アトリコナゴヤ
パイロット事業
インタビュー
2025.9.10
アトリコナゴヤ①「演劇の魅力は、やはり『生』の体験」 – 劇作家・演出家 鹿目由紀さん
クリエイティブ・リンク・ナゴヤがこの度スタートする特集記事「アート・リコメンド・ナゴヤ(アトリコナゴヤ)」は、名古屋をもっと楽しむための文化芸術ガイドです。芸術の秋、「国際芸術祭あいち2025」も開催される本年は、名古屋でもさまざまなアートイベントがめじろおし!その中で何を観に行こうか迷っているあなたに、その道のプロフェッショナルの方々が、美術・音楽・舞台などから推しのイベントをリコメンドします。
第1回は、名古屋を拠点に活動する「劇団あおきりみかん」主宰の鹿目由紀さんです。
鹿目由紀さん プロフィール
福島県会津若松市生まれ、名古屋市在住。2008年に日本劇作家協会東海支部プロデュースの短編芝居コンクール「劇王」で4年連続優勝し、「劇帝」の称号を得る。2010年には第16回劇作家協会新人戯曲賞を受賞。他に日本演出者協会主催の若手演出家コンクール優秀賞(2009年度・2010年度)、第26 回名古屋市芸術創造賞(2010年度)、愛知県文化選奨・文化新人賞(2010年度)、第18回松原英治・若尾正也記念演劇賞(2013年度)、名古屋演劇ペンクラブ賞(2013年度)など。2017年度の文化庁新進芸術家海外研修(短期)で2018年にイギリス・ロンドンで演出研修。2022年度から日本劇作家協会理事、2023年度から日本演出者協会常務理事。
私のリコメンド 1
演劇カンパニー「チェルフィッチュ」を主宰する岡田利規さんが作・演出を務めるダンスと演劇による新作。これまでも動きを重視した実験的な舞台を手掛けていましたが、今回は「ダンスと演劇の境界を越境する」とはっきり銘打っています。ダンスは振り付けを考えた振付家のものなのか、それともそれを身体化して踊るダンサーのものなのか。そんな「所有」も一つのテーマとされており、非常に興味深いです。愛知公演を皮切りに東京、高知、長野、福岡を回るツアーだということでも必見だと思います。
私のリコメンド 2
文化創作集団Gongter_DA(ゴンタダ)韓・日演劇交流プロジェクト『偶然、日常の中で人生を覗く』
会場|G/PIT
日程|9月23日(火・祝)〜9月24日(水)
「ゴンタダ」は韓国の劇団ですが、連続で上演される2作品のうち『信号の虫』は昨年、私が韓国に滞在して脚本を書き、日韓の俳優で上演した作品です。それを今回はゴンタダの演出で韓国の俳優だけが演じます。
一方、私が主宰する「あおきりみかん」の新作は、今年12月に韓国で行われる演劇フェスのために書き下ろしました。天国で誰が生き返るかを話し合うという会議モノです。日韓の交流事業を通して言葉の壁は越えつつ、逆に文化的な違いの面白さが浮かび上がり、お互いに刺激を受けた創作の成果を見ていただければと思います。
私のリコメンド 3
新進気鋭の劇団の中で特に注目される名古屋拠点の「ハコトバコ」。主宰・脚本の広岡慈乃さんが独自の視点やみずみずしい感性を持っていて、演出・俳優の安元勇人さんも数多くの舞台で客演をするなど活躍しています。4回目の本公演ということで着実に実績を重ね、規模も大きくなってきているので勢いがあると言えるでしょう。今回の『BRUTE』は「ヒトとケモノの境界はきっと檻の内と外にある」という一文が紹介されており、一層独特の世界観を表現してくれるものと期待しています。
私のリコメンド 4
「サカナデ」も名古屋を中心に活動する比較的若手の劇団で、日常のブラックな部分をうまく取り込んだ会話劇を得意としています。ちょっと嫌な気持ちにさせられつつ、どこか自分に当てはまると納得してしまうような、まさに感情を「サカナデ」させられる戯曲が巧みです。主宰の岡本拓也さんは各地の戯曲賞で最終選考に残るほど要注目の劇作家。ホームページでは過去の戯曲も公開しており、それを少し読むだけでも面白さを分かっていただけるでしょう。
私のリコメンド 5
「オレンヂスタ」も名古屋拠点の劇団で、主宰のニノキノコスターさんは2022年度の若手演出家コンクールで最優秀賞を受賞するなど活躍中。大小のオブジェクトを使ったダイナミックな演出で、重いテーマも軽やかに見せるスタイルが魅力的です。今回は歌やダンス、落語や漫才も盛り込んだアラカルト公演で、お祭り的に軽い気持ちで見に行ってもいいのかもしれません。そこに「オブジェクトシアター」と銘打った演目もあるので、本公演のオブジェクト的な部分も楽しめると思います。
ナゴヤにコメント
名古屋の演劇は現状、小劇場というカテゴリーでは盛り上がっていると言えます。各地のコンクールで賞を取る優秀な若手が続々と出てきて、コロナ禍以降、全国で多くの劇場がなくなっていく中でも名古屋では新たな劇場がオープンしたり、スタジオを設けたりする劇団も増えています。競争の激しい東京に比べて、焦らずマイペースで創作活動のできる環境が名古屋にはあるのでしょう。それを継続的に応援してくれる企業や行政の動きもあります。
逆に、この恵まれた環境に比べて名古屋の観劇人口はまだまだ少ないと感じます。若手を中心に頑張っているんだということをちゃんと外に伝えて動員につなげ、観劇人口をもっと増やしていかなければと思っています。
演劇の魅力は、やはり「生」の体験。その場の空気や息遣い、セリフのやり取りや俳優の肉体表現など、配信では得られないものがそこにあります。今回のリコメンドを参考に、興味をひかれた公演がありましたら、ぜひ劇場に行って生の迫力を体験してみてください。