【レビュー】「オイスターズが揚輝荘でつくる演劇公演」(Japan Live Yell project in CHUBU) 文:小島 祐未子/編集者・ライター | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2024.1.17

【レビュー】「オイスターズが揚輝荘でつくる演劇公演」(Japan Live Yell project in CHUBU)
文:小島 祐未子/編集者・ライター

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤは、「Japan Live Yell project in CHUBU」プロジェクトの一環として、名古屋を拠点に活動する劇団「オイスターズ」と協働し揚輝荘で演劇公演を開催いたしました。今回は、ライターによる公演レビューをご紹介します。

 

【オイスターズが揚輝荘でつくる演劇公演】

日時:2023年12月23日(土) 、24日(日)
会場:揚輝荘 聴松閣
出演:佐治なげる、芝原啓成、横山更紗、中尾達也、田内康介、荘加真美(劇団ジャブジャブサーキット)、菅沼翔也(ホーボーズ)、白藤花音(名古屋大学劇団新生/劇団ちゃこーる)
企画:オイスターズ

 


 

■小島 祐未子 編集者・ライター

2023年12月23日・24日、名古屋市千種区で「オイスターズが揚輝荘でつくる演劇公演」が開催された。題名にある「揚輝荘」は市指定有形文化財を複数有し、そのうちの一つ「聴松閣」で行う企画を、クリエイティブ・リンク・ナゴヤの人材育成プログラムの一環で公募。名古屋を拠点とする劇団「オイスターズ」の公演が採択され、座付作家・演出家の平塚直隆による新作が発表された。なお、この事業は「JAPAN LIVE YELL project in CHUBU」のプログラムであり、クリエイティブ・リンク・ナゴヤ、オイスターズのほか、愛知県芸術劇場、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会が主催している。

 

揚輝荘は松坂屋初代社長の十五代伊藤次郎左衛門祐民が別荘として建設。現在は市民共有の歴史的・文化的施設として一般公開もされている。中でも聴松閣は迎賓館に当たり、外観・内観ともに国際色豊かなデザインが印象的だ。今回のアクティングエリアは、地下の多目的室と1階の喫茶室兼休憩室の2カ所。かつて舞踏場だった多目的室はインド様式のレリーフが目を引き、1階は英国風で落ち着いた品を感じさせる。開演前には壁や柱を撮影する観客もチラホラ。オイスターズや演劇に関心のある人だけでなく、多様な人たちの来場がうかがえ、観客層開拓の一助ともなったように思う。

 

 

舞台が2フロアに分かれているので、物語や俳優に合わせて移動する回遊型鑑賞や、自由に行き来できる体感型のイマーシブシアターを想像していたところ、観客は一定の席に座ったまま同時進行することにまず驚かされた。このレポートのため2日通って両方観たが、事前に告知されていたこともあり、観客は全貌がわからないことを含め楽しんでいる様子。

 

 

2日とも18時開演。地下では、会場の下見だと思って来た劇作家が本番当日であることを知らされて狼狽するところから始まる。そして物語上「舞台」に設定された1階では、俳優たちが悠長にお菓子など食べながらセリフが届くのを待っている、という具合。台本がない、セリフを覚えていない状態で幕が上がる悪夢は「演劇人あるある」としてよく聞くけれど、焦っているのは劇作家の男だけ。彼に依頼した主催者もほとんどの俳優たちも、どこか他人事のようで笑ってしまう。また、地下にある緞帳付きの本物の舞台を全く無駄な使い方で見せたり、役がわからない俳優たちが黒タイツ姿でウロウロしたりとナンセンスな趣向も多く、観客は終始ゲラゲラ&ニヤニヤする展開となった。

 

 

約30分の上演時間中、双方の状況が交差する場面もあり、1階のモニターには時おり地下の様子が映し出される。ただ、これは本来おかしい。通常の劇場では場内を確認できるモニターは楽屋などバックステージに必要となり、置くのであれば地下のほうが正しいからだ。しかし平塚は何気ない形で1階と地下の役割を混乱させた。また、絶妙なセリフの掛け合いで会話劇の名手・平塚の本領を発揮しながら、揚輝荘や聴松閣の情報も盛り込み、虚構と現実、うそと本当の境を揺さぶった。

 

そもそも劇全体が演劇のタネ明かしをするようなメタフィクション的構造になっており、劇作家や俳優の作業、彼らの思考、さらには劇団という集団のありようまでさらしていく。それらは自虐にも皮肉にも映ったが、平塚たちのリアルな想いに触れたのは間違いないだろう。クライマックス、銃声が響いて館内は暗闇に……。再び明かりがつくと、劇作家のシャツが真っ赤に染まっている! しかし、これは俳優の一人が手を銃に見立てて撃つ真似事をしただけであり、最後の最後に平塚は“観客の作業=想像”を示したのだ。あとは、あ然とするほどあっさりした「終わります」というセリフで両フロアともに終幕した。

 

事件は舞台の外で起きている――ロシアの大劇作家チェーホフの世界も思い起こしながら、あらためて人間の想像力と徹底的に向き合った平塚に脱帽。最寄りの覚王山駅までの帰り道、来場者たちが会話を弾ませている光景もうれしく、企画の成功を実感した。

 

(写真:羽鳥直志)

 


 

本事業は名古屋を主な拠点として活動を行う文化芸術の実演団体、アーティスト、制作者等のマネジメント力向上をめざすものです。クリエイティブ・リンク・ナゴヤは、音楽、演劇、舞踊、伝統芸能などの実演芸術による「公演・ワークショップ」の企画を公募し、3件採択しました。本イベントはそのうちの第2弾として、名古屋を中心に数多くの公演を行う劇団「オイスターズ」と協働し開催いたしました。

 

本事業名:JAPAN LIVE YELL project in CHUBU
本事業主催:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ、オイスターズ、愛知芸術劇場、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会
本事業助成:文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2))|独立行政法人日本芸術文化振興会
事業名:JAPAN LIVE YELL project