【レビュー】「Meets Classical」(Japan Live Yell project in CHUBU)文:南拡大朗/中日新聞 文化芸能部記者 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

音楽

レビュー

2023.11.22

【レビュー】「Meets Classical」(Japan Live Yell project in CHUBU)
文:南拡大朗/中日新聞 文化芸能部記者

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤは、「Japan Live Yell project in CHUBU」プロジェクトの一環として、名古屋で音楽コンサートを数多くプロデュースしている「ON music project」と協働し名古屋市美術館でコンサートを開催いたしました。今回は、当日の様子をご覧になったライターによるレビューをご紹介します。

 

【meets classical】
日時:2023年11月7日(火)
会場:名古屋市美術館
出演:岩間美奈(マリンバ)、谷口沙和(ヴァイオリン)、細川杏子(フルート)、弓立翔哉(パーカッション)
企画:北川明孝(ON music project)

 


 

■南拡大朗 中日新聞 文化芸能部記者

 

 

聴き手が自由に歩きながら音楽を聴く「回遊式」をコンセプトにしたコンサート「meets classical」が11月7日夜、照明を暗くした名古屋市美術館内で行われた。演奏者、聴衆の双方が体を動かし、場所を移りながら音楽に関わる点が新鮮で、作品→音楽家→鑑賞者という慣習に縛られた意識に変革を迫る刺激的な場だった。

 

 

まず、美術館玄関から入った観客は、階段を「下りる」か「上るか」という選択を迫られた。地下1階ロビーと2階にそれぞれ演奏場所があり、どちらから行っても自由だからだが、一つの舞台を囲んで聴く普通のコンサートとの根本的な違いを、そんなところからも感じる。

 

地下1階へ行くと、フルートとマリンバの演奏がすでに始まっていた。曲の始まりが聴けなかったのは、普通のコンサートではけっこう落胆することだ。しかも同じ空間で2人の演奏が別々に行われているから、互いの音が聞こえてくる。これでは作品の全体像が分からないじゃないか!という違和感が湧いたのもつかの間、これがばかばかしい考えだということが、歩きながら聴いているうちにだんだん分かってくる。

 

演奏者は、マリンバの岩間美奈、バイオリンの谷口沙和、フルートの細川杏子、カホンなど打楽器の弓立翔哉の若手4人。「絶望」「愛情」「嫉妬」などの感情をテーマに選曲された合わせて40曲近くをそれぞれが演奏し、最後に全員での合奏があった。

 

 

岩間美奈(マリンバ)

 

「作品の全体像を把握する」という呪縛から意識を解放すると、新たな音楽の聴き方への道は簡単に見つかった。細川のフルートは、近づくとびっくりするくらいグルーヴが強くて「怒り」がダイレクトに伝わってくる。少し距離を置けば同じ曲でも伝わる感情は客観的な印象になる。なるほど、美術館で絵を見るのと同じかもしれない。コンサートホールだと全座席がなるべく同じ響きで聞こえるように設計されているから、こういう体験はできない。

 

細川杏子(フルート)

谷口沙和(ヴァイオリン)

弓立翔哉(パーカッション)

 

演奏者を紹介するプロフィールのパネルも面白く、多くの人が立ち止まって読んでいた。「○○音楽大学卒業後にフランスに留学、世界的な著名な○○に師事」といった慣習化した文章に赤ペンが入っていて、楽器との出会い、学習者としての分岐点などが欄外にある。隘路に入り込んで悩みながら生きてきた音楽家の実像を知れば、「偉い演奏家」と「普通の聴き手」という関係性も変わる。

 

 

全体で1時間半に及んだコンサート中、最もはっとした瞬間は後半に訪れた。有名なバッハの無伴奏バイオリン曲にロビーで耳を傾けていると突然、背後から民俗楽器のオーガニックな即興が混じり合うように入ってきたのだ。

 

その間、私は互いの奏者を行ったり来たりし、自分の立ち位置によって変化していく2つの音楽の聞こえ方を楽しみ尽くした。かたや西洋的な知性の頂点とも言える音楽で、もう一方はスチールパンなどの雄大な自然を思わせる優しい音色とリズムだ。歩くうち、同じ球体の別の曲面をシームレスに移動しているような感覚に陥った。

 

これは演奏家どうしのインタラクションで生まれたというよりは、あくまで私の体の中でだけ鳴っている音だと思う。演奏者本人、他の場所に立って聴いている人には、私と同じようには聞こえてはいないはずだからだ。

 

 

 

音楽の聴き方は多種多様で限りがないのは、クラブミュージックやヒップホップを例にとっても明らかなことだ。ただ、クラシックのコンサートがいまいち流行らないのは、「この作品はこう聴くべきである」というような圧が、学校教育やマスメディアを通してずっと強かったことが一因だろう。

 

歴史的にどれだけ偉大な作品であっても、今演奏されるならそれはすべて未知の音との出会いになるはずだ。それをリスナーが自分の意志で動き、体の反応と擦り合わせながら求めていく新しい体験として、こんなコンサートがさらに広がることを願っている。

 

 

(写真:羽鳥直志)

 


 

本事業は名古屋を主な拠点として活動を行う文化芸術の実演団体、アーティスト、制作者等のマネジメント力向上をめざすものです。クリエイティブ・リンク・ナゴヤは、音楽、演劇、舞踊、伝統芸能などの実演芸術による「公演・ワークショップ」の企画を公募し、3件採択しました。本イベントはそのうちの第1弾として、名古屋で音楽コンサートを数多くプロデュースしている「ON music project」と協働し開催いたしました。

 

本事業名:JAPAN LIVE YELL project in CHUBU
本事業主催:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ、ON music project、愛知芸術劇場、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会
本事業助成:文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2))|独立行政法人日本芸術文化振興会
事業名:JAPAN LIVE YELL project