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2024.12.2
採択事業者インタビュー④ 鈴木一絵「なごやのハラルフードを深掘りするアートプロジェクト」
鈴木一絵さん オルタナティブスペース「Q SO-KO」にて
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは2024年度も助成事業を実施しています。そこで「社会連携活動助成」で採択された事業(助成A×5件、助成B×1件)を6回にわたってご紹介します。社会連携活動助成A・Bの詳細はこちらをご覧ください。
第4回は鈴木一絵さんにお話を伺いました。
■ 事業名 なごやのハラルフードを深掘りするアートプロジェクト
タイからアーティストを招聘し、名古屋でのハラルフードやインバウンド事情のリサーチを行い、それらの成果として、ハラルフードに関するイベントおよび作品制作・発表を行う。
詳細については下記URLからご確認ください:
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プラット・ピマーンメーン レジデンス成果展オープニング&アーティストトーク:参加申し込みフォームはこちら(Googleフォームが開きます・ログイン不要)
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イベント情報ページ:SEASUN公式サイト
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公式Instagramアカウント:@seasun__art
■ 採択区分 社会連携活動助成A
■ 採択金額 ¥1,000,000
■ 実施者名 鈴木一絵
■ 活動領域 美術
■ 連携先の分野 観光、国際交流
■ 期日 2024年11月16日(土) 15:00-16:30 Coffee with the Artist ― アーティストによる自己紹介&自家焙煎タイコーヒーのご提供 2024年11月24日(日) 15:00-16:30 ミニレクチャー「ハラルって何?イスラム文化について知ろう」講師:西直美(タイ研究/徘徊アカデミア) 2024年12月7日(土) 16:00-17:30 レジデンス成果展オープン&アーティストトーク 2024年12月7日(土)~2025年2月9日(日) 11:00-18:00(定休日:火・水・木) レジデンス成果展
■ 会場 Q SO-KO(名古屋市中川区外新町2-84)
【実施者プロフィール】
東南アジアとのアート交流プロジェクトSEASUN(シーサン)主宰。国際文化交流事業を実施する機関での勤務を経て、2019年よりインディペンデントのコーディネーター・企画者・通訳。2023年3月に、名古屋市中川区にある古い倉庫を改装し、工房/イベントスペース機能を併せもったオルタナティブスペース「Q SO-KO」をオープン。同スペースを拠点に、東南アジアのアーティストとの協働プロジェクトの企画制作や表現活動の紹介などを行っている。
―――事業の概要についてあらためて教えてください。
鈴木 ハラルフードをリサーチしてアート作品にするのと、そのアウトプットをもとにインバウンドに何かしら結び付けていく、というのが事業の概要です。ですので、現在は名古屋市内のハラルレストランに調査に行ったり、その周りのコミュニティについてリサーチをしたり、と少しずつ進めています。
「Q SO-KO」キッチンスペース
―――東南アジアからのインバウンドはどのような状況でしょうか。
鈴木 私は旅行業者ではないですが、円安も相まって、日本のインバウンド業全体が富裕層向けのハイエンドから少しずつ、中間層へと対象を拡大していると聞きます。イスラム圏でいうと、マレーシアやインドネシアのお客さんが増えているそうです。特にインドネシアは人口も多いですし、日本に来る人もこれからもっと増えていくと思います。
見たいものがどれほど日本国内にあったとしても、食べるものが楽しめないと旅行をしようと思いづらいですよね。東京、大阪はハラルフードをビジネスチャンスと捉えて、富裕層だけではない幅広い層をターゲットにした飲食店も数多くあるようです。名古屋での具体的なリサーチだと、例えばハラル対応をしている大久手山本屋では、潜在的なニーズがたくさんあるということで、インドネシアのジャカルタに来月支店をオープンするそうです。
―――名古屋のハラルの食文化をテーマにされていますが、ハラルに焦点を当てた意図は何でしょうか。
鈴木 もともとタイのアーティストであるプラット・ピマーンメーン Prach Pimarnman さんと一緒に仕事をしたいと思っていたのですが、日本で何かやってみたいことがあるか彼に話をしたときに、去年大阪に旅行に来たときのことをききました。大阪ではハラルのレストランが名古屋よりたくさんあって、日本人が経営しているハラルの焼肉屋さんもあったということです。万博をビジネスチャンスだと思って、ムスリムではない日本人が観光客向けにハラルのレストランを経営している。タイでは仏教徒がハラルのレストランを経営することはなく、ムスリムがやるのが当然なので、面白いと思ったそうです。
そこで私は、プラットさんと一緒に仕事をするならば名古屋のハラルをリサーチしたいと、最初の雑談で提案しました。名古屋では2026年にアジア競技大会があり、インドネシアやマレーシアからの観光客が増える見込みもあると考え、食を切り口に名古屋の文化をリサーチすることを事業のテーマにしました。
―――プラットさんの作品や活動にはどのような魅力や特徴がありますか。
鈴木 国民の9割が仏教徒であると言われるタイの中で、マレーシアの国境の近くにイスラム教徒が大多数を占める地域があります。私は以前からそうした地域で活動しているアーティストに注目してきました。最近ではタイのアートシーンでもこの地域のアーティストが注目を集めるようになってきています。
また自分がこのレジデンス場所である「Q SO-KO」を始めたこともあり、同じようにスペースを自ら運営しているアーティストと一緒に仕事をしたいと思っていました。プラットさんは地元でアートスペースとカフェを経営しながら頑張っていて、作品もとても面白いです。彼自身、バンコクで生まれてタイ最南部のナラーティワートに移り住んで育ったというバックグラウンドを持ちます。さらに彼の母方の祖先はバンコクの運河建設のために南部から連れて来られた人たちで、その歴史を自分のルーツと結びつけた作品も制作しています。
タイは近代国家形成の過程で、戦争の末にシャムが南部のパタニ王国を併合し、その結果として南部に住んでいたマレー系ムスリムの人々がバンコクに労働力として連れてこられたという歴史を有します。しかし、こうした歴史は教科書で習うことはなく、広く国民に共有されている歴史ではありません。プラットさんは自分のルーツとタイの歴史を交差させて語る作品を制作する、数少ないアーティストの一人だと思っています。
(左から)鈴木一絵さん、プラット・ピマーンメーンさん 来客者に自ら焙煎したコーヒーを淹れている
―――アーティスト・イン・レジデンス形式での実施にはどのような狙いがありますか。アーティストに対して、どのような体験を提供したいと考えていますか。
鈴木 一定期間レジデンスに住んでもらうことで、旅行では見られない地域の深い部分に触れてもらえるメリットがあります。また、住んでいることで、アポなしで訪れた人と偶然出会ってお茶を飲むような機会も生まれます。
とはいえ、ここ(Q SO-KO)の周りの人にチラシを配ってもなかなか来てもらえないので、明日は外でコーヒーを淹れて、道行く人に「コーヒーを飲みませんか?」と声をかけてみようと思っています。私は知らない人に声をかけるのがあまり得意ではないのですが、プラットさんのようなアーティストがいることで、地域に自然に介入できるチャンスが広がると感じています。
このようなアートプロジェクトやレジデンス事業などは、一朝一夕で住民の方々が興味を持って振り向いてくれるとは思えないので、少しずつ時間をかけて進めていくつもりです。
プラットさんが焙煎したタイのコーヒー 11月16日に実施したトークイベントで来場者に提供された
―――ハラル食文化をアートで取りあげることの意義や、表現する際の工夫について教えてください。
鈴木 今回選んだアーティストが以前からお茶を振る舞う作品を制作していたり、コーヒーを自家焙煎してお店を運営したりしたりと、もともと「食」がテーマから外れることのない方でした。先ほどもお話ししましたが、彼は日本のハラル料理店に興味があり、それをテーマにしたリサーチを基に作品を制作したいという意向があったので、今回はそのテーマを尊重しつつ、リサーチを通じて面白い展示が生まれることを期待しています。具体的な展示方法や作品の内容についてはアーティストの腕に委ねています。
ハラルフードは主にイスラム教徒という特定の属性を持つ人々が扱っています。日本人がインバウンド需要を見込んでビジネスとして始める場合もありますが、多くはイスラム教徒の方々が関わっています。プラットさんはもともと人の移動や移民に関心があるので、そういった要素を結びつけてストーリーを紡ごうとしています。
プラットさんは名古屋にも大阪のようにハラルフードを提供する日本人経営の飲食店がもっと多いと思っていたようです。現時点では、インバウンドやビジネスチャンスに注目している日本人ビジネスマンは名古屋ではそれほど多くない印象です。まだリサーチは続けていますが、例えば、愛知県が発行しているムスリムレストランマップに掲載されている店も、特にハラルをビジネスチャンスとして捉えているわけではなく、普通に日本食を提供しながら結果的にムスリムも受け入れている、というスタンスが多いようです。そのため、名古屋でハラル料理を提供しているのは、海外ルーツを持ち、名古屋でビジネスを始めた人たちが多いのではないか、という方向にリサーチが進んでいる状況です。
名古屋でもハラル処理された食肉が販売されていて、それを活用すればビジネスチャンスになるはずですが、多くの人がその可能性に気づいていません。名古屋モスクの方も同様のことを話しており、「実はハラルの鶏肉を出しているお店はけっこうあるよ」とおっしゃっていました。こうした情報を外に発信すれば、イスラム教徒の観光客が増える可能性があるということで、レストランに対して情報提供などを行っているとのことです。
―――いまだリサーチでまだ展示の作品は作り始めてない段階ですか。
鈴木 まだ制作には取り掛かっていませんが、構想を進めている段階です。どのような材料を使い、どのように実現するか試行錯誤しながら検討しています。
「Q SO-KO」展示スペース トークイベントも行われている
―――名古屋でのハラル食文化に対する一般的な理解や興味は、現在どのような状況だとお考えですか。
鈴木 どうでしょうね。現在、Aichi Now にインタビューをお願いしようと考えていますし、今週末にはミニレクチャー形式のイベントを予定しています。また、案内のチラシを持ってまわると、関心があるという声をいただくこともあるので、ハラルフードに興味を持っている方は一定数いると思います。だた、多くの方は「聞いたことはあるけど、詳しくは知らない」という状況ではないかと感じています。名古屋は経済規模は大きいものの、大都会というわけではありません。どこのレストランでも外国人客が多いという環境でもないため、ハラル食文化については「なんとなく知っているけれど、よくわからない」という印象を持っている人が多いのかなと感じています。
食べ物は誰にとって必要なもので、ハラルフードも決して遠い存在でないことは、実際に食べてみればわかります。確かに初めて羊肉を食べるなどの経験はあるかもしれませんが、味わってみると意外と共通点があったり、何かに似ていると感じたりするものです。そうした「食べてみる」という体験が入口となり、ハラルフードや食文化の違いなどに興味を持つきっかけが広がると良いですね。
―――この事業を通して来場者に体験してほしいこと、伝えたいことは何でしょうか。
鈴木 私は、アートは何かを伝えるためだけに作るものではないと思っています。しかし、プラットさんがもともと関心を持って取り組んできた、自分のルーツに関わる国の歴史や移動する人々についてのテーマが、名古屋でも彼の表現したいこととの接続点があって、それが生活しているだけでは気づきにくい名古屋の一面を知ることや、他者理解への良い入口になると考えています。
名古屋は本来とても多様で、さまざまな人々がそれぞれの生活を頑張っている都市です。私はそれを名古屋の魅力の一つだと思っています。そうした多様性が、触れられないものとして避けられるのではなく、「面白い」と感じてもらえるきっかけになればと思っています。何かを押し付けたりするのではなく、楽しんでもらえる形で、名古屋というまちの多様性や、さらにはハラルというキーワードや外国人が活躍する姿を入口として、世界を考えるきっかけを提供できたらと思っています。そして、作品を鑑賞する人にも楽しんでもらえたらと願っています。
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プラット・ピマーンメーン レジデンス成果展オープニング&アーティストトーク:参加申し込みフォームはこちら(Googleフォームが開きます・ログイン不要)
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イベント情報ページ:SEASUN公式サイト
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