【CLN活動レポート】つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”  ♯2 若手アーティストたちによる成果報告会「私たち、こんなポートフォリオ作りました!」 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2024.4.11

【CLN活動レポート】つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”  ♯2 若手アーティストたちによる成果報告会「私たち、こんなポートフォリオ作りました!」

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成・支援事業の一環として開催した「つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”。3月23日に「♯2 若手アーティストたちによる成果報告会 私たち、こんなポートフォリオ作りました!」を実施し、助成C「キャリアアップ」に採択された皆さんを迎え制作過程や成果をお話しいただきました。
若手アーティストの育成にかかわる方々にも登壇いただいた、当日の模様をご紹介します。

 

つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”
♯2 若手アーティストたちによる成果報告会「私たち、こんなポートフォリオ作りました!」
(イベント詳細についてはこちら

日時:2024年3月23日(土) 14:00~16:00
会場:7th Cafe(ナディアパークデザインセンタービル7階)

 

プログラム
【1】採択者たちによる制作報告 アンケートから見る「ここが大変だった!」
【2】ゲストスピーカーに聞く「若手アーティストとポートフォリオ」
【3】採択者より質疑応答

 


 

【1】採択者たちによる制作報告 アンケートから見る「ここが大変だった!」

   登壇者:MITOS、嶺元大和、山口麻加、ヨダアミ
   司会:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ コーディネーター 半田萌

■精力的に活動する若手アーティストたちが登壇

半田: キャリア初期のアーティストの方々は、いろいろなお悩みをお持ちだと思います。クリエイティブ・リンク・ナゴヤの「助成Cキャリアアップ」では、ご自身の活動や実績を記録してアピールするためのポートフォリオ作りを支援しています。
対象となるのは39歳以下の若手アーティスト、文化芸術団体で、2023年度は8件が採択されました。今日はその中から4名の採択者を迎え、お話を聞かせていただきたいと思います。
では、自己紹介と普段の活動についてお話しください。

MITOS: 普段は油彩画を描いています。このたびのポートフォリオは、油彩画の仕事と並行して、約20年間ナイトクラブを拠点に制作をしてきたライブドローイングの記録集になります。

 

<MITOSさん(写真左)>

 

嶺元: トランぺッターです。もともとクラシックを勉強してきて、今はオリジナル曲を作曲し活動しています。カフェなどとコラボすることが多いので、名刺代わりになるポートフォリオが作りたいと思い応募しました。

 

<嶺元大和さん>

 

山口: 名古屋を拠点に版画の作品を作っています。今回の記録集は、昨年の展覧会に出品した作品が中心になっています。予算がついたことでこだわったものを作ることができました。

 

<山口麻加さん>

 

ヨダアミ: ボイスパフォーマーをしています。音楽はずっと続けていますが、完全即興演奏のアルバムは作ったことがありませんでした。年齢も37歳なので、今のタイミングしかないと応募しました。

 

<ヨダアミさん>

 

■個性やこだわりがあふれるポートフォリオに

半田:では、実際にどんなポートフォリオを作ったのかご紹介いただけますか?

MITOS: 2004 年からライフワークとして、ナイトクラブやライブハウス、アートギャラリーや美術館などで開催された多様なイベントにおいて、音楽に合わせて踊っている人や酔っ払いなどをモデルに、身体的特徴を描き続けています。ちょうど20年という節目にあたり、これまでの活動を断片的にまとめたポートフォリオを作りました。全88ページで、図版とともに名古屋造形大学の佐藤克久准教授にテキストを寄稿していただいたり、CLUB MAGOの新見篤史さんを交えて、活動を振り返る内容の鼎談も挿入しています。

 

 

 

半田: MITOSさんのドローイングは、ダンボールにアクリルで白く塗り、その上に描いていらっしゃってそれだけでも面白いと思いますが、クラブカルチャーに関する鼎談が入っているところがMITOSさんらしさですね。

MITOS: 個人的な記録集としてだけではなく、名古屋のクラブカルチャーの一端を記録するとともに、その変還にも焦点を当てました。

 

半田: 嶺元さんは、ポートフォリオをどのように活用しようとお考えですか?

嶺元: カフェや喫茶店とコラボする時に、どんな演奏をするのか紹介する名刺代わりにするのと、コンサートに来てくださった方へ販売もしています。

 

 

半田: プレスの枚数が想定より多くなったと聞きましたが。

嶺元: 300枚では足りないと活躍しているアーティストに聞いたので、1000枚にしました。コンサートでも3枚くらい買ってくださる方もいて、すでに200枚はけましたね。

半田: 全部オリジナル曲を収録されたのですね。

嶺元: コンサートでもオリジナル曲の方がお客さんの反応がいいので、自作曲を収録しました。レコーディングは予算的に1日で、8時間かかりました。

 

半田: 山口さんのポートフォリオについてご紹介ください。

山口: 展覧会の会場が岩瀬文庫という古文書を保存・展示する博物館だったので、出品作品は本をテーマに構成しました。その続きとなるように、ポートフォリオも本の形にしようと考えました。

 

 

半田: めくるごとにページの移り変わりがあって面白いですね。こだわったところは?

山口: 撮影もカメラマンの方に依頼して、ディテールや質感の部分が伝わるようたくさん撮ってもらいました。今後、海外のアーティストやアート関係の現場などでも紹介したいと思っていて、翻訳家の方にもお手伝いいただき英語でも表記しています。100部制作したのですが、その中の一部は特装版になっていて、実際の作品を挟み込めるようにしています。紙の手触りにもこだわりました。

 

半田: ヨダアミさんの申請書は、即興演奏はこういうものですという、熱いページから始まっていましたね。

ヨダアミ: まず、即興演奏の魅力を説明しなければ!と思いました。これまでも、海外の方といきなり本番で演奏ということをやってきて、言葉はわからないけど、音楽の中にその人の生き様や文化を感じてコミュニケーションできる。その魅力を伝えたかったのです。

半田: スタジオ以外でも録音されたのですね。

ヨダアミ: 当初はスタジオで2日間レコーディングの予定でしたが、1日目が終わってエンジニアさんが「これ、山で録った方がいいんじゃない?」と提案してくださって。鳥の声も、木々のざわめきも入った、自然の音と自分のコラボレーションのような曲になりました。山で録るのは夢でしたし、自分から出てくるものが全然違いましたね。

 

 

■アンケートから見るポートフォリオ制作の苦労

半田: 今日、ここにいらっしゃらない採択者の方も含め、制作後にアンケートを取りましたのでご紹介します。
これまでポートフォリオを作ったことがある方は7割、一番大変だったことは時間管理、続いて予算管理、制作管理でした。皆さんは何が大変でしたか?

<制作を終えた8名の採択者に行った「制作終了後アンケート」より抜粋(1)>

 

MITOS: 時間管理が難しかったですね。思いのほかまとめ作業に時間がかかってしまったのと、想定外のトラブルも重なり、結局のところ期日ギリギリにできあがりました。

嶺元: 僕は予算管理です。プレス代が物価高騰でかなり上がっていて、枚数を増やさなくても3,4万は高くなっていました。でも、販売することで回収できましたね。

山口: やはりスケジュールの管理が大変でしたね。テキストの編集に時間がかかり、結局、テキスト部分は自費で後日追加することになりました。そこは反省点であり、勉強になりました。

ヨダアミ: 私も時間管理ですね。子どもが二人いて、インフルエンザ、コロナと看病ばかりで。余裕を持ったスケジュールにはしていましたが、かなりずれてしまいました。

 

半田: 今後、完成したポートフォリオをどこに持って行って、誰にどうアプローチするかがとても大事なところだと思います。アンケートで一番多かったのが、「ショップやカフェの店頭に置いてもらうよう働きかける」という回答でした。皆さんはいかがでしょうか?

<制作を終えた8名の採択者に行った「制作終了後アンケート」より抜粋(2)>

 

MITOS: トークショーや活動してきたナイトクラブを中心に置けたらと思っています。

嶺元: 今年はホールや企業とコラボしていきたいですね。夢は、愛知県芸術劇場の大ホールで、オーケストラをバックにソロをやること。愛知のアーティストたちと実現したいです。

山口: 海外のアートブックフェアなどで紹介していきたいです。

ヨダアミ: 自分で直接売り込もうと思っていましたが、サブスクにアップした時点で聞いてくださる方がいて、ほかの方に勧めてくれて売れることもあります!うれしいですね。

 

 

【2】ゲストスピーカーに聞く「若手アーティストとポートフォリオ」
   楠部享子氏 (株式会社メニコンビジネスアシスト〈MBA〉 制作プロデューサー)
   居松篤彦氏(株式会社サイズ 代表取締役)
   司会:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ ディレクター 佐藤友美

■ポートフォリオをいかに使うか、アーティストとしてどう生きるか

佐藤: ここからは普段アートや音楽の領域で、若手アーティストの育成や活躍の場を提供されているお二人に、採択された方々へアドバイスをいただきたいと思います。
まず、自己紹介からお願いします。

 

居松: 私は画廊をやっていまして、ギャラリーの運営や絵の売り買い、作品のマネジメント・プロデュースなど、いろいろなカタチでアーティストとかかわってきています。ギャラリーでは若手に限らず、70歳80歳のアーティストの作品集を制作したこともあります。昔は画集も1000冊以上発行することが多かったのですが、今は本を売るのが難しい時代です。ただ、時間を超えて人に届くものなので、流通の形もどんどん変わっていくべきですし、オンデマンドで直接売る仕組みも必要じゃないかと思っています。

 

 

楠部: 社名に「メニコン」と入っていますが、私は直接「見る」というより心の目を養っていただきたいという思いで、クラシックを中心にコンサートやオペラ、ミュージカルなどの舞台芸術を企画・プロデュースしています。メニコンのHITOMIホールでは自主企画を行っているので、アーティストの方々とお話しする機会があると、何かコラボレーションできないかビジネスチャンスを考えています。もう一つ、若手クラシック演奏家を育成する、スター・クラシックス協会でもプロデュースしています。

 

 

佐藤: このように、ビジネスの視点で若手アーティストを見ていらっしゃるお二人に、どのような観点でポートフォリオを見ているのか、ポートフォリオを活かしてどのようなキャリアプランを抱いているとお二人のような方の目に留まるのかお聞かせください。

 

居松: 美術においては、ポートフォリオは作家が自分の制作物やキャリアをギャラリーやお客さまに説明する作品一覧という意味合いが思い浮かびます。特に欧米などではキャリアが重視されるので、そこをいかに整理して伝えるかも重要なところです。
MITOSさん、山口さんのポートフォリオは、自らの創作物として制作されているので、どちらかというと作品に近いと思います。アートブックフェアやアートオンペーパーでは、本や紙が海を越えて海外の人に評価されるケースも多いので、手に取ってみようと思わせる、本が発する雰囲気も大事でしょうね。

 

楠部: 先ほどポートフォリオを名刺代わりにとおっしゃっていましたが、私はCDよりも人、その人が持つ物語を最初に知りたいと思っています。自分が何のために音楽や美術に携わっているのか、もちろん作品が良いか悪いかという客観的な尺度はありますが、人間としてどうなのかというところから入らないと腹落ちしないのが正直なところです。自分がどう生きたいのか、この音楽や作品が社会の意義となることがあるのかないのか、ということを聞いてみたいですね。

 

佐藤: 非常に重要なことをおっしゃっていて、要は、ツールは必要だけれども、基本的にコミュニケーションしたうえでクリエイションすることが大事だということですね。
会場の皆さんも気になっているところだと思いますが、お二人のような方とクリエイションしたいけど、出会うきっかけがないという方は大勢いると思います。今日のような場に出てくることも一つのきっかけではありますが。

 

楠部: それが苦手なのがアーティストかもしれませんね。ポートフォリオを作ることは、目的ではなく手段なので、それをどういう風に人に手渡すのかが重要です。今日のように手に取って見てもらう、説明する機会をつくる。それは本当に地道なことですが、種はまかないと花は開きません。出会うきっかけは電話でもメールでもいいし、YouTubeで検索することもあるので、自分を信じるならしっかり発信してほしいですね。

 

居松: そもそもアーティストって引っ込み思案が多いでしょ、というところから、今はどんどん外に出て営業する人の方が凄いとされる時代になっています。でも、僕はそういうのはよくわからないというか。独善的な考え方ですけど、お金にするために描いた美術は意味がないと思っています。お金にしようという気持ちから入ると、ものが良くなくなるよねっていつも話しています。そのかわり、自分はそれをお金にするのが仕事なので、そのためには何でもします。もちろん、人は生きていかなければいけないし、人それぞれいろいろな回答があっていいとは思っています。

 

【3】採択者より質疑応答
   進行:クリエイティブ・リンク・ナゴヤ コーディネーター 齋藤学

質問
山口: 先ほど本が売れないというお話がありましたが、何か売るための新しい方法はありますか?

回答
居松: 今は、電子書籍がいかに美術に入ってくるか注目しているのですが、大手企業も含めあまり参入していない印象です。写真集や画集の電子化、グローバル化は、今後とても可能性がある分野だと思っています。ただ、ものの美しさとどう折り合いをつけるかが重要でしょうね。

 

質問
嶺元: 僕は九州が地元で、名古屋はエンターテイメントが難しい土地だと思うのですが、名古屋でしかできないクラシック文化を創っていきたいと考えています。何かアドバイスをいただけませんか?

回答
楠部: 難しいですね。現代曲に象徴されますけど、新しいものを作るって頭打ちですよね。だからって新しいことにチャレンジしない意味はないわけで、皆さんいろいろトライしていると思うのです。そのトライがクリエイティブで、人の想像をかきたてて、それを直にふれることであたたかさや強さを感じて、明日を生きる糧になる。そんな文化芸術の役割をみんなで一緒に考えていきたいといつも思っています。そうしないとAIに飲み込まれてしまうし、すぐ戦争になってしまう。「戦争をしない」強さは、多様性や共感性を醸成する文化芸術こそが生み出せるのだと勝手に思っています。九州出身なら、名古屋の人が気づいていないものを掘り起こせると思いますよ。でも、小手先や戦術ではなく、理想のような目に見えないものを大事にする活動であってほしいですね。自分が信じることが大事。信は力ですよ。