活動レポート
2023.4.18
【パイロット事業レポート】シリーズ勉強会 第1回「ナゴヤが目指す文化ビジョン」
シリーズ勉強会「名古屋の文化芸術を考える」
第1回「ナゴヤが目指す文化ビジョン~名古屋市の文化政策について」
名古屋の文化芸術活動をより活性化させ、魅力あるまちづくりにつなげるために、私たちは何に取り組むべきなのでしょうか。その問いを立てるために「名古屋市文化芸術推進計画2025」の説明に続き、名古屋市の文化芸術活動の有識者によるパネルディスカッションを行いました。
*登壇者の肩書は当時のものとなります。
日時:2023年2月20日(月) 18時30分~20時
場所:同朋学園名城公園キャンパスホール(名古屋造形大学内)
主催:名古屋市、クリエイティブ・リンク・ナゴヤ
共催:中日新聞社
協力:名古屋造形大学
プログラム
【1】レクチャー 「名古屋市文化芸術推進計画2025」は何を目指すのか
徳永智明 名古屋市観光文化交流局 文化芸術推進課長 兼 クリエイティブ・リンク・ナゴヤ事務局長
【2】パネルディスカッション 「アーティスト、市民、そしてクリエイティブ・リンク・ナゴヤ」
高橋綾子 名古屋造形大学教授 名古屋市文化振興計画策定検討会議委員
梶田美香 名古屋芸術大学教授 名古屋市文化振興計画策定検討会議委員 クリエイティブ・リンク・ナゴヤ理事
小島祐未子 編集者・ライター
【3】クロストーク 「連携─その先にあるものとは」
【4】質疑応答
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【1】レクチャー 「名古屋市文化芸術推進計画2025」は何を目指すのか
徳永智明 名古屋市観光文化交流局 文化芸術推進課長
■ハード施策からソフト施策へ。文化行政の歴史を振り返る
これまでの名古屋市の文化行政の歴史を振り返ってみると、象徴的な時期として挙げられるのが昭和58年です。この年に名古屋市の文化振興事業団が設立され、芸術創造センターが開館、名古屋市文化基金を設置するなど、資金や場所、人材といった基本的なリソース、仕組みが整いました。平成に入ると、文化施設の整備や市民文化の振興に力点が置かれるようになりました。平成3年度から文化小劇場の整備を開始し、平成28年度には市内15区の整備が完了しています。
また、平成21年度には、行政計画として初めて名古屋市文化振興計画を策定し、それが令和3年度の名古屋市文化芸術推進計画2025へと繋がっています。令和では、芸術文化の幅広い推進や他分野との連携など、時代の変化に対応し、ハードからソフト施策を重視した政策へと移り変わっています。
■アンケートから見る、市民と文化芸術の関り、アーティストの現状
行政計画には現状把握が必要であるため、市政アンケートから文化芸術に関するものをピックアップしました。「名古屋市の文化行政で聞いたことのあるもの」の回答の1位が名フィル。「文化資源で誇れるもの」の回答は、歴史的建造物が1位で、次いで名古屋の生活文化となっています。歴史や土地柄もありますが、それに加え身近に感じられるものが受け入れられているようです。それを裏付けるように、「芸術をより身近に感じたり気軽に参加するために必要なこと」の回答では、無料で鑑賞できるコンサートや展示会が行われることが1位。他の回答を見ると本格的な芸術を鑑賞することも求められており、ニーズとしては多様であることがうかがえます。
次に、文化芸術に携わる関係者のアンケート調査を見てみると、雇用形態は個人事業主、フリーランスが6割以上でした。「文化芸術活動を行う上であると良い支援」については、助成金という回答が一番多いものの、情報提供や機会・場づくりなど幅広いニーズがあり、包括的な支援が求められていることが浮き彫りになりました。
■市民の声を活かしながら、4つの視点で文化政策を推進
前回の「名古屋市文化振興計画2020」を振り返ると、若手芸術家への包括的な支援体制や文化団体・人材育成等の支援が特に大きな課題として残されており、やはり今後はソフト的な取り組みが必要であると分析しています。こうしたことをふまえ現在動いているのが、2021年度に策定した「名古屋市文化芸術推進計画2025」です。この計画では、「親しむ」「磨く」「活かす」「支える」の4つの視点で政策を考えています。
まず「親しむ」で力を入れたいのが、子ども・青少年に向けた政策です。文化振興事業団を中心に取り組みを進めており、子どもたちにいかに文化芸術に親しんでもらうかを重点課題に位置付けています。「磨く」は、名古屋の文化芸術を磨き、誇りを高めていく政策で、若手芸術家の支援にも注力したいと考えています。「活かす」は、文化芸術をまちづくりや観光など他分野へ活かす取り組みです。「支える」は、様々な施策のベースとなる、施設や体制づくりを推進するもので、重点取組みが名古屋版アーツカウンシルとなります。行政だけで政策を考えるのが難しい時代、市民の皆さんとのつながりを大切に、生の声を政策に反映させるために設立したのがクリエイティブ・リンク・ナゴヤです。今日の勉強会は、つながり、意見をいただくきっかけの場であると思っています。
【2】 パネルディスカッション 「アーティスト、市民、そしてクリエイティブ・リンク・ナゴヤ」
高橋 綾子 「芸術活動への伴走型支援とは何か?」
■アート創出の現場に立った範囲の支援を
今日は、美術評論家としての立ち位置と、地域に根差し足元を照らしたいという意志で創刊した芸術批評誌「REAR(リア)」の編集者として、また若者を社会へ送り出す教員としての立場でもお話ししたいと思います。
私と今回の名古屋市文化振興計画との関わりは、2020年度版の検討委員会が発端でした。2016年から2017年にかけてのことですが、その中に「アーツカウンシル」という言葉があり、正直、唐突に感じました。それは名古屋市にアーツカウンシルが必要だったというより、オリンピック・パラリンピック東京大会での文化プログラム実施に向けた文化庁の基本構想に準じたものだったという背景があります。今回の名古屋市文化芸術推進計画2025では、名古屋版アーツカウンシルの3つのミッションが掲げられています。その中の「専門人材による伴走型支援」について期待したいことを次の3つの視点でお話しさせていただきます。
〇支援対象の範囲:プレーヤーだけでなく
〇支援内容の拡充
〇芸術環境の危機への敏感な対応:ガイドラインの作成や啓蒙
まず、支援対象の範囲です。作家や演者などプレーヤーだけではなく、フリーランスのキュレーターやマネージャー、批評家、編集者や翻訳家なども対象に、アートがどのように創出されていくのか、現場に立った範囲を助成事業に反映させてほしいと考えています。
次に、支援内容の拡充ですが、助成金は基本的に年度内に公演・展示されるものに対し、その制作補助金として分配されます。しかしながら、その前段階に行うロケハンなどの制作準備や、終了後の調査や研究、それに加え作品の修復や施設のリノベーションまで視野に入れると良いのではないかと思っています。
■フリーランスが直面し続ける、芸術環境の危機への対応を
さらに強調したいのが、芸術環境の危機への敏感な対応が、今の時代必要になってくるのではないかということです。先ほどの徳永事務局長のお話にあったように、ハードからソフトへという名古屋市の文化政策の中でアーツカウンシルが設立されたことをふまえると、伴走型支援の中にハラスメント防止等のガイドラインの作成や、契約・権利に関する啓蒙が必要ではないかということを、まずお伝えしておきます。
そのうえで、国の予算の動きを見てみました。令和5年度の文化庁の予算案は、0.1%増額の1兆77億円。その中の、文化芸術の創造的循環創出に充てられる予算の中で注目したのが「フリーランスの芸術家を含む文化芸術関係者の活動環境の改善に向けた取り組みの実施」という一文です。予算項目の中に、近年「フリーランス」という言葉が明記されるようになったことは、非常に重要だと感じています。国内で新型コロナウィルスが確認されて丸3年。フリーランスは今も様々な困難に対峙しています。私たち自身が困難に直面して初めて国の芸術に対する支援の在り方、構造のゆがみなどに気づき、当事者として声を上げていこうと動き始めました。私が所属する美術評論家連盟では、フリーランスの文化事業従事者の補償について声明を出し、批評家やキュレーター、翻訳者、校正者など高度な専門性を持ちながら、組織に守られない人々の存在を国は見落とさないでほしいということを強く訴えました。
■クリエイティブ・リンク・ナゴヤとともに、今後の活動環境を変えていく
もう1点、注目しておきたいのは、「芸術家等の活動基盤強化及び持続可能な活動機会の創出」として、「ハラスメント防止対策への支援」が新規に予算化されたことです。この予算がついたのは、コロナ禍が一つの契機であり、2019年の表現の不自由展論争の際に生まれた、美術関係者や作家たちの連帯が遠因になったのではないかと思っています。art for all「美術への緊急対策要請」や「表現の現場調査団」といったアーティストや関係者の団体が、草の根的に声を上げ、その現状を調査し発信してきたことが説得力を持ち得たと思います。こうしたことが背景となり、国の予算化に繋がったのだと考えています。文化庁の支援を得て、昨年はフリーランスのアーティスト、スタッフに向けて、契約について学ぶ勉強会を開催し、さらに契約に関するガイドブックを作成しています。国がこうしたことを始めているから、クリエイティブ・リンク・ナゴヤにすべてやってもらおうということではなく、こうした背景を自覚し、私たちに何ができるか、何から始めるべきか、そうした課題を皆さんと共有できればと思います。
梶田 美香「名古屋の文化芸術を考える」
■劇場の外に飛び出した芸術を、誰もが制約なく楽しむために
私のキャリアのスタートはピアノの演奏家で、今は名古屋芸術大学で舞台芸術を学ぶ学生の指導や、文化政策・アウトリーチを研究しています。まず、気になるムーブメントについて、かつての演奏家目線と現在の研究者の目線とを混ぜ合わせた雑感でお話しさせていただきます。
近年、音楽や演劇、ダンスなど舞台芸術分野でのアウトリーチやワークショップが活発になり、この20年でめざましく増えてきています。それと関連するのが、「舞台」の概念の広がりです。劇場の中だけでなく、ストリートやカフェでも舞台芸術分野の活動が活発になっていますし、コロナ禍でオンライン上にも舞台ができました。そうした潮流の中で劇場のオープン性が高まっていて、各劇場ではオープンハウスというイベントが盛んに行われています。また、芸術系大学で学んでいないトップアーティストの台頭や、小中学校の部活動の地域移行も昨今の動きとして気になるところです。
これらのムーブメントによって芸術と他分野を掛け合わせる動きが引き起こされたり、オンラインで舞台芸術を発信することによって日常に劇場空間が入りこんだり、部活動の地域移行により地域の中でどういった文化活動が展開されるべきなのかという、根本を考え直すことにつながっています。
ここで、ムーブメント全体を整理してみます。
劇場の中から外へ飛び出した音楽や舞台芸術
↓
〇他分野や人々の日常から舞台芸術にアクセスフリーになった
〇多面的に芸術が見えるようになった
〇多様な場所、様々な状況にある人々に芸術を届けるために創造的な提供が必要になった
つまり、芸術の本質的な理解ときめ細かなサービスがすごく重要な時代になってきているのではないかと思います。これまでは愛好家が楽しんでいた芸術を、年齢や地域、知識、経験などすべての制限を超える、オーダーメイド型の提供が必要で、提供すること自体がクリエイションであると感じています。
■「融合」で生まれる第三のエリアが、地域が目指す文化芸術の目的になる
次に、文化芸術を今回の勉強会のキーワードとなっている「連携」というところから考えてみたいと思います。国の文化政策では文化芸術と他分野との連携について声高に論じられていますが、各分野ではすでに文化芸術の活用が進められてきました。たとえば、教育分野では教科教育や部活動、福祉分野では慰問演奏、医療分野では音楽療法などを実施しています。これまでにあったことが、なぜ「連携」という視点で語られ始めたのかを考えると、文化芸術側がこうした活動を主体的に捉えるようになったのではないかと思うのです。ところが、そこで起こってくるのが目的の混在です。たとえば、学校教育の科目である「音楽」の枠組でどのような内容を実施するかを、アウトリーチする側が主体的に考えるということは、自分たちの目的を達成するかを考える必要が出てきます。その結果、学校側の目的とアウトリーチする側の目的と、二つの目的が同じ場所で混在することになり、双方にとってのメリットを考える必要が出てきます。そこで考えていきたいのが、「連携」から「融合」へという新たな視点です。
文化芸術分野と他分野が手をつなぐことによって生まれる第三のエリア。これこそが、まさに二つの分野が存在する地域全体の目的になってくるのではないか。2つの目的をそれぞれ追究するのではなく融合させていく「連携から融合へ」という考え方です。そして、この第三のエリアで起こっていることを冷静な目で整理し、分析することによって、文化芸術と他分野が手をつなぐことが地域や社会のためになっていると明確にすることが重要だと思います。これこそがクリエイティブ・リンク・ナゴヤの仕事だと思います。
■フリーランスのアーティストが安心して働ける環境の整備を
こうした他分野との連携に、フリーランスのアーティストがどんどん投入されていくわけですが、高橋先生のお話にあったような、フリーランスが抱える悩みについて、最近直接アーティストから話を聞く機会がありました。その話では、どこにも、だれにも相談できず、フリーランスのアーティストは非常に孤独だということでした。アーティストは芸術性、創造性を基盤とする作品をもって自己を表現するのが仕事ですが、その舞台裏ともいえる、働いている環境をリアルに伝えるのは難しいのだと思います。ギャラの交渉や今後のキャリア構築などを、一歩距離を置きながら支援することが重要です。アーティストが安心して活動できなければ、他分野と連携し第三のエリアをつくることもできません。多分野が融合する、第三のエリアを作りながら名古屋市のためになる文化活動が展開されるために、アーティストが働きやすい環境整備も必要だと思います。
小島 祐未子「ナゴヤの舞台芸術 表現者と鑑賞者 双方の視点から考える」
■アクセシビリティを高め、すべての人に劇場の楽しみを
私は、フリーランスでライター・編集者をしています。以前は、情報誌「ぴあ」で演劇を担当してきましたので、今日は名古屋の舞台芸術についてお話ししたいと思います。
日本における舞台芸術の流れとして、主に公立劇場で取り組まれているのが「アクセシビリティ」です。これは、どれだけ劇場に行きやすいか、気軽にアクセスできるかを向上させていこうという動きで、日本に暮らす誰もが文化芸術を享受できるよう環境の整備が進められています。ソーシャルインクルージョンの視点に立ち、劇場も共生社会の実現に貢献していくということが根本にあるのだと思います。
では、公立劇場のアクセシビリティの取り組みについてご紹介します。子育て世代や乳幼児でも劇場に足を運びやすいワークショップの開催や、障がいを持つ方や子どもたちが安心して観られるよう配慮したリラックスパフォーマンス、在留外国人の方たちへ向けたチラシを制作している劇場もあります。また、聴覚障がいを持つ方にタブレットで字幕を表示したり、視覚障がいの方にはあらかじめ舞台美術の模型にふれてもらう機会を設けたり、さまざまな工夫をされています。
こうした取り組みが進む中で、その最たる好事例が、最近拝見した穂の国とよはし芸術劇場PLATによる「楽屋」という舞台手話通訳付きの公演です。劇作家・演出家の樋口ミユさんが演出されたのですが、手話通訳の方が俳優と同様に舞台に立ち、セリフや状況説明をし、聴覚障がい者の方と一般の方が一緒に楽しめる公演でした。演出も幻想的で芸術性の高い作品になっていてとても驚かされました。この公演の成果は、障がいに関係なく作品や劇場を体感できたということがひとつ。もう一つは、新しい挑戦が芸術的にも作品を更なる高みへ押し上げたことで、アーティストにとってもステップアップにつながったことだと思います。
■アーティストの社会課題への意識向上を、行政の力で
また、別の劇場の話ですが、メニコンさんがオープンする「メニコン シアターAoi」についてもご紹介させていただきます。初代の芸術監督に、山口茜さんという劇作家・演出家が就任されていて、自らの想いをシアターの理念として挙げられています。その中に、「地域住民がさまざまな他者の表現に出会い、自らも表現を行える場」という一文があり、これは劇場がまちづくりの中核になるよう努力していきたいという、一つの表明ではないかと思いました。また、ソーシャルインクルージョンにつながる仕組みづくりも目指されていて、公立劇場が果たすべきことを民間の劇場で取り組もうとしているのは面白い動きだと感じています。
アクセシビリティ向上という潮流の中で、名古屋市の文化政策に求めたいことは、鑑賞者の拡大と、地元のアーティストがこうした社会課題に向き合うよう意識改革を促す助成プログラムを設けてほしいということです。海外で活動されているアーティストからは、日本人アーティストは社会に対する取組みへの意識が低いと聞きます。名古屋市から、社会課題に向き合うことと作品づくりを一緒に考えてもらえるような働きかけを進めていただきたいと思います。
■新たな助成の視点、施設との連携・活用を
名古屋の舞台芸術の視点から、名古屋市の文化政策に次のようなご提案させていただきます。
◆鑑賞者拡大と助成を組み合わせた枠づくり
〇乳幼児、子育て世代、児童向けの鑑賞会など
〇学生向けゲネプロ公開・質疑応答
〇社会人向けデモンストレーション、車座サロン
〇障がい者、外国人が参加しやすいプログラム
◆文化団体・施設との連携
〇日本劇作家協会東海支部との連携
〇図書館との連携
◆施設の活用
〇公園、歴史的文化施設の使用料免除
まず、新たな助成の枠づくりです。アーティストや鑑賞者同士で対話できる形式のワークショップや、障がいを持つ方、在留外国人の方が参加しやすいプログラムなどの取り組みに協力してくれる個人や団体を助成する方法もあるのではないでしょうか。次に、文化団体や施設との連携です。例えば、日本劇作家協会東海支部がコンペティションで募った短編作品を学校向けに上演する、図書館と連携し戯曲の朗読会を開くのも楽しいと思います。また、市が管理している施設の活用も考えていただきたいと思っています。白川公園などの野外なら、舞台に関心がなくても目に留まり、新たな観客に変わる可能性もあります。こうした施設を舞台芸術に開放し、使用料は免除するという支援の仕方もあると思います。
最後に、私の個人的な想いですが、昨今「居場所」を求めて悲しい事件に巻き込まれる若者のニュースが目につきます。そういう人たちにとって、劇場が居るだけでいい場所になれないだろうか。みんなの居場所として、また現代社会のシェルターやセイフティネットとして、劇場やアートの現場を活用できればと思います。
【3】クロストーク 「連携 ─その先にあるものとは」
進行:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ ディレクター 佐藤 友美
■連携のための連携では本末転倒。芸術の価値を担保することも必要
佐藤:クロストークのテーマは「連携」です。名古屋市文化芸術推進計画2025でも他分野との連携が重要視されていますが、さまざまなハードルがあると思っています。連携の現状やハードルについて、まず高橋さんからご意見をうかがいたいと思います。
高橋:目的化されない連携が大事だと思います。助成金のために連携するというのは本末転倒でしょう。むしろ、そもそも芸術表現の内実として、社会や世界に繋がっていく意志が内在しているという自覚が必要ではないでしょうか。そのために、鑑賞教育や優れた芸術作品を観ることや、つくる現場に立ち会うことなどが大事だと思います。1枚の写真、1枚の絵、身体表現でもピアノの音色でも、芸術作品は素晴らしい力を持っています。そこを起点に連携を語っていきたいという思いはあります。
佐藤:小島さんは演劇の現場の感覚からどのようにお考えでしょうか?
小島:必要に迫られて連携するのが当たり前の道筋なので、連携のための連携では、何のためにするのかがわかりません。その先に、名古屋市がどういうまちづくりを考えているのか、どういう文化政策が理想だと考えているのか、演劇を語る前にどこを目指すのかが重要だと思います。
梶田:私が思うのは、文化芸術の普及啓発活動において、芸術をなるべくわかりやすく、なるべく安価に観ることが求められると、本来とても高度な技術や知識、経験にもとづいて行われていることに対してリスペクトが薄らいでいくのではないかと。連携する時に、どうやってその価値を担保していくかということがとても大事なことではないでしょうか。
佐藤:目的化しないことと、芸術としての価値をいかに担保していくかという重要なお話をいただきました。連携は名古屋市の文化政策にとって重点的な取り組みですので、引き続き議論していきたいと思います。
■支援のひとつとして、芸術作品の持つ意味を言語化する
佐藤:伴走型支援についてもう少しご意見はございますでしょうか。
高橋:美術だけの話ではありませんが、良いとか優れているとする価値に対して、専門性を持った言語を伴わせてアーカイブすることが必要だと思っています。ファンのように好きだから励ますという支援もあれば、歴史的な軸を持って作品の意味や価値を、批評的な観点で言語化していく支援もあると思います。美術と時間芸術とではまた違うので、そこでは細分化した議論が必要になるでしょう。大雑把な言い方ですが、評論家としては“言語というものを大切にしていきましょう”と、伝えたいですね。
梶田:芸術作品は極めて個人的で、内面的なものが表現されていて、それを言語化するのはとても難しいと思います。でも、その価値を相手に伝えて残していくには無理やりにでも言語化する必要があって、高橋先生がおっしゃるように、アーティストや作品から少し距離を置いた冷静な目線というのが大事だと思いました。
【4】質疑応答
【質問】
徳永さんの話で主に支援の充実について紹介していましたが、やる人がどんどん増えても、観る人が増えるわけじゃないと思います。観る人がいるから成り立っているという考え方への転換が必要ではないでしょうか?
【回答】
徳永:名古屋市の政策としては、街なかで伝統文化にふれる機会を提供するやっとかめ文化祭など、観る人を増やすきっかけづくりを進めてきました。今後も、より多くの方々や子どもたちが本物にふれる機会を政策でも大事にしていきたいと考えています。
梶田:以前、本格的な公演や講座を開いている劇場に、どういう人が観に来ているか調査した時、講座で何かを習っていることが鑑賞のきっかけになっていました。活動することと観ることが上手くつながると良いのではないかと思います。