【2024年度助成レビュー】ささしまスタジオ「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造〜ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて〜」文:安住恭子/演劇評論家 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2024.10.24

【2024年度助成レビュー】ささしまスタジオ「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造〜ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて〜」
文:安住恭子/演劇評論家

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2024年度助成プログラムのうち、「社会連携活動助成」で採択された事業の模様を、6回に渡ってご紹介します。初回は安住恭子さんによるレビューです。

 

【社会連携活動助成B】
助成事業名:「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造〜ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて〜」
実施者名:ささしまスタジオ(有限会社イメージ設計)
活動領域:演劇
連携先の分野:まちづくり
実施日:2024年9月17日(火)~23日(月・祝)
会場:ささしまライブ内 1号公園・名古屋高速高架下広場

 


 

■安住恭子 演劇評論家

 

 

 ユニークな野外劇を見た。『オイスターズがささしまの公園でつくる野外劇』(平塚直隆作・演出)だ。ユニークさとは、この長いタイトルをはじめ、今普通に上演される演劇や野外劇の常識を次々と打ち破って創られた作品ということだ。その結果、あらゆる意味で演劇の原点を思わせた。

 

 

 まず、演劇の基本であるアクティングエリア/舞台の問題がある。通常の演劇は劇場にある舞台で上演される。野外劇においても、それなりにはっきりと舞台空間が作られることが多い。だが今回の場合は、あおなみ線のささしまライブ駅にほど近い、ささしまライブ地区の1号公園という空間を、そのまま舞台とすると設定されたのだ。愛知大学や中京テレビなどのビルに囲まれ、その向こうには中川運河の掘止があるという一帯で、普通に人が行き交う空間である。そこに数十人の客席が設置されたことで、その前面すべてを舞台とみなすという目論見だ。ユニークさは、そのこと自体から生まれた。そして、そのビルディングに囲まれた環境は、野外劇というよりは街頭劇と思わせた。

 

 

 

 さて、このささしまライブ一帯は、今なお開発途中の公共空間で、さまざまな法律や条令のしばりがある。そのため、音響が使えず、照明も制限されている。 今時、劇場内でもそれらはふんだんに使われるのが普通だし、ましてやより条件の悪い野外劇においては、この2つに頼るのが常識だ。そのハシゴを外された。あらら。

 

 まずは音響が使えないから、出演者たちの声だけが頼りだ。セリフは大きな声で話し、音楽や効果音も、彼らのハミングやスキャットや歌ということになる。照明も暗いから、ビルや街明かりだけを頼りに見せていくしかない。 この過酷な悪条件は、シェークスピアの時代やもっと以前の、お城の中庭で上演されたという中世の演劇を思わせた。当時だって、かがり火を焚いて照明としたと思うのだが。演劇の原点と言ったのは、その意味である。しかしながらというか、それゆえにというか、それらをすべて引き受けて創られたこの野外劇は面白かったのである。

 

 

 主人公は、演劇をやりたいと思っている大学生の桜子。誕生日の前日、彼女は<勇者>と書かれた札を首にかけられて、お城に行って王様に会えと、両親に命じられる。これはロールプレーイングゲーム「ドラゴンクエスト」の世界に飛び込むことを命じられたわけで、魔王と闘う勇者の役割を与えられたのだ。そんな役割は不本意だし、行きたくないとごねる勇者桜子。そのグズグズする彼女の周りに、王妃や兵士などさまざまなキャラクターが次々と登場し、次第次第に魔王の元へ、という運びだ。といっても最終的に魔王と闘うのは別人で、彼女はそれを力一杯応援するだけなのだが。

 

 

 

 で、この見せ方が面白い。桜子が首に<勇者>の札を下げると勇者になったように、役名の札を下げるとその役になるというルールだ。また、勇者桜子も何人かの演者が次々交代していったり、王妃の役は一度に7人も登場したりと自由自在。まさに子供がごっこ遊びをしているように見せていく。そしてそのこと自体も演劇の原点といえる。この楽しさに加え、はずしたりとぼけたりの平塚独特のセリフの妙で、笑いが絶えない。さらに、客席がグルグルと360度回るのだ。つまり、ビルや運河やささしまライブ駅が背景として変わっていく。通行人かと思うと役者だったり、役者かと思うと通行人だったりという、この空間ならではのスリリングな楽しさもある。

 

 

 

 まさに、作り込むことができない裸の演劇だったからこその、楽しさ、面白さだった。そして、裸の舞台でも虚構は成立したのである。それを成立させたのは、平塚演出の力技だったことはもちろんだが、それぞれが普段着に簡単な衣装を着けただけで、さまざまな役を次々とこなしつつ、客席をまわし、音響効果も担った23人の出演者たちの力でもあった。そしてそのことは、演劇の原点を目の当たりにさせたと同時に、虚構は現実のすぐ隣にあることも実感させたのである。

 

 

 

 

(写真:今井隆之)

 

■ささしまスタジオ志水久雄さんとオイスターズ平塚直隆さんへの事前インタビュー記事もあわせてご覧ください。

採択事業者インタビュー① ささしまスタジオ「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造〜ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて〜」