パイロット事業
名古屋アート情報
インタビュー
2024.10.25
【インタビュー】アートフェア「NAGOYA ART COLLECTION 2024」実行委員会
竹松千華さん(GALLERY IDF)、天野智恵子さん(AIN SOPH DISPATCH)
クリエイティブ・リンク・ナゴヤは、2024年度のパイロット事業として、アートによる金山のまちづくりの可能性を提示する「アートリンク金山」を開催します。今回はその一環、旧名古屋ボストン美術館の活用の実証実験として行う新しいアートフェア「NAGOYA ART COLLECTION 2024」実行委員会の竹松千華さん、天野智恵子さんにインタビューを行いました。
<イベント情報>
「NAGOYA ART COLLECTION 2024」
開催日時:2024年11月2日(土)~ 4日(月・祝)
会場:金山南ビル美術館棟4階
入場料:1000円
*アートフェア公式サイトはこちら(フェア公式ウェブサイトへジャンプします)
―――今回の「NAGOYA ART COLLECTION 2024」の内容、どのような来場者を想定されていらっしゃるか、お聞かせください。
天野 プライマリーギャラリーで現代美術を主に扱っている名古屋市内の14ギャラリーが参加します。アートフェアですので、各ギャラリーがセレクトしたアーティストの作品をブースに展示して販売するというような形です。アートを楽しみ、かつ、アート作品の購入もできる機会になります。
来場者は、アートコレクター、美術関係者、アーティスト、美術大学生や企業の方々など、名古屋のアートシーンを楽しんでくださる様々な来場者を想定しています。
―――各ギャラリーがおすすめの作家さんを出品されるということでしたが、作品の傾向はありますか?
天野 今回は名古屋にゆかりあるアーティストを一人はセレクトの中にいれてください、と各参加ギャラリーに対してお願いしています。名古屋出身だったり、名古屋の大学を卒業していたり、名古屋で今までの活動実績のあるアーティストが出る、というのが特徴だとは思います。とにかく名古屋を盛り上げたい、という気持ちがありますからね。
―――価格帯はどの程度でしょうか。
天野 著名なアーティストの作品は高額なものもありますが、買いやすい価格帯のものもあり、初めてアートフェアにご来場された方も、いいなと思った時にポケットマネーで買える価格もあると思います。
竹松 コレクション初心者の方から、玄人のコレクターの方まで楽しめるフェアだと思います。アートフェアをきっかけに地域のギャラリーに行くようになる、そういう形でアートに興味を持つ人が増えてほしいというのが、開催の目的でもあります。
―――名古屋では80年代からいろいろなアートフェアが開催されています。皆様から見た名古屋におけるアートフェアのこれまでの流れについて、どのように思われますか。
天野 一番初めは1988年ですね。「名古屋コンテンポラリーアートフェア(NCAF)」が電気文化会館のギャラリーでスタートし途中から名古屋市民ギャラリーへ場所を変えて、2003年までの16回、開催されました。しばらく時期を置いて、「ART NAGOYA」というホテルフェアが2011年から2023年までの計13回開催されました。名古屋キャッスルで10回、ホテルの建て替えがあったので、11回目からは名古屋観光ホテルで開催されました。
東京のアートフェアの草分けだと言われている「国際コンテンポラリーアートフェア(NICAF)」が1992年スタートなので、おそらくですけど、国内で一番早いのは名古屋コンテンポラリーアートフェアだったんじゃないかなと思うぐらい。特に80年代後半から90年代初頭にかけては、現代美術といえば名古屋だっていうすごく活発な時代もありましたが、バブルが崩壊して、2003年に名古屋コンテンポラリーアートフェアが終了しました。2011年から「ART NAGOYA」が開催されるまでが、名古屋のギャラリーの少し低迷期といいますか、業界が静かになっていた時代がありました。
―――業界全体の勢いがアートフェアの開催に、反映されているのですね。
天野 そうですね。名古屋でも名古屋画廊さんとかギャラリーHAMさん、昔のアキライケダギャラリーさんとか、ギャラリーたかぎさんとか、白土舎さんなどが、80年代90年代に名古屋の現代美術界をリードされていましたがその後、ギャラリーが増えなくなった時期がありました。そして、ケンジタキギャラリーさんや、それこそ私たちの世代のギャラリーが増えてきてから2011年の「ART NAGOYA」のホテルフェア開幕という流れがあるかと思います。
竹松 うちは2002年に、新しく始めるギャラリーが全然いない時代にポッと始めました。私がその時32歳だったんですけど周りは「小娘が何をはじめるんだ」みたいな(笑)。
天野 空白の時代がありましたね。うちは2006年にオープンだったのですが、その辺りからJILL D’ ART GALLERYさんがでてきたり、次の世代の人たちがオープンするようになりました。ただ、2023年に「ART NAGOYA」が閉幕してから、また低迷する時代に突入しては良くないっていう危機感はすごく持っていましたので、今回は本当にすごくいい機会だと思っています。
やはりアートフェアがあると活性化にもつながると思います。若い世代がアート関係の仕事をしたいとか、ギャラリーをやってみたいって思うような機会になればいいなと思っています。
―――昔と今と、アートフェアのありようは変化していますか。
天野 私は1996年からNCAFの事務局を担当していたギャラリーでアシスタントしていましたので、アートフェアの事務局スタッフを少し経験させてもらっています。現代美術の実力のあるギャラリーがたくさん出展されて、ギャラリーのイチオシ作家の個展形式で魅せる、という展示が多かったような気がします。現在のアートフェアは、幅広い方がコレクションする楽しさを味わえるというようなアートフェアに変わって来ています。
竹松 13回続いた「ART NAGOYA」のおかげで、アート作品は購入できるものなのだという認識が浸透してきたように思います。
天野 NCAFの頃は、作品価格もオープンになっておらず、 本当に一部のコレクターさんがコレクションするためのもので 、私たちが買えるっていう感覚がなかったかもしれないですね。
―――名古屋の代表的な二つのアートフェアは、時代とともにそれぞれの役目が少しずつ違っていたのですね。現状としては、名古屋にある現代美術のギャラリーの数や形態は、東京や大阪に比べていかがですか?
竹松 人口が違うのですが、名古屋は割と多い方なのかな。街の大きさ的には程よい感じだと思います。ひと口にギャラリーといってもいろいろなタイプがありますが、プライマリーギャラリーは今回のアートフェアに出なかったところも含めると20から25ぐらいはあるのかなっていう感じですね。
天野 レンタルギャラリーやカフェギャラリーなどギャラリーの形態は様々ですが、プライマリーギャラリーは東京や大阪に比べてやはり数的には少ないとは思います。
でもどちらも大事なジャンルです。アーティストもいろいろなスタイルの方がいるのでレンタルギャラリーやカフェギャラリーの重要性もあると思います。しかしアーティストを発掘育成し、美術業界的価値を保ち、美術館と連携するという流れには、プライマリーギャラリーの重要性がありますね。
―――名古屋や近郊にはいくつか美大があり、若い美術作家がたくさんいるかと思います。プライマリーギャラリーと若手作家の育成について、どのような関係がありますか。
竹松 名古屋は美大がわりと多いですね。学生さんが学外で展示するときにはカフェギャラリーやレンタルギャラリーで個展やグループ展を開催することが多いです。私たちは卒業制作展も含め、そういった場所に足を運び、面白そうだ、成長しそうだという人をスカウトしてきます。
私も美大を出て絵描きをしていた時期があるんですけど、その頃から比べると今の世代はずいぶん恵まれていると思います。私たちの頃時代はレンタルギャラリーが主流で、会場を借りるのに銀座で1週間30万円くらいかかりました。場所貸しだけで営業もしてくれないので、自分たちで毎日在廊するのが普通でした。地道にレンタルでの発表を続けて、いろんな方の目にとまって売れるようになったら企画で、というようにかなり下積みが長かったです。
今は、プライマリーのギャラリーが若い作家を扱うことが普通になってきたので、大きく変わったと思います。私がギャラリーを始めたときは、「小娘が若い子なんか扱って儲かるわけないじゃん」って言われていたのが、今はそうでもなくなってきています。
―――今回、アートフェアがあることによって他の地域の方々も名古屋に来て、今の潮流を見に行く情報交換の場になることも期待できますよね。
竹松 名古屋のギャラリーって点在しているんですよね。回ろうと思うと広い範囲にまたがります。それは名古屋では自分の地所でギャラリーをやってる方がわりと多いからかもしれません。
天野 80年、90年代は伏見・栄界隈にギャラリーが集まっていましたが、今は、私は亀島で、GALLERY IDFさんは本郷で、東山線の端と端に位置しています。
竹松 アートフェアだと、一箇所に全てのギャラリー集まりその時おすすめのイチオシ作家を見せてくれるのが、いいところですね。
―――現代美術の作品をコレクションする魅力や、美術の力についてお伺いできますか?
天野 アーティストは自分しか表現できないテクニックを、常に模索しながら制作しています。私たちの想像を超える作品を制作しているアーティストに魅力も感じますし、今までにない新しい世界を見せてもらえると思います。また、展覧会に行くとアーティストに会うこともできます。直接作品のコンセプトや制作方法を聞き、共感しながらコレクションすることができるのが現代美術の魅力ですね。
竹松 その土地の特徴やアイデンティティー、歴史みたいなものを汲んだ作品でまちを盛りあげるのも可能だと思います。
―――今回、ギャラリーの皆さんでアートフェアの事務局を引き受けられたのはどのような経緯だったのでしょうか。
天野 大阪や福岡、名古屋もそうですが、自分たちの拠点をアートで活性化させたい、美術業界の発展も含めて何とかしなければと思っているギャラリーが集まってアートフェアを立ち上げているケースが多いですね。NCAFはそうでした。
竹松 「ART NAGOYA」は閑散期に何かやってくれないかと、ホテル側から広告代理店さんに依頼があって始まったもので、そういった始まりは少し珍しいです。
天野 その「ART NAGOYA」が昨年閉幕して、私たちもずっと気にかかっていて、何か違う形でフェアを立ち上げられないかとは話をしていましたが、良い場所が思い当たらず、ストップしてしまっていました。
竹松 本当に。ずっとそんな話をしていたところに、クリエイティブ・リンク・ナゴヤさんが、旧名古屋ボストン美術館でのお話を持ってきてくれたという形でした。
天野 私たちもアートフェアに出展したことはあるけれども、運営した実績はありません。今回は本当にいい機会で、どのような形で運営していくべきか模索しつつ、いい形が整えば、継続っていうことも実現しやすくもなってくると思います。
―――あいち2022芸術監督の片岡真美さんがインタビューで美術館、芸術祭、アートフェア、この3つがうまく機能してアートのエコシステムを形成していくことが重要だとおっしゃっています。今後こうしたエコシステムを名古屋そして愛知県に作っていかなければいけないと思うんですが、この地域には前者の2つは一応ある。しかし3番目、アートフェアがないという話をクリエイティブ・リンク・ナゴヤでも以前からしていました。
竹松 それはすごく感じます。京都はそれがよく回っていると感じます。京都市も芸術文化に投資していて、住んでいる方々の意識も本当に強い。アートフェアもお城やお寺、文化財的な建物などで行われたりして、文化や芸術が守られている感じがする。それを学ぶ学生たちも大学も守られている。名古屋には名古屋の文化があるわけで、それを活かしながら文化芸術面での盛り上がりが欲しいですね。
―――それも含めて、経済活動の中にアーティストを組み込み、事業の収益をアーティストに還元していくギャラリーの役割は重要だと思います。ご自身が担っている社会的重要性についてのお考えをお聞きかせください。
竹松 商いがなく作品を発表するだけではアーティストは食べていけないです。アーティストが育ち、生活できるようにギャラリーや行政、美術館、企業などさまざまな力が絡み合ってシステムが成り立っていくのだと思います。
天野 アーティストがいて、作品をコレクション するコレクターがいて、その関係を繋ぐギャラリストがいる。誰が欠けても商いは成立しません。三者が納得した上で成立し、経済活動に繋がっていくのだと思います。
アートフェアにはコレクターだけでなく、美術館関係者の方も良くいらっしゃいます。美術館・博物館があり、芸術祭があり、作品を流通させるアートフェアがあるからこそ、その土地の文化が発展していくのは確かだと思います。
事業名:NAGOYA ART COLLECTION 2024
主催:アートリンク金山実行委員会(構成団体:名古屋市、クリエイティブ・リンク・ナゴヤ、公益財団法人名古屋市文化振興事業団)
企画・運営:NAGOYA ART COLLECTION 2024 実行委員会