【調査研究】名古屋の文化芸術を支える人たち vol.5 野田智子さん | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.3.31

【調査研究】名古屋の文化芸術を支える人たち vol.5 野田智子さん

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2024年度調査研究の一環である「名古屋の文化芸術を支える人たち」レポートの第5回です。

名古屋で鑑賞できる美術、音楽、演劇などの文化芸術に関連し、美術家、演奏家、舞踊家などの表現者や、美術館、文化施設、教育機関の企画者などに関する記事等は数多くありますが、イベントやプロジェクトを支えるマネジメントの担い手の紹介はそれにくらべると多くはありません。本調査では現在、名古屋の重要なプレーヤーとなっている方々の経験談から、文化芸術活動へのヒントを発見していただければと思います。

 


 

第5回 インタビュー:野田智子さん

撮影:関口威人

<プロフィール>
アートマネージャー/Nadegata Instant PartyTwelve.Inc取締役。1983年、岐阜県生まれ。成安造形大学造形学部写真学科卒業、静岡文化芸術大学文化政策研究科修了。ジャンルや環境にとらわれず、アーティストとの協働、企画制作などを手がける。2006年にアートユニット「Nadegata Instant Party」を結成し、2013年の「あいちトリエンナーレ」に参加。2019年から同トリエンナーレのラーニングにてコーディネーターとしてプログラムのマネジメントを担い、国際芸術祭「あいち2025」にも参画。2020年から関西学院大学で非常勤講師を務めるほか、アートマネジメントに関する総合情報サイト「ネットTAM」による連続ゼミなどにも携わる。

 

<職種紹介>
アートマネージャー
アートプロジェクトや公演など、アーティストの作品制作に伴走しながら企画制作の管理や運営を担い、アートと社会をつなぐ業務全般を担当する。芸術全般に関する知識とファンドレイジングや広報、人材育成といった幅広い視点、アーティストやクリエイター、テクニシャンとのコミュニケーション、進行管理・予算管理などの実務能力も求められる。クライアントをはじめ、関わる人の抱える課題や目標を自分ごととして捉え直す「共感力」も大切。

 

 


 

写真学科からアートマネジメントを学ぶ大学院へ

大学時代に写真学科の先輩でもあるアーティスト、澤田知子さんが木村伊兵衛賞を受賞されたことを記念し、学生で有志を募って講演会の企画や運営を担当しました。司会をしたり評論家と澤田さんと学生の対談に出たり。これがすごく自分の性に合っていて、楽しくできたんですね。「作品を発表すること以外にもアーティストの声を届ける方法があるんだ」と気づきました。

同時にスターダムを駆け上がっていく澤田さんを見て「アーティストがキャリアアップする方法とは?」「美大を卒業した人たちは、どうやって食べていくのだろう?」という疑問もわいてきました。大学の先生から静岡文化芸術大学の大学院でアートマネジメントを学べると教わり、自分の知りたいことに近づけそうだと感じて進学を決めました。

直感を頼りに作品づくりをしていた大学時代から一転、根拠を示してロジカルに論文を書く大学院では本当に苦労しました。それでも先生たちの親身な指導のおかげで、文化政策や非営利組織論など現在の仕事を進める上でも基盤となる知識をつけられました。

 

アートコレクティブで予算やスケジュール管理など担当

アートマネジメントはアーティストを「支える側」の論理で語られることが多いのですが、私はむしろアーティストの制作環境や社会的な立場に興味があり、アーティストと対等な立場で活動したいと考えていました。

同じ頃、大学院とは別に現代アートを学ぶプログラムにも参加していたので、アーティストやキュレーターを目指す人たちとのつながりができていました。あるギャラリーから企画展のキュレーションを依頼され、後にユニット仲間となる美術家の中﨑透さんと、公私ともにパートナーとなる山城大督の二人展をしようと思い立ちました。

彼らに企画の話をもちかけると、中﨑さんから「アーティストと対等な立場でありたいなら、アートユニットの中に入ったらいいんじゃない?」と提案されたのです。戸惑いもありましたが、アーティストの視点で、より実践的かつ主体的に作品づくりに関われることに可能性を感じました。そこで結成されたのが「Nadegata Instant Party」です。

Nadegata Instant Party《STUDIO TUBE》「あいちトリエンナーレ2013」長者町会場

Nadegata Instant Party《Parking Promenade /パーキング・プロムナード》(2018) 「アートまるケット2018 養老公園プロジェクト」

Nadegata Instant Party《ホームステイホーム/HOME STAY HOME》「丸亀での現在In Marugame – At the Moment – Three Artist Collectives」(2021)丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 

私は主に予算やスケジュールの管理、制作に必要な素材の手配や、美術館の学芸員など関わる人たちとの連絡窓口を担当しました。作品を世の中に出すためのコミュニケーションと事務ですね。アーティストが何を考え、どう表現しようとしているのかを、知らない人に説明して進めていく仕事とも言えます。

とはいえ、彼らが「これいいよね!」と盛り上がっていても、2人が話していることが分からないときもありました。アーティストと自分の間に大きな隔たりがあるように感じ、自信を失いそうになりました。

そのとき、山城に「キャッチボールって、見ている人が一番楽しいよね」と言われてハッとしました。作家の意図を理解できなくても、見て楽しいと感じられることや、自身の想像力を使いながら新たな解釈をすることがアートの魅力でもあるはず。アートに対する見方や距離感の違う人たちの間に橋を架ければ、新しい価値や関係を発見できる。アートマネージャーとして活動することに希望を感じた瞬間でした。

 

2013年のトリエンナーレきっかけに名古屋へ

Nadegata Instant Partyで活動する傍ら、普段は東京のギャラリー「無人島プロダクション」のスタッフとして作品の販売や展覧会の運営の仕事をしていました。

2013年にNadegata Instant Partyが「あいちトリエンナーレ」に参加することになりました。自分の妊娠が分かり、生活スタイルを変えたいと考えていたときでした。東京で忙しく働き続けるよりも、自分たちの等身大の暮らしが叶う場所に住みたいなと。実家の岐阜からも近い名古屋に移住するという案が出たとき、アーティストの青田信也さんや下道基行さん、アートコーディネーターの吉田有里さんなど、頼れる友人や一緒に仕事をしてみたいと感じる人たちの顔がすぐに何人も思い浮かびました。

実際に住んでみて、名古屋は文化芸術にアクセスしやすい地域だと実感しました。公共の文化施設やレジャー施設も多く、子どもと一緒に楽しめる場所もとても多い。アーティスト同士も顔の見える、ほど良い距離感で活動しています。

出産後、しばらくして「一本木プロダクション」という屋号でアートマネージャーとして独立しました。山城の個展のDVDをつくることから始め、徐々に友人から仕事を頼まれるようになりました。展覧会やアートフェアに出品するアーティストからの依頼を受けたり、音楽家の蓮沼執太さんからは「作品の価格をどう決めたらいいだろう」と相談されて一緒に考えたり。アーティストの田村友一郎さんからは韓国の芸術祭に「日本刀のような包丁を出品したい」と言われ、私の地元である関市で鍛冶職人を探し、制作依頼するなど制作コーディネーションを行なったこともありました。

田村友一郎《世話料理鱸包丁》(2014)

 

翌年には吉田有里さんに誘われて「Minatomachi Art Table, Nagoya」に共同ディレクターとして加わりました。名古屋港エリアの「港まちづくり協議会」が主催する現代美術の展示やスクールプログラム、空き家再生などを行うプロジェクトです。その後、同じく港エリアで開催される音楽と現代美術のフェスティバル「アッセンブリッジ・ナゴヤ」の立ち上げにも関わりました。

2019年からはあいちトリエンナーレ(国際芸術祭「あいち」)でラーニング・プログラムのコーディネーターを務めています。キュレーターとして参画することになっていたミュージアムエデュケーターの会田大也さんに声をかけられたことがきっかけです。

私はアーティスト寄りのマネジメントを標榜していましたが、ラーニングプログラムは鑑賞者側の視点に重きを置くもの。経験のない仕事に最初は不安も感じました。

でも、考えてみればNadegata Instant Partyでも一般の参加者と制作をともにしてきたんです。アーティストではない一般の人にも大きなクリエイティビティが秘められていると実感したことを思い出しました。アートマネージャーには、どんな人の中にもある創造性を引き出す機会をつくる役割もあるのかもしれませんね。

 

コロナ禍ではアートに関わる人たちとの協働をかたちに

山城が京都の大学の専任教員となったことに伴い、2020年に京都に引っ越しました。折しも新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、展覧会の中止が相次ぎアーティストは活動を大きく制限されました。愛知県はこのとき「アーティスト等緊急支援事業」という支援策を打ち出しました。作品のオンライン配信を通じてアーティストやクリエイターを支援するというものです。

今だからこそできる表現に挑戦したい。私たちが7年間住んだ名古屋でつくったネットワークをかたちにできる機会かもしれない。そう考えて山城と2人で「Twelve」という法人を設立し、この事業に応募しました。こうして実施したのが「AICHI⇆ONLINE」です。演劇、音楽、美術など、愛知にゆかりのあるさまざまなジャンルのアーティストが県内の文化施設と連携した作品をウェブサイト上で発表しました。

AICHI⇆ONLINE(2020)企画制作:SAAC[Sustainable Art Activity Cooperative]
主催:愛知県(文化芸術活動緊急支援金事業/アーティスト等緊急支援事業)

 

映画監督の山下敦弘さんは知多半島で短編映画を撮り、子ども向け演劇を上演する「劇団うりんこ」が舞台映像作家の山田晋平さんとコラボレーションして公演を映像作品にしました。

山下敦弘『ランブラーズ2』

劇団うりんこ/うりんこ劇場「ベイビーシアター『MARIMO』」

 

LIVERARY」の武部敬俊さんは、閉まっていたライブハウスやクラブを1日だけオープンしてライブイベントを開催しました。コロナ禍の街の状況ごと写そうと、アーティストや会場スタッフにインタビューしたり、観客のメッセージやスマホで撮った映像もアーカイブに加えたりと、リアリティあふれるドキュメンタリーをつくり上げました。


武部敬俊/LIVERARY「LIVERARY LIVE RALLY “Extra” ̶YOUR CITY IS GOOD̶」
YouTubeはこちら

 

「芸術を育てる土壌を耕す」ことを意識して

今は愛知県や名古屋市をはじめとする行政機関や、公益財団法人など公的な機関がクライアントになることがほとんどです。芸術を楽しみ、育てる土壌を耕す、公益に資する仕事の一端を担っているという意識があります。

2023年からは「アートサイト名古屋城」のプロデューサーも務めています。名古屋城の各所にアート作品を展示し、回遊しながら作品を楽しむアートプロジェクトです。アーティストがこの土地のリサーチを行ったうえで制作した作品とともに鑑賞することで、名古屋城に対する新たな見方が生まれることが狙いの一つです。

アートサイト名古屋城2024(2024)キュレーター:服部浩之 企画制作:Twelve Inc. 主催:名古屋市 撮影:ToLoLo studio

 

ギャラリーや美術館と違い、名古屋城にはアートを見ることを目的として訪れる人はほとんどいません。だからこそ、偶然の出会いを通してアートになじみのなかった人にもその魅力を届けられる機会になるかもしれない。どんな人にも楽しんでもらえるよう、ガイドブックや解説パネルの内容や見せ方を工夫しています。

「アートマネジメント」という仕事の内容をはっきりと定義することは難しいですが、私としては、アートと社会、鑑賞者をつなぐことはもちろん、アートを受け止めてどう感じるか、そのうえで自分自身がどう生きるか、ということを考えることそのものがアートマネジメントなのかもしれないと思うようになりました。

最近では、アートマネージャーというよりはアートプロデューサーと名乗るほうが仕事の内容に合っていると言われることもあります。それでも私はもう少し「アートマネージャー」という役割にこだわりたいと考えています。自分の考えた企画を実現したいという気持ちもありますが、どちらかといえばアーティストやクリエイター、キュレーターなど、いろいろな職能をもった人と一緒に何かをつくり上げることに魅力を感じているからかもしれません。たくさんの人や作品と関わりながら、自分らしいアートマネジメントの方法を確立していきたいですね。

 

写真:Twelve Inc.提供
*冒頭ポートレイト除く


 

公式サイト

http://www.twelveinc.jp/

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