【2024年度助成レビュー】HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」文:水野みか子(作曲/音楽評論) | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.3.14

【2024年度助成レビュー】HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」
文:水野みか子(作曲/音楽評論)

 

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2024年度助成プログラムのうち、「社会連携活動助成」で採択された事業の模様を、6回に渡ってご紹介します。今回は水野みか子さんによるレビューです。

 

【社会連携活動助成A】
助成事業名:「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」
実施者名:HIEI
活動領域:音楽、メディア芸術
連携先の分野:観光
実施日・会場:2024年9月~2025年3月の間でイベント3回、講座3回の合計6回実施。
[LIVE&DJ]
2024年11月9日 ミッドランドスクエア屋外展望台スカイプロムナード
2025年2月2日 ナディアパーク 2F アトリウム
2025年2月22日 コートヤード・バイ・マリオット名古屋 1f THE LOUNGE
[ワークショップ] SLOW ART LAB
2025年1月26日 「身体と音」医師 ・DJ: 斉藤 究
2025年2月9日 「空間と音」一級建築士 ・DJ: 百合草公彦
2025年2月16日 「サウンドデザイン」サウンドアーティスト・DJ : HIEI

イベント情報サイト:URBAN SOUND DESING PROJECT

 


 

■ 水野みか子 作曲/音楽評論

 

都会のオフィスビル、太陽が沈みかかる夕刻のアトリウムでは、足早に帰路を急ぐ人や夜の残業にそなえて一息ついている人の姿がある。アトリウムの大きなガラス壁面には、優しく、少し哀しい光が、沈みゆく冬の太陽そのものの「影」のように静かに忍び入る。意気揚々と一日を駆け抜けようとしていた朝のエネルギーは、午前と午後の活動を通じてひとくぎり。もはや時間は水平に進むしかない。あれもこれも目配りすることが面倒になり、積極的に行動する気はしないが、それでも「何か」によってこれからの時間を楽しみたいと思う。

 

 

そんな「何か」を実現する一つの形がURBAN SOUNDなのかもしれない。夕刻のアトリウム空間に馴染む音や響きは、建築空間の物理的残響に支えられた「遠くから聞こえる」会話や、昼と夜が入れ替わるための「移動」の足音なのだろうが、そうした「夕刻の生活音」と、反復される爽やかなリズムと浮遊感を保って振動するサウンドは、ごく自然に混じり合い、積み重なる。そして、さきほどまでの生活空間は、いつも間にか、音という空気振動によってデザインされた特別の空間に変容した。

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2024年度社会連携活動助成A に採択されたは、気鋭のアーティスト・プロデューサーHIEIが率いる大プロジェクトであり、名古屋市内のさまざまな公共空間やプライべート空間でサウンドを繰り広げて都市の新たなデザインを目指している。三つの場所でのライブとDJ、さらに三回のワークショップが実施され、名古屋という都会を音デザインでつないで、サウンドの社会的価値を上げた。

 

 

採択プロジェクトの中の一夜、「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」は、名古屋市の中心に位置する高層建築ナディアパーク2階のアトリウムで開催された。ガラス壁を背景にして暮れゆく太陽とともに始まり、午後4時から7時半頃まで四人のアーティストによるリレー式のDJとLIVEプレイが続く。筆者は5時頃からこの空間に身を置き、45分ずつGoemon、HIEI、Sakura Tsurutaの三人のアーティストの波に浸った。

 

 

 

サウンドという言葉は、響き、音色、和音、周期的・非周期的な波の組み合わせ、高さと波形の混交、といったさまざまなレベルで聴覚的現象を指し示す。サウンドの波に浸ることは、身構えて「音楽を聴く」こととは異なる。長い時間反復されるリズムモチーフ、まるで澄み切った水の表面に絵の具か水墨をポタリ、ポタリと、ゆっくり垂らしていくように、メロディーやハーモニーとは別次元で重ねられていく、それぞれに魅惑的な身振りを持つ響き、あるいは、高みへ向かって進展させようというような構築的意識とは無縁で、決して突き詰めすぎず、心地よくたゆたっている佇まい、などなど、空間に浸潤する波の魅力は尽きない。三人はそれぞれにサウンド生成のテクニックやマシンの使い方が異なっているけれども、URBANという切り口を共有していて、聴く側の期待感(夕方から夜にかけて、昼間とは違うもうひとつ「何か」によって楽しい時間を作ってくれるかもしれないという期待感)を掬い上げてくれた。

 

 

 

Goemonはシンプルなサンプリングで生成する波に絶妙なバランスで低音を入れたり消したりしながら、時の経過を環境の中に染み込ませていく。ポップできめ細かな和声感と理知的な構成を広げるHIEIによる、明るい海のようなサウンドは、なぜかとても名古屋にマッチしていて、名古屋住民である筆者としては嬉しくなった。バークリー音楽院で音楽療法も学んだSakura Tsurutaはこの日のゲストプレーヤー。柔らかくてお茶目な印象の音素材も魅力的だが、マレット系の音色や声のサンプリングで曲を繋いでいくプレーに技を感じた。プレーヤー本人がリピートに果てしなくどこまでも身を浸しており、聴く側もそうした忘我の時間に同調していると、やがて目眩し(耳くらまし?)のように彼女はサウンドから消える。Sakuraさんはどこに行った?と探したくなるような、不思議な聴後感を味わった。

 

 

 

クラブや電子音響のための専用の場ではなく、日常的な仕事や生活の場所に、個性的なURBANの波を漂わせるこうした企画を、今後も何かの形で継続してほしい。

 

 

(写真:三浦知也)

 


 

■ HIEIさんへの事前インタビュー記事もあわせてご覧ください。

採択事業者インタビュー⑥ HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」