【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.4 一般社団法人 金沢市観光協会 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.5.21

【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.4 一般社団法人 金沢市観光協会

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤのミッションである「文化芸術と他分野の連携を促進、波及効果の創出」をはかるため、2024年度調査研究として、全国各地で実施されている文化芸術と観光あるいはまちづくりとの連携事業の事例について関係者にインタビューを実施しました。調査先ごとに、全6回にわたってインタビューレポートをご紹介します。

 

インタビューレポート6件全文と、調査全体を総括した事業報告書全文は、こちらからご覧ください。

 


 

第4回 調査先|一般社団法人 金沢市観光協会
伝統工芸×観光 (石川県金沢市)

まちなみと暮らし
体験を観光に

江戸時代から変わらない「ほんもの」のまちなみと、生活に根付いた武家文化をストーリーにして伝えることが金沢らしい観光になる。

 

金沢市観光サイト「金沢旅物語」で、金沢らしい工芸体験などのコンテンツを一元化して、観光客にわかりやすく情報提供していることに注目し、伝統文化や工芸など文化芸術と観光を融和させる意図や効果について、一般社団法人金沢市観光協会の若林達也さんにお話をうかがいました。

 


 

観光都市ではなく文化都市

――― 文化芸術を観光に取りいれていることについて、教えてください。

 

金沢には「加賀は天下の書府なり」という、往時の加賀藩蔵書の豊富さを示す言葉があります。金沢の礎を作ったのは前田利家ですが、前田家が徳川幕府に対して敵対心のないことを示すため、軍事費を文化芸術の奨励に使う伝統を築き、この文化は今も市民生活に根付いています。また、金沢のまちは戦禍や大規模災害を免れ、江戸時代から残る「ほんもの」のまちなみがあり、そこに生活する人々の様子をそのまま見ることができます。

 

2015年の新幹線開業以降、観光客が急増し、特に外国の方には本物の日本の雰囲気が残る金沢は高く評価されています。江戸時代にタイムスリップしたようなまちなみの中で息づく、日本人の文化的な日常生活を見ることができる。その文化を見に来る人が多いから結果的に観光都市になっているのだと思います。

 

コンテンツとターゲットを絞る

――― どんな観光を目指しているのですか。

 

市の「金沢市持続可能な観光振興推進計画2021」では、「市民と旅行者が共感を深め、『ほんもの』を未来へと紡いでいくまち」をテーマとしています。「ほんもの」にこだわり、前田家が育んできた文化芸術を後世に伝える、観光の取り組みをしています。金沢の培ってきた歴史、町並み、伝統文化、食文化等の個性を活かした、金沢ならではの体験ができるコンテンツを磨き上げ、金沢の魅力を志向する親和性の高い旅行者を誘客するためのマーケティングやプロモーションを展開し、ウェブサイトやSNSで情報発信を行っています。

 

ターゲットは欧米豪の富裕層です。「ほんもの」の日本の歴史や文化への注目度が高いイタリア、フランス、スペイン等に重点を置いています。彼らはモノを買うよりも、そこでしか体験できないことにお金を使う傾向が高く、食文化やサムライ、伝統芸能に絞って注力しています。コンテンツもターゲットも絞って取り組んでいます。

 

強みは「ほんもの」「昔らしさのある金沢」「武家文化」

――― ターゲットを富裕層に限定するってかなり絞っていますね。

 

金沢の強みは「ほんもの」や「昔らしさ」であり、その根底には「武家文化」があります。金沢は小京都とも呼ばれますが、京都が公家文化であるのに対し、金沢は武家文化が根ざしており「サムライ」に近い。それが金沢の個性です。

 

金沢市は中核市なのでフットワークが軽く動きやすい。その分、予算規模も小さいので、資源をどう有効活用するか、「選択と集中」をずっと続けてきています。都市には様々な要素がある中で、武家文化やサムライ、そこからつながる伝統芸能に絞って注力し、そこに響く人にターゲットを絞ってプロモーションしています。

 

金沢の魅力を体験する「かなざわ自由時間」WEBサイト

――― 金沢市観光サイト「金沢旅物語」やコンテンツについて教えてください。

 

金沢市観光サイト「金沢旅物語」は金沢市から金沢市観光協会(以下「協会」という)が受託し運営しています。その中にある「かなざわ自由時間」は体験プランやツアーを紹介するサイトで2017年に作成しました。新幹線が開通し観光客が増え、旅行者の志向がモノ消費からコト消費へと変化したタイミングです。それまで体験コンテンツの造成に力を入れていたので、それをターゲットに響く形で発信するサイトにしました。

 

「かなざわ自由時間」は、伝統的な金沢での暮らしを知る「日本文化」「食文化」や、伝統芸能や文化芸術を体験する「工芸・アート」「金沢芸妓」といった体験プランが検索できるようになっています。開催日を平日に設定しても充実した体験プランを探し出すことができます。

 

コンテンツは事業者が編集し、協会は一元管理してオール金沢で発信する役割です。利用者は「自由時間」サイトから事業者サイトに入り体験予約、最終決済までスムーズにできます。これにより事業者は、個別で発信するよりも効果的に情報を届けることができ、事業利益につながると考えています。

 

選ばれる文化芸術体験

――― 観光客の文化芸術体験に対する反応はいかがですか。

 

「かなざわ自由時間」に掲載していないものも含め、「ガイド付きツアー」や「アウトドア」「健康・美容」など多様な体験プランがある中で、日本人、外国人双方に共通して圧倒的に評価が高いのが「食文化」です。「工芸・アート」では、国内外問わず、金沢のイメージが強い金箔体験が人気で満足度も高い。お箸に金箔を貼る短時間でできるものから、通常非公開の金の延べ棒を窯に入れて溶かす様子を見る体験など本格的なものまで、様々なコンテンツがあります。水引でアクセサリー作りや加賀友禅体験も人気のコンテンツです。金沢芸妓体験は、お茶屋文化の継承を目的に一見さんお断りのお茶屋でお座敷遊び体験をするものですが、毎回売切れで満足度が高いです。

 

本格的な体験はやはり富裕層を対象にしています。学生の卒業旅行先として金沢に来られる若い方も多いので短時間・低価格の体験コンテンツはそうした方にも気軽に楽しんでもらえるようにというものです。事業者が頑張って幅広く多くのコンテンツを作り出してくれる、努力の上に成り立っています。

 

伝統文化や工芸を観光とつなぐ

――― 伝統文化や工芸の関係者とどう連携をしながらコンテンツを作っているのですか。

 

伝統文化や工芸に携わる事業者や工房の方にも、基本的には「かなざわ自由時間」事業者として登録の上でサイト編集をしてもらいますが、金沢市からターゲットやコンテンツのオーダーを受けて、事業者にテーマ性あるコンテンツ制作を依頼する場合もあります。インバウンド向けに「サムライ」テーマのコンテンツが欲しくて、武道体験を事業者にお願いしました。以前から剣道の体験をしている団体があったのですが、外国人が体験するのは稀でした。内容的に外国人、特にターゲットとしている富裕層に受けるのではないかと、協会でファムトリップ*を実施し反応が良かったため商品化されたものです。

 

事業者にとっては、地元では当たり前すぎてその素晴らしさに気づけないことがあります。武道体験はそのパターンでした。外部の視点で観光客に響く体験コンテンツを見つけて、観光につなげ発信するその視点が必要です。コンテンツ化にあたっては、金沢のコンセプトである「ほんもの」から逸脱しないように留意しています。

 

「かなざわ自由時間」に登録している事業者に向けたセミナーを行っており、事業者が20~30人集まるので交流機会にもなっています。優良コンテンツを体験するツアーも実施するのですが、事業者自身が、良いコンテンツを実際に体験して新しい発見に繋げる、自身で気づいてもらうための仕掛けです。人に言われるよりも自分で気づいた方が早く反応できる、そういう気づきのきっかけにと思っています。

 

コンテンツを掲載する事業者には家族経営や高齢の方もおり、ウェブサイトへの体験プラン編集に関して相談の問い合わせもあります。操作方法や掲載のお手伝いなど柔軟に対応しています。

 

*ファムトリップとは、旅行業者やメディア、インフルエンサー等、観光地への来訪者の増加に影響力のある人物をプロモーション活動の一環として招待する視察旅行のこと

 

伝統文化や工芸を観光に展開するためのヒント

――― どのような環境が整ったら、文化芸術分野と観光分野の連携が進み効果が高まるとお考えですか。

 

誰に対して何をするかで変わるとは思いますが、我々はターゲットを国内外の富裕層に絞り、そこでしか体験できない価値を提供することで、旅行者も事業者もWin-Winになることを心掛けています。そこでしか体験できないことのストーリーを理解してそれが心に刺されば、金沢に来てもらえるし、お金を使うことも躊躇しません。「なぜこのテーマでこの時期にこの場所でやるのか」という、背景をきちんと整理して「ストーリーとして伝える」ことが、ジャンルを問わず大事だと思います。

 

時に、外国の方に対して、そんなことまで疑問に思うのかと驚くことがあります。例えば「マンホールはなぜこの色なのか」、兼六園に置かれた器具を指して「これは何か」など、日本人は誰も疑問に思わないし、注目もしない、答えに窮するような問いかけです。彼らはそれを理解すると、それが日本のやり方で金沢のやり方なのだ、それに倣おうと理解します。富裕層の方ほど「倣う」イメージがあります。郷に入れば郷に従えといいますが、ストーリーや背景を丁寧に伝え発信していくと響くのだと思います。また、そうした質問を突き詰めると、ひょっとしたら外国人向けの良いコンテンツになるのかもしれません。ふとした会話にヒントが隠れていると思います。

 

作り手等の本当の思いを可視化するのは、何においても大事なことです。海外メディアの方を作家さんの工房に連れて行くと、なぜこの仕事を始めたのかという質問が必ずあります。相手を思ってリスペクトするために、まずよく知りたいという主旨だと思います。知ってもらうために、こちらからオープンに情報を出して開放的になるスタンスも大事です。

 

 金沢の観光 ここがすごい!


 

政令指定都市・中核市の「住民一人あたりの芸術文化費」ランキングが第一位

 

10年以上プロモーションしているイタリアでは「KANAZAWA」の認知度が高い

 

400年以上前の江戸時代の地図と現在の航空写真を見比べると同じ位置に、同じ道や用水がそのまま残っている

 

能登復興応援プランの体験も掲載

 

金沢市は伝統を守りながら変えるべき所を変えている

 

金沢には「空から謡(うたい)がふってくる」という言葉があるほど能楽が盛んだった

 

金沢が生んだ仏教哲学者鈴木大拙のZENの思想を体現した施設「鈴木大拙館」も人気

 


 

一般社団法人金沢市観光協会
若林達也さん

 

一般社団法人 金沢市観光協会
金沢市において観光の振興を目的に活動する中心的団体として、行政をはじめ関係諸団体との連携のもと、金沢ならではの観光資源を活用した誘客事業や観光情報の発信などを推進している。平成 29年に日本版 DMO の登録第1弾で正式登録、令和2年8月に国の重点支援 DMO に選定され、交通事業者、飲食店、商工業者、宿泊施設、文化芸術団体等、地域の多様な関係者と連携し、金沢ならではの魅力あるコンテンツ創造、戦略的プロモーション、広域連携、受入環境の整備(観光人材のスキルアップ)を進めることで、観光による地域経済活性化を推進する観光地域づくりを行う地域DMOとなった。公式ウェブサイト

 


 

■ インタビューレポート全文および調査報告書も、あわせてご覧ください。

【2024年度 調査研究】「文化芸術と他分野の連携活動事例」のインタビューレポートおよび報告書を公開しました