【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.6 一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.5.27

【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.6 一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤのミッションである「文化芸術と他分野の連携を促進、波及効果の創出」をはかるため、2024年度調査研究として、全国各地で実施されている文化芸術と観光あるいはまちづくりとの連携事業の事例について関係者にインタビューを実施しました。調査先ごとに、全6回にわたってインタビューレポートをご紹介します。

 

インタビューレポート6件全文と、調査全体を総括した事業報告書全文は、こちらからご覧ください。

 


 

第6回 調査先|一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会
美術×観光 (東京都品川区)

アートがまちの
文化的価値を上げる

大壁画や立体作品、ギャラリーがあちこちにあり、アートフェスティバルやプロジェクションマッピングも行われる、創造的な雰囲気が漂うまち。

 

天王洲アートフェスティバルをはじめとした、エリア内に点在するアート作品を活かした活動に注目し、観光地域づくり法人として、観光客や新しい来街者の集客のために、地域の魅力としてアートを捉えて実施する取り組みや反応、成果などについて、天王洲・キャナルサイド活性化協会の和田本聡さん・千々岩優希さんにお話をうかがいました。

 


 

天王洲・キャナルサイド活性化協会のはじまり

――― 天王洲のまちづくりの概要を教えてください。

 

天王洲は島状で、北半分には高層ビル、南には居住地域と公園があります。島の東側から再開発が進みましたが、西の寺田倉庫エリアはバブル崩壊の影響で再開発が行われず、倉庫の雰囲気が残っています。

 

一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会(以下「協会」)は2015年1月に設立され、天王洲だけでなく品川駅や品川宿近くまでを対象に、正会員36社、賛助会員9社、東京海洋大学との連携など多様なメンバーが参加しています。法人の理念は「文化とアートの融合により人々の心を豊かにする」であり、活動方針として「水辺とアートを活用した観光まちづくりの推進」を掲げています。2024年3月には観光地域づくり法人DMOに登録され、設立当初のオリンピックに向けた賑わい作りから、現在は「観光」が重要なテーマとなっています。

 

「アートになる島、ハートのある街」

――― アートを観光資源と捉えたまちづくりを進めるようになったきっかけを教えてください。

 

2000年代に都内で続々と再開発事業が完了し、天王洲からのテナント流出が激しくなりました。2011年東日本大震災の頃には、まちにチェーン店が増え、昼はオフィスに人がいるが夜は寂しいまちになり、危機感を持ったことからです。

 

水辺とアートを活かした特徴ある景観のまちづくりをすすめることとし、リブランディングして再スタート。初期は寺田倉庫による自社建物及び水辺のボードウォークや道路の緑化などの公共空間整備をすすめました。その後、まちがきれいになっても人が来なければ意味がないと協会を立ち上げ、活動を開始しました。まちの開発コンセプトは「アートになる島、ハートのある街」でした。

 

行政指導からはじまった大壁画

――― アートの活動について詳しく教えてください。

 

2015年に協会を設立し、様々なイベントに取り組みました。2015年9月に国際的アートフェスティバル「TodaysArt.JP」、10月に天王洲アートウィーク「Pow!Wow!Japan2015」を実施。「Pow!Wow!Japan2015」でアーティストが建物に壁画を描いたのですが、大きなインパクトがありこのままにしたいと、役所への手続きを知らず残したのです。そうしたら行政から毎日呼び出されて消すようにと指導されました。2016年3月にはプロジェクションマッピング実験、5月には「水上フードコート」という小舟に乗ってレストラン船に行くイベントを実施しました。船のイベントも手続き無しで実施したため運輸局に呼ばれて注意されました。7月に屋外建物壁面に投影する映画祭をやろうとしたら、映画は屋外広告にあたるから上映できないと言われて上映できず、別の映像を流すことになりました。

 

天王洲独自の景観を創造するアートのまちへ

――― 行政との関係が、どうしてまちなかアートにつながっていくのでしょうか。

 

転機は2018年の「天王洲水辺の芸術祭」での東横INN巨大壁画です。天王洲では景観に対して、景観法、東京都屋外広告物条例、水辺の景観形成特別地区がかかり、赤や青、ビビッドな色合いの使用不可の規定があり自由なアート作品を描けないことは「Pow!Wow!Japan2015」でわかっていたので、これを解消するために、品川区景観審議会、東京都屋外広告物審議会で手続きして実施することにしました。東京都の審議会では、まちの景観計画を作るようにと条件が付き、2018年11月「屋外広告物にかかる屋外アート活用計画」を作りました。翌年、品川区景観計画(重点地区・天王洲地区)に指定され、アートを活用したまちづくりを推進する地区として「天王洲地区景観まちづくりルール・アイディアブック」がまとめられました。重点地区指定を受けて、自主的な天王洲デザイン会議を発足、巨大壁画制作の際は品川区景観審議会の代わりにチェックする仕組みにしました。

 

行政との協議を重ね、特別な地域であることの位置づけや仕組みを作り、結果として他では追随し難い独自性を作り出すことができました。

 

そんな形で翌年の「TENNOZ ART FESTIVAL」を実行でき、以降毎年続いています。2020年には、東京都からプロジェクションマッピングを活用したまちの活性化やにぎわい創出を推進する「プロジェクションマッピング活用地区」にも指定されました。2021年には立体アートが増え、2022年にはアーティスト公募により8作品を作成。2024年には山口歴さんの大壁画を制作し、現在は壁画20作品、立体3作品がエリア内に点在しています。

 

 

次の狙いは、アートを観光ツールにすること

――― アートを観光資源と捉えて取り組まれていることを教えてください。

 

 

「天王洲アートマップ2023」の作成や、電動キックボードや電動車イスを使ってエリア内を巡る「天王洲アートツアー」を企画しています。ツアーガイドは協会のメンバーが担当しますが、ガイドの内容のばらつきや外国人への対応ができるように、会員企業にガイドシステムの開発を依頼しています。ナゾトキを取り入れたアート巡り「Art Walk」も行っています。

 

大壁画や立体作品などのパブリックアートを目的として天王洲に来る人が増えており、イベントに来た方に再度訪れてもらうための会員登録「キャナルID」を試みています。地域共通のIDを作り、コミュニケーションができるような環境を整えようというものです。

 

パブリックアートだけで観光を成立させるのは難しいとも思っており、例えば、旧東海道での和文化体験や水辺クルーズなど、アート以外の要素を組み合わせることで、アートだけが目的ではない一般の方々の来訪を促したいと考えています。

 

アートがまちの文化度や価値を高める

――― アートをまちにとり入れた、その効果ははいかがですか。

 

メディアでの露出が増えたことで、まちが変わったと感じる地権者や住民が増えています。新しく入居するテナントもアートのまちだからこそ来たと言います。毎年開催している「Tennoz Canal Fes.」は、当初は7,000~8,000人の来場者でしたが、今では約3万人にまで増えました。アートだけの影響とは言えませんが、いろんな効果が重なってプラスに働いています。2017年には「デヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』」、2019年には「スター・ウォーズ展」、2023年には「ジブリパークとジブリ展」、さらに「バンクシー展」などが開催され、アートのまちとしての認知度が高まっています。これにより、10万人規模のアート系の企画が舞い込んでくるようになっています。海外のアーティストにも知られるようになり、高級ブランド企業がクリエイティブなイベントを開催するようになったことで、まちのイメージも向上しています。まちの文化や価値が向上する効果が出てきたと感じます。

 

倉庫業にメディア取材が入ることは少ないですが、壁画を描かれた倉庫が注目されたり、アートのまちのブランドが定着してきたことで、テナント賃料など地域経済にも好影響が出ています。

 

まちづくりや観光を意図して、アートのまちづくりを展開するためのヒント

――― どのような環境が整ったら、アートとまちづくりが連携し、来街者が増えるまちを展開できるでしょうか。

 

観光やまちづくりを意図してアートで集客を目指すなら「インパクトあるもの」を目指した方がいい。アーティストは公募より一点豪華主義がいいと思います。公募で作家を見つけて、描いてもらうプロジェクトは、各地であると思いますがインパクトが弱い印象があります。きちんとしたアートでなければ誰も相手にしません。きちんとしたアートの定義はとても難しいので誤解を恐れず簡単に言うと、ある程度有名なアーティストに描いてもらうということです。

 

有名絵画を拡大プリントして壁に貼るのはどうかという論点もあり ますが、綺麗ではあるがきっと集客には繋がらない。

 

アーティストが現地を見て、インスピレーションを得て「ここでしか見ることができないもの」を描く、まちの中の「ここにある意味」を追求する。そのようにアーティストがストーリーを持って描いたものを「背景や意図を含めて案内すること」がアートを取り込んだまちづくりにおいて重要です。

 

心に響く「インパクト」、ここでしか見られない「唯一性」があるアートを採用していくべきです。

 

壁画アートを想定するなら、景観や広告等の規制に対して、きちんと行政手続きを踏むことが資産になります。規制の枠を外して描けるというのは大きなプラス要素です。

 

 天王洲のここがすごい!


 

大画面を描くなら天王洲!海外アーティストから「天王洲で描きたい」とアプローチ多数

 

アーティストが現地を見て創発される思いを形にしやすいよう協会は地権者や行政との調整とマネジメントを行う

 

品川駅エリアの屋外上映映画とコラボして「緑と水辺のシネまちラリー“映画でつながる品川”」を開催

 

アート活動がプラスに働くようなビジネスモデルが必要

 

理念や活動方針をビジョンにまとめ活動をはじめている

 

「ナゾトキ街歩き」やアートの解説を聞くことができるアプリ「Smart Town Walker©」がある

 

旗を振って先頭を突っ走る人が必要。天王洲の場合はそれが天王洲・キャナルサイド活性化協会

 


 

天王洲・キャナルサイド活性化協会
和田本聡さん・千々岩優希さん

 

一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会
東品川周辺を中心とした運河・水辺の修景及び地域振興を通じ、社会における創造性の発展を図り豊かな地域社会づくりと新たな生活文化の創出に寄与することを目的として2015年1⽉に設立。水辺とアートの街 天王洲の魅力を活かし、水辺で過ごす旅のひとときや文化体験、アートと文化の発信を行う。水辺空間の利活用とアートによる地域活性化活動に取り組み、地域イベントである天王洲キャナルフェスや天王洲アートフェスティバルなどでは、運河背後地のビル壁面や橋梁、船着場待合所、駅通路の壁面を活用した屋外アートの展示、運河沿いのビル壁面を活用したプロジェクションマッピングによる映画投影やスポーツイベントのライブビューイングなどを実施している。公式ウェブサイト

 


 

■ インタビューレポート全文および調査報告書も、あわせてご覧ください。

【2024年度 調査研究】「文化芸術と他分野の連携活動事例」のインタビューレポートおよび報告書を公開しました