社会連携事例紹介
レビュー
まちづくり
2024.4.2
【2023年度助成レビュー】名駅南地区まちづくり協議会「クリチャレ−名駅南クリエイティブチャレンジ−2023」
文・写真:関口威人/ジャーナリスト
2023年度に採択されたクリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成プログラムのうち、「社会連携」をテーマにした助成A・助成Bに採択された事業の模様を、4回に渡りご紹介します。第3回は関口威人さんによるレビューです。
【助成B】
助成事業名:「クリチャレ−名駅南クリエイティブチャレンジ−2023」
実施者名:名駅南地区まちづくり協議会
連携分野:まちづくり×美術・音楽
期日:2023年10月~2024年2月
会場:名駅南地区各所
「クリチャレ−名駅南クリエイティブチャレンジ−2023」
■関口威人 ジャーナリスト
名古屋はかつて「白い街」と歌われた。石原裕次郎が真っ白なキャンバスに彩りを加えるポジティブなイメージとして表現したそうだが、当の名古屋の人たちは整然としすぎて面白みのない街というイメージで自虐的に捉えてしまった。
では、「メイエキミナミ」はどんなイメージだろう。
戦後は荒んだ時期があったというものの、今はそこまでの印象はない。かといって名古屋駅の直近や栄の中心街の華やかさ、あるいは栄ミナミのような独自色は薄い。大半の人にとっては、やはりまだ限りなく「白い」イメージなのではないだろうか。
そんな街をクリエイティブに色付けしていこうというのが「クリチャレ」の狙いだといえる。
2016年に発足した名駅南地区まちづくり協議会によって始まった街づくりの活動は、三蔵通沿いの立体駐車場をリノベーションした拠点施設「クリばこ」が18年にオープンし、より目に見える形になった。
このスペースにクリエイティブな人たちを招いて交流する「クリさろ」を2年連続で開催。しかし、これからというときにコロナ禍で3年間の休止を余儀なくされ、22年10月に活動を再開したのが「クリチャレ」の流れだ。
この23年度は、前年も会場の一つだった地区内の小公園「祢宜(ねぎ)公園」がより積極的に活用された。第1弾として11月12日に公園内で開かれたのは、街なかでパフォーマンスや作品を展示するクリエイターを選ぶ審査会「クリチャレコンペ」だった。
喫煙者のたまり場として「たばこ公園」「灰皿公園」の異名も付いていたこの公園は、すでに人工芝を敷いてイメージチェンジを図っている。この日はさらに木の看板やイスとテーブル、モニターを設置し、青空の下で大人や学生が何やら真剣に話し合っている不思議な雰囲気を醸し出した。
集まったクリエイターたちも個性派ぞろいだった。
ヨガ講師を務める論田(ろんでん)彩乃さんはヨガを通じた地域活動の実績をプレゼンテーションした後、「実際にやってみましょうか」と休憩時間中にヨガを指導。参加者も審査員も輪になって、論田さんの動きに合わせて腕や背中を思いっきり伸び縮みさせた。コンペからして街を刺激するプレイベントになっていたといえるだろう。
カラフルなニット作品を手掛ける「ピンキューニット」ことスイトウユウコさんは、海外留学中のコロナ禍で編み物にハマっていった経験などを紹介。その独特の感性に審査員たちも惹かれた様子で「せっかくなら街灯にもニットをかぶせちゃったら?」などとアイデアを出し合った。
他にもパントマイムアーティストの魁士(かいし)さんらを含めて採用されたクリエイターたちが、12月から2月にかけて地区内で展示やパフォーマンスを披露することになった。
その間、11月24日には「クリチャレ・五千人祭」と銘打ったイベントが開かれた。「五千人」は名駅南地区の人口。街の人に総出で参加してもらうことを目指した試みの第一歩だ。
会場とした祢宜公園とクリばこ、三蔵通の歩道、ミュージカル劇場「四季劇場」前の車道などには、地元の人に呼び掛けて借りたイスやテーブルなどが置かれ、街の人たちが撮った写真をポストカードとして配布。祢宜公園前の車道には「名駅南の住人5000人でなにができる?」と呼び掛けるメッセージボードを立て、道行く人に思い思いのアイデアを付箋に書いて貼り付けてもらった。
クライマックスは、日の沈んだ祢宜公園でビルの壁面に映像を投影する「パラレル大上映会」。当日参加した人がスマホで撮影した写真がランダムに映し出され、走馬灯のようにクルクルと回る。
「大」と名付けたのは壁面を大画面として使うイメージからだというが、実際にはせっかくの「大」壁面を生かし切れず、やや迫力に欠けた。寒さもあって公園で鑑賞する人たちの姿はまばら。全日の参加者も5000人には及ばなかったそうだが、今後の「意気込み」を示す機会にはなっただろうと感じられた。
さらに寒さが増した2月後半には、屋内のワークショップと今年度の振り返りの会がクリばこで開かれた。
ワークショップには素材アーティストの村上結輝さんが招かれ、「コーヒーカス」を使ったオブジェづくりに挑戦。参加者との即興的な作業を楽しみながら、こうしたクリエイターが暮らしの中に溶け込む未来、すなわち名駅南地区での「アーティスト・イン・レジデンス」の可能性も探られた。
振り返りの会議もオープンな形で地区内外の人を招き入れ、クリチャレの意義と成果を披露。その上で「1年後の夜に名駅南で何をしていたい?」と投げ掛け、短冊型の用紙に記入してもらった。
「ビルの屋上で子どもたちと天体観測」「おしゃれなJAZZバーでどっぷり音楽に浸る」「一人でラーメン食べ比べ」…。ユニークなシチュエーションが次々に出てきてテーブルは盛り上がる。あっという間に時は経ち、終了後は実際に夜の街に繰り出していく参加者たちの姿があった。
どのイベントでも関係者や参加者の楽しそうな表情と、アイデアを出し合って深める姿が印象的だった。この数カ月の事業を通じても新たな人たちを巻き込み、街の将来について一歩踏み込んで考えてもらえる機会にはなっただろう。
一方で、まちづくり協議会の加盟企業17社の社員や家族たちすらまだ十分には呼び込めていないのが現実だといい、「5000人」を巻き込むというハードルの高さも浮き彫りになる。本来の「お祭り」のような、住民から湧き起こる「クリエイティブの力」もまだ感じられない印象だった。
それでも、真っ白だったこの街のキャンバスに、うっすらと下地になる色は見えてきたのではないか。これからさらに多くの人の手で色が塗り重ねられ、どこにもない深い色合いとなることを期待したい。