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2025.1.31
採択事業者インタビュー⑥ HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは2024年度も助成事業を実施しています。そこで「社会連携活動助成」で採択された事業(助成A×5件、助成B×1件)を6回にわたってご紹介します。社会連携活動助成A・Bの詳細はこちらをご覧ください。
最終回はHIEIさんにお話を伺いました。
■ 事業名 URBAN SOUND DESIGN PROJECT
私たちは日々、さまざまな音に囲まれ、無意識のうちに多くの影響を受けています。 視覚的なデザインと同様に、聴覚的なデザインも都市空間において重要な要素です。 このプロジェクトは、都市の公共空間の音をデザインし、居心地の良い環境を創り出す ことを目指しています。ゲストアーティストによる、3つの場所でのライブとDJ、さらに、 3回のワークショップを通して都市空間のサウンドデザインを再考します。
詳細については下記URLからご確認ください:
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ワークショップ予約ページ:WORK SHOP at SLOW ART LAB
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イベント情報ページ:URBAN SOUND DESIGN PROJECT
■ 採択区分 社会連携活動助成A
■ 採択金額 ¥1,000,000
■ 実施者名 HIEI
■ 活動領域 音楽、メディア芸術
■ 連携先の分野 観光
■ 期日・会場
2024年9月~2025年3月の間でイベント3回、講座3回の合計6回実施。
[LIVE&DJ]
2024年11月9日 16:00~20:00 ミッドランドスクエア屋外展望台 Sky Promenade
2025年 2月 2日 16:00~19:30 ナディアパーク 2F アトリウム
2025年2月22日 18:00~22:00 コートヤード・バイ・マリオット名古屋 1F THE LOUNGE
[ワークショップ] SLOW ART LAB 参加費:1,000円
2025年1月26日 15:00~16:30 「身体と音」医師 ・DJ: 斉藤 究
2025年2月9日15:00~16:30 「空間と音」一級建築士 ・DJ: 百合草公彦
2025年2月16日15:00~16:30 「サウンドデザイン」サウンドアーティスト・DJ : HIEI
【実施者プロフィール】
サウンドアーティスト。音楽とテクノロジー関係性をテーマに作品を制作。LIVE・DJ、インスタレーション等をおこなう。2008年KING STREET SOUNDSからのリリース、2009年macrophage lab.名義でのリリース。その後、コンピューターの特性を生かしたインタラクティブ作品の制作を開始、2009年ドイツZKM 、2016年マイアミSCOPEで作品を発表。2018年中川運河助成 ARToC10水面に咲く電子植物、2023年中川運河助成 ARToC10 PARALLES等。
―――事業の概要についてあらためて教えてください。
HIEI 都市の中で音環境をどのようにデザインしていくかということを事業の目的としています。町を歩いていると様々な場所から音が聞こえてくるのですが、意識的にも無意識的にも人はそれらの音に影響を受けています。聴覚情報をデザインすることで都市の環境がより良くなっていくのではないか、という仮定のもとにこのプロジェクトを立ち上げました。
北欧ではホテルのワンフロアごとに音楽のテーマを変えるなどして聴覚のデザインが重要視されています。一方で名古屋ではデザイン都市宣言がされ視覚的なデザインには注目が集まりましたが、聴覚的なデザインはあまり重視されていないように思います。聴覚は人の行動や、意思決定にに大きな影響を与えるものなので、それをうまくデザインして都市環境をより良くすることが可能だと考えています。
店内で流れる音楽やサイン音、例えばエレベーターが到着するときの音とか、注意喚起の音は一つ一つが独立して作られていることが多いですよね。その結果、全体で聞いた時に不協和な音になってしまいます。これらを統合的にデザインするのが理想的ですが。今回は第一歩として聴覚の情報について考えるきっかけとなるイベントにしたいと思っています。
―――名古屋の公共空間におけるサウンドデザインは、どのような状況と感じていらっしゃいますか。
HIEI 音楽の使い方にもっと可能性があると感じています。わかりやすい例だと、名古屋駅からすぐ外に出た時に四方八方からいろんなノイズが聞こえてきますよね。広告の音、信号の音、車のノイズやサイン音と、そういったものが雑然と混ざり合っています。そういった音も今後いろいろな技術や技法を応用すれば、もっと調和して聞こえるようにできると思っています。
また、実際に僕が体験したことですが、ボサノバがかかっているおしゃれなカフェでに行った時に、雰囲気も料理も良いのに、何故かリラックスできないことがありました。しばらく原因を考えていると、BGMが原因かもと思えるようになりました。かかっていたのはジョアン・ジルベルトの曲だったと思います、昼下がりのCafeの店内でささやくような歌が聞こえてきたら心地よく感じるはずですが、カップを置く時のささいな音が部屋中に響き渡り、それにより無意識的に自分の行動が制限されているような心地の悪さを感じました。選曲と音量と音場が合っていなかったんだと思います。お客さんがそこでお茶を楽しんだり、料理を楽しんだりするとある程度ノイズが出てきてしまいます。音楽にはそういったノイズをマスキングして居心地が良くなるため機能があるとその時感じました。
―――都市をサウンドデザインで演出するとは、具体的にどのようなことでしょうか。
HIEI 「音楽」と「サウンド」の違いは曖昧で、定義が難しいです。例えば、コード進行やリズムがあると音楽で、そうした要素が無いとサウンドなのかというと、そうは簡単な問題ではなく。音楽の解釈が広がってきた歴史を踏まえると、「サウンド」という概念で音楽をとらえることで、音のさらなる可能性を追求できると思います。
数年ぐらい前からなのですが、DJの手法を使ってパブリックスペースで踊らせるのではなくて、そこにいる人たちが心地よくなる音作りができるんじゃないかなっていうことを思い始めました。以前は、音楽とはライブでミュージシャンからメッセージやノリ、体が自然に動く反応といった、能動的になんらかの主張を受け取るものとして捉えていました。
しかし、DJをしているとただ空間の中にふわっと流れる音で心地よくなってしまうという無意識的な反応を実感する場面が多くなりました。そこから自分のエゴを完全に排除して、今の空間にはどのような音がよく響くのか?ということを客観的に考えるようになりました。そうするとパブリックスペースの中で音楽がかかるよりも、ひょっとすると環境音が流れていた方が心地よい空間になったり、音楽である必要もないのではと感じるようになりました。
―――ナディアパークのイベントでコラボレーションするSakura Tsurutaさんとはどのように出会われましたか。また、山中透さんや青木孝允さんとの出会いについても教えてください。
HIEI SakuraさんはもともとAbleton日本支社で各地でセミナーやレクチャーをされていました。そのレクチャーでお話をさせていただいた時に初めてお会いし、仲良くなりました。Sakuraさんは、DJの手法が面白く、ライブミックスでは自分のパーツを作ってコンピューターの中に入れておき、そのフレーズを空間に合うようにその場で組み立てて音楽にしています。
ダムタイプの山中さんは、3年ほど前に名古屋で舞台の音表現についてダンサーにレクチャーする機会があり、その時にサポートとしてミックスなどの手伝いをしました。それ以降仲良くさせていただいていています。
青木さんとはかなり古く、確か2008年か2009年かと思いますが、名古屋でライブに来られた時に自分も出演させていただき、それからの御縁です。青木さんも世界中回られているので視野が広く、ちょくちょく名古屋でレクチャーをしていただいたりしています。とても自然体な方で、作品から感じる印象と生き方がとても一致している方だと思います。
山中透氏、Sakura Tsuruta氏とともに中川運河で実施した野外イベント
―――全3回のワークショップでは、参加者にどのような体験を期待していますか。
HIEI 全3回の中で、3回目に僕はサウンドアーティストの実践者としての立場からお話しさせていただきます。第1回は医師の斉藤究さん、第2回は一級建築士の百合草さんにお話していただきます。二人とも本業を持ちながらDJをされています。ワークショップでは、医者や建築家といった専門分野がどのように音楽に紐づけられるのか、また音楽の活用方法や可能性をお話ししていただきますので、そこを参加者の方には感じていただきたいと思っています。
斉藤先生は整形外科が専門で、ドクターの立場から、身体と音の関係性についてお話ししていただきました。心の状態がポジティブなのかネガティブなのかで体の状態が変わってきますが、音楽が心に影響するなら、からだにも 影響を及ぼすはずです。その辺の仕組みをお話をして頂きました。
百合草さんの講座では、空間と音楽関係について、参加型の講座を予定しています。架空の空間の画像を百合草さんが提示し、その空間に合う音楽をAIで参加者の方に生成していただきます。そして、その印象について参加者同士でディスカッションを行います。参加者が空間の情報にどのように着目し、言語化しAIのプロンプトにするのか私自身興味がありますし、空間と生成された音の関連性について話し合う面白い内容になると思います。
僕の回はテクノロジーと音楽について話そうと思っています。
音楽はテクノロジーによってその在り方を変えてきています、例えばiPhoneが出てきたことによって、音楽をただ聴くだけでなく、そこで生成することもできるし、インタラクティブに音を変化させることもできます。今までは、サイン音は明確に独特な音だったのですが、iPhoneによってサイン音が音楽になることもあります。しかも、自分が好きな音楽や作曲したものをそこに入れることができるようになりました。そうすると、音楽の使われ方が変わってきていて、今までは音楽は聞くためのものでしたが、いつの間にか何かの役に立つものになってきていて、音楽は使うもの、利用するものになりました。そのように、テクノロジーが音楽の在り方に影響を及ぼす一方で、作家はテクノロジーに対しどのような意味や価値を与えていったのか?という話もしたいと思っています。
今までテクノロジーと音楽をテーマに作品を作ってきましたが、コンピューターはコンピューターらしく、人間は人間らしくっていうのが僕にとっては大事なことです。ではコンピューターが音を全部生成して人間はそこに何も介在しなくてもいいのかっていうと、それはちょっと違っていて、コンピューターというのはあくまで音の素材を正確に再生してくれたり、ミックスしてくれたりするものです。空間の中で今どういう音をセレクトして、どのような雰囲気の空間ができるのか、ということは今のコンピューターの技術ではできないと思います。その時のお客さんの表情とか、場所の雰囲気、季節や時間といった情報を感じ取ってその中から一番適切な音を選び出すことが、人間にはできます。そうすると、人間がやるべき仕事、コンピューターがやるべき仕事を、うまく役割分担してバランスよく組み合わせ、その場限りの音を作っていくことが理想だと思っています。近い将来、このバランスもまた変化してくとは思いますが。
―――近年のプロジェクトで、インタラクティブな試みをされていますが、どのように鑑賞すればよいでしょうか。
HIEI よくこの話をするときに例を持ちだすのが、アリストテレスの「優れた芸術は自然を模倣する」という言葉です。芸術の中に自然の縮図みたいなものが見えた時に、その作品の強度が強くなると考えています。自然の法則はある意味で普遍的な法則だと思うので、そういった法則が芸術に宿ることによって、芸術作品の強度が増すと考えています。
そのように考えると、インタラクションはまさに自然界の法則そのものだと思います。ガラスを落とせば床でガラスが割れてパリンという音が鳴りますよね。それってインタラクションじゃないですか。何かをすれば何かが返ってくるとことがインタラクションであって、現実の自然界そのものがインタラクティブにできています。この仕組みを芸術の中に取り込むというのは、コンピューターが生まれたことによって簡単にできるようになりました。そのインタラクティブな仕組みを再設計することによって、自然界の法則にすごくマッチしたものが作れれば、様々な人が興味を持ってくれるような音楽になると思います。
ナディアパークで展示された『THE SEQUENCE』
昨年ナディアパークで実施した『THE SEQUENCE』というインスタレーション作品があります。放射線状にベンチが並んでいて、そこに人が座っていくことで音楽がどんどん生成されていくという作品でした。アーティストが演奏をするというものではなく、そこにはインタラクティブの仕組みだけが存在していて、人が座っていくことで音が生成されていく、というのは一つの理想的な形と思っています。
今回はそのようなものではなくて、部分的にインタラクションを取り入れます。光の表現でLEDのライトが音に反応して光るということを取り入れようと思っています。
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公式WEBサイト:HIEI official site
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