアノタイプで制作した金山の植物を集めたZINE

 

撮影:山口麻加

 

山口:ゼミに集まってくださった12人と一緒に金山のまちを歩いてワークショップを行いました。私が担当したものの一つは、光を当てることで印画する「サイアノタイプ」という古い写真技法です。この技法を使って金山の植物を採取して図鑑にしました。手本にしたのは、19世紀にサイアノタイプ技法を使って植物標本を青色の写真で記録したアンナ・アトキンスの植物記録集です。まちを歩く中で、数百年前から生えている木や鉄道の脇の草花、自然と生態系ができている場所が見え、金山という都市にもさまざまな植物があることに私たちも気付きました。それらをあえて作品にすることで見え方が変わります。

 

撮影:三浦知也

▲プレス機で制作した「KANAYAMA OBJECTS」のページ

 

 

山口:「KANAYAMA OBJECTS」は、プレス機という圧力をかけて刷り取る版画の機械を使って、オブジェなど金山の風景の中で気になる形を抜き取って版画にしました。風景の中にあるものですが版画にする工程でどんどん抽象的になり、輪郭が曖昧になって別のものに見えてくる。そして、作ったものを人に見せることで「これは何だろう?」と想像させることもできる。すぐには分からないものだからこそ興味を持てたり、何かの考えが及んだりする過程が面白かったです。

 

服部:山口さんはご自身で波止場という版画工房も運営されていて、版画を他の人にひらく活動も続けられています。今回も版画だからこそできる取り組みを、さまざまな方法で実践していたのが印象に残っています。

 

山口:特に今回はZINEというテーマがあったので、専門的な版画技術を極めていくより、誰でも取り組めるようなものや簡単に実践できるものを意識しました。

 

「無色化」した金山のまちに、色を付けていく

撮影:三浦知也

 

服部:嶋崎さんは自身のスタジオに印刷機であるリソグラフを持っていますし、メッセンジャーとして自転車で荷物を届ける仕事もしています。メッセンジャーの活動とリソグラフ印刷のつながり、どのようにZINEに出会ってきたのか。そして、今回のプロジェクトについてお話いただけますか?

 

嶋崎出(以下、嶋崎):今回のプロジェクトには「印刷家」という肩書で参加しました。普段は自転車で物を届けるメッセンジャーという仕事をしていて街中を走っています。僕は中学校の時からスケボーをやっていて、その影響でパンクロックを聞くようになりました。ZINEはパンクの7インチレコードを買うと一緒に挟まっていた冊子のイメージです。後にメッセンジャーの世界に入り、大会へ行った時や世界各国のメッセンジャーが日本に遊びに来るときに必ずZINEを持ってきてトレードする文化にも触れました。そういった面でずっとZINEに親しんできました。

 

▲モノスクリーンプリントで金山の景色に絵を描く様子

 

嶋崎:今回のプロジェクトでは、公募で集まったゼミの皆さんとシルクスクリーンのワークショップを行いました。シルクスクリーンは他の版画と同様に版を作り、スクリーンという繊維のメッシュ素材に化学的な変化で穴を開けてインクを通す手法です。当然のことながら2色、3色の表現をする場合は色の数だけ版を作りますが、「モノスクリーンプリント」という製版していないメッシュの上にインクを好きに並べて刷って1回で多色に刷る手法にしました。クレヨンでスクリーンの上に文字や絵を描いて、インクと一緒に刷り取ると、クレヨンがそのままスクリーンを通して紙に印刷されます。参加した皆さんが金山の好きな場所の写真を撮り、リソグラフで青一色に刷った上に色をつけました。

 

▲TOUTEN BOOKSTOREの古賀さんへのインタビューの様子

 

嶋崎:今回制作したZINEに書かれているTOUTEN BOOKSTOREの古賀さんのインタビューに「金山は、色が分からない」という話がありました。金山というまちについて聞くと、その人なりの答えが出てくる。飲みに来るまち、音楽をしに行く、コーヒーを飲みに行くなど、それぞれに色があるんですけれど、色がありすぎてもはや無色みたいになっている。だったら逆に自分で好きなように色をつけましょう、みたいなコンセプトでした。

 

複雑な都市と、自由なZINEとの関係性

撮影:三浦知也

 

▲建築チームによる金山のまちのリサーチの様子

 

服部:河部さんには、建築の視点からまちをリサーチしてほしいという依頼と、それ自体をZINEで展開してもらえないか、というお願いをしました。

 

河部圭佑(以下、河部):僕はZINEを作るのは今回が初めてで全くの素人。最初はどういうことになるのか掴めなかったですが実際に始めてみたら、まちとZINEの相性がすごく良いと感じました。特に金山のようないろんな歴史の積み重ねでできた複雑さ、簡単に単純化できない都市に対してZINEはすごく自由に作れる。一冊の本として完結しなくてもいい。ZINEの自由さと複雑な都市の相性がとても良いと感じました。

 

撮影:三浦知也

▲建築チームによるZINE「金山の小さなオープンスペース」のページ

 

▲ゼミメンバーのまちなかでのリサーチの様子

 

河部: ZINEにどう関わっていくかを考えて、公募のゼミメンバーに金山でお気に入りの場所を見つけてもらい、それを客観的に観察して図にして言葉で伝える「図解する」というテーマを設けました。もう一つ、建築学生とのチームでは、同様の方法で金山のまちで見つけた小さなオープンスペースを客観的に図解しました。いろんな市民の方が参加するプロジェクトで個性や考え方、思いや主観が現れてくるのは魅力的です。その一方で客観的な観察がセットであると、お互いに影響し合ってZINEがより深まると思い、あえて客観的なワークショップをやってみようと考えました。

 

服部:最初からずっと客観性を意識されていましたよね。金山の地形からだんだんミクロに迫っていく都市の分析をされていて、山口さんや嶋崎さんとは異なる距離感で面白い交わり方だと感じていました。

 

撮影:三浦知也

▲建築チームによるリサーチと制作したZINEの展示風景

 

服部:また、河部さんの展示空間に対するアプローチは、あるものを利用する方法や機転の利かせ方など、即興で発想をかたちにする柔軟さを面白く見ていました。

 

河部:ZINEというものの即興性を考えたら僕がガチガチに設えるよりも、ある程度のベースは決めるけれど、あとはアドリブで皆さんと相談しながらやっていく方が相性いいかなと。

 

服部:今回の展示はDIY的な即興感を持ってまとめていったので、空間自体がZINEのような作り方でした。キュレーターが全て決めた展示とは全く異なる場が生まれています。

 

嶋崎:山口さんの「展示を巡ることが一冊のZINEのようにしたい」というイメージから始まりましたね。

 

山口:1週間ほどで展示を仕上げて、よくできたなと思ったんですけれど、これまでの活動の中で即興の感覚が染み付いていたからできたんだなと、いますごく感動しました。

 

服部:ともに時間を過ごし、「一緒に作っていくこと」の面白さが、最終的に展示にも表れています。

 

撮影:三浦知也

 

後編「ZINEづくりを通じて、新たな金山を見つける」に続く。

 


 

かなやまじんくらぶの活動の記録はこちら

かなやまじんくらぶ活動報告Vol.1

かなやまじんくらぶ活動報告Vol.2