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2024.1.15
【レビュー】クリエイティブ・リンク・ナゴヤ アートパーク
文:増田千恵(this and that/リア制作室)
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは、名古屋のまちや公共空間で市民とアーティストがともに活動する機会、表現が生まれる瞬間に出会う機会、表現があることの喜びを感じられる機会の創出を目指し、「クリエイティブ・リンク・ナゴヤ アートパーク」を開催いたしました。今回は、編集者の増田千恵さんによる当日のレビューをご紹介します。
【クリエイティブ・リンク・ナゴヤ アートパーク】
日時:2023年12月2日(土)11:00~16:00
会場:久屋大通公園 テレビトーヒロバ(名古屋市中区錦3-5)
主催:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ、名古屋市
イベント情報ページURL:https://creative-link-nagoya.jp/topics/1516/
■関連イベント:スケッチパーティ ドキュメント展の情報を公開しました!(2024.1.18更新)
→スケッチパーティ ドキュメント展(会期2024年1月23日~2月12日)詳細ページへ
■増田千恵(this and that/リア制作室)
しあわせに満ちた景色
青空とテレビ塔を見上げながら、アーティストが、子どもが、通りすがりの人びとが、芝生の広場で白い紙をひろげ、思い思いに絵を描く時間を過ごした。
土曜日の名古屋のまちなかに突如出現した創作の場は、画家っぽさを味わえる大小のイーゼルや大量の画材、DJ(MOOLA、yamica)が絶え間なく流す音楽の心地よさと化ける身(筒井響子×3¬chi5×田辺舞)によるパフォーマンスのざわめき、カフェ(Barrack、YANGGAO)やグッズショップ(LIVERARY Extra)といった立ち寄りやすさに彩られていた。
天候にも恵まれ、「スケッチパーティ」に参加を希望するひとの列が絶えないほどのにぎわいを創出し、表現することへの喜びと解放感に満ちた“絵を描く時間”は、それを見守る者たちのまなざしの温かさとあいまって、自由で幸福な景色をつくり出していた。
周囲の注目を集めたのはパラソルを背負いVRゴーグルを頭に装着してコントローラーを持った両手を指揮者のように動かす設楽陸と、イーゼルに向かいテレビ塔を観察してスケッチするオカザえもん。両者ともその姿形にまず目を奪われるが、次第に絵を描く身振りに意識がうつり、「自分も絵を描きたい」という意欲をかき立てていた。
加えて近隣の美術大学から参加していた学生たちのことも記しておきたい。彼らがみせたひとりひとりまったく異なる制作の仕方や周囲を気にせず集中する力は、ここなら誰でも“絵を描く時間”をもてるのだという安心感につながっていく。
彼らの態度に動かされて、のびのびと、真剣に、全身で絵と向き合う子どもたちや、眼の前にみえるものを素直に描きとめようとする参加者たちは、「白い紙に描くのが楽しい」「こういうことがしてみたかった」と笑顔をみせていた。
初心にもどる
対照的に、プロフェッショナルに活動をしているアーティストたちは戸惑いもみせていた。
“スケッチ”というあまりにも素朴で根源的な創作行為ゆえに、構築してきた作品のイメージや身につけた技術やアーティストとしての矜持をいちど保留にして、用意された画用紙のごとく真っ白の状態から“絵を描く時間”と向き合わざるをえないからだ。
参加アーティストのひとり、須田真弘が「描くことはみること、やっぱり初心にかえるね」と話せば、白い紙に描くのは久しぶりだという横内賢太郎は「絵画の進化の過程を、もういちど最初から味わうよう」と表現した。
ふだんから風景を題材にしている古畑大気とこいけぐらんじ(小池喬として音楽ライブでも参加)からは「気楽に取りくめる」「現場で描くのは新鮮で楽しい」と余裕が感じられたが、アーティストたちの多くが自分に言い聞かせるように「初心にもどって」ということを口にしていた。
「スケッチパーティ」の発端は、“外で一緒に絵を描いてみよう”とO JUNが口をすべらせたことだと「アーティスト座談会」で明かされたが、そのO JUN自身が「初心にもどって」持参した固形水彩絵の具と筆を手に風景と向き合えば、教え子でもある山口由葉は「先生が描いているところを直接みるのは初めてだから」と隣でパステルやペンを勢いよく動かしていた。
土屋未久と川角岳大は子どもの頃の気持ちやスケッチに熱中した体験を、森北伸は学生時代に同じ場所で行ったパフォーマンス・ペインティングを思い出したという。
Barrackの近藤佳那子は、場所を運営することと絵を描くことという自身の活動の両輪が同時に成立したことに感慨を抱き「むき出しの制作がさらけ出されているのが面白い」とカフェブースからみえる光景を教えてくれた。ひときわ試行錯誤していた染谷亜里可と鷲尾友公はそれぞれ「いったん広場から離脱したことにより再び描けるようになった」と身体の置き方を変えることで復調してみせた。
「絵を描くって、本当は楽しい」
「ふだんは制作環境に神経をとがらせるが、ここでは紙に虫がとまったり、子どもが寄ってきたり。絵を描くって、本当は楽しいことだったと浄化される思いだ」と大田黒衣美は言う。
何をどうみるか、何をどう描くか。横内の言葉どおり、絵画がたどってきた命題にあらためて応答することになった“絵を描く時間”は、いまここに生きていることを実感する瞬間でもある。
野外広場に身をさらし、制作行為のすべてをみられながら、なおも自身と深く向き合う、ということが容易でないのは想像に難くない。
アーティストたちの覚悟と勇気と(情けなさも含めて)、まちゆく人びとやアーティストを目指す学生たちの心に少しでも伝播していたら、と願う。
(写真:三浦知也)
この企画はアートの社会連携を推進するクリエイティブ・リンク・ナゴヤがまちなかで市民とアーティストの出会いの機会やアート鑑賞もしくは体験の機会の創出を通じ、アートの文化芸術の多様化やまちづくりへの貢献をアーティストと探る企画です。