【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.5 「音楽のまち・かわさき」推進協議会 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

調査研究

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まちづくり

2025.5.22

【調査研究】文化芸術と他分野の連携活動事例 vol.5 「音楽のまち・かわさき」推進協議会

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤのミッションである「文化芸術と他分野の連携を促進、波及効果の創出」をはかるため、2024年度調査研究として、全国各地で実施されている文化芸術と観光あるいはまちづくりとの連携事業の事例について関係者にインタビューを実施しました。調査先ごとに、全6回にわたってインタビューレポートをご紹介します。

 

インタビューレポート6件全文と、調査全体を総括した事業報告書全文は、こちらからご覧ください。

 


 

第5回 調査先|「音楽のまち・かわさき」推進協議会
音楽×まちづくり (神奈川県川崎市)

工場のまちから
音楽のまちへ

本格的なクラシックからジャズ、ポップスに至るまで幅広く、プロからアマチュアまでその裾野が広い。身近な暮らしの中で音楽に触れられるまち。

 

音楽に関わるイベントや場所、人など、充実した音楽情報が掲載された「音楽のまち・かわさき」ウェブサイトに注目し、ミューザ川崎シンフォニーホールができてから20年で、それらがどのように育まれてきたのかの取り組みについて「音楽のまち・かわさき」推進協議会の前田明子さんにお話をうかがいました。

 


 

「音楽のまち・かわさき」は都市イメージの変換からはじまった

――― 「音楽のまち・かわさき」の取り組みがはじまった、きっかけを教えてください。

 

ミューザ川崎シンフォニーホールは今年で開館20年を迎え、今や川崎市は「音楽のまち」としてのイメージが定着しました。しかし、かつて工業のまちとして日本の高度成長を支えた川崎は、1980年代以降は建物の老朽化が進み、川崎駅は交通の便が良いものの魅力のない駅前といわれていました。駅西口の工場跡地にクラシック専用ホールを建設する計画が進んだものの、莫大な建設費に賛否があり、ホールを無駄な箱モノとせず有効活用できるのかが問われます。調査の結果、川崎市内に4つの市民オーケストラ、100を超える合唱団、2つの音楽大学、小澤征爾さんや坂本九さんの出身地といった音楽資源が豊富で、音楽のまちとして成り立つ可能性が見えてきました。これを踏まえて、川崎市は優れた機能を持つホールを中心に、市全体で「音楽のまちづくり」に取り組み、「音楽のまち・かわさき」というブランド戦略を立てることで都市イメージの転換を図るとともに、中身の伴った音楽のまちを作っていくことを目指したのです。

 

めざすは、富士山の形をした音楽のまち

――― どんな音楽のまちを目指したのでしょうか。

 

「音楽のまち・かわさき」は、ホールができたことによって音楽活動が増えたのではなく、市民を巻き込んだまちづくりからはじまっています。川崎市は当初、音楽を通じて都市のイメージアップやアメニティを実現するため、「富士山型の音楽のまち」を目指しました。頂上にはプロが大活躍する音楽があり、中腹には地域密着のプロやアマチュアが市民の自己実現や支援する活動が広がり、ふもとには観客やアマチュアが楽しむ活動が広がっています。この「富士山型」の構図を通じて、音楽が地域全体に根付き、クラシック、ジャズ、ポップス、郷土芸能、民族音楽まで多彩な音楽が一体となり、プロからストリートミュージシャンまで、全ての音楽が川崎の特徴となっています。

 

事業の柱は、「音楽のまちづくり」と「広報・コミュニケーション」

――― 「音楽のまち・かわさき」推進協議会ではどんなことをしているのですか。

 

2004年にミューザ川崎シンフォニーホールが完成するとともに、「音楽のまち・かわさき」推進協議会(以下、「協議会」)も設立されました。音楽を活用するまちづくりと、「音楽のまち・かわさき」の認知向上のための広報が主な仕事です。市内音楽大学や市内イベントへの連携協力をはじめ、音楽情報誌の発行やウェブサイトの運営、相談事業など個別の事業は多岐にわたります。懇親会やセミナーなどを通じて、関係者の交流も図っています。最近はマスコットキャラクターの「かわさきミュートン」が人気で、海外の方も買いに来られます。

 

「音楽のまち・かわさき」サイトは、音楽資源のデータベース

――― 「音楽のまち・かわさき」サイトに、充実した音楽情報が詰まっている理由を教えてください。

 

ウェブサイトや情報誌の情報はイベント主催者が登録します。私たちも新しい音楽人材や活動をここで知ることができ、登録者にイベント情報の発信もします。音楽に関わるイベントや場所、人など、川崎の音楽資源のデータベースとして機能しています。20周年事業では、20歳の人たちに向けてCMに出ませんかと発信してオーディションをし、ビジュアルを作成しました。また、ラジオやテレビ出演の声をかけることもあり、広がりを持ったネットワークになっています。

 

市民がみずから「音楽のまち・かわさき」と言うようになった

――― この20年で川崎はどう変わってきたのでしょうか。

 

2004年のあるアンケートで「川崎市は音楽のまちだと思う」と回答した市民はわずか3%で、全く浸透していないことが課題でした。そこで強力なプロモーションを実施。地元テレビ局やラジオ局、新聞社も協議会メンバーとして参画し、市長も「音楽のまち・かさわき」を最優先の施策として推進しました。

 

今では、都市イメージ調査で「音楽のまち・かわさき」を実感すると答える人が5割を超える結果が出て、市民が自発的に音楽のまちと言うようになっています。ミュージシャンや音楽関係者に限らず、市内の様々な企業や団体も、「音楽のまち」というフレーズをポジティブに活用している例が多数あります。サッカーの川崎フロンターレの新体制発表会は毎年必ず音楽ホールで行われ、市内音楽大学生による演奏もあり、スポーツと文化を融合させた楽しいイベントを作り上げているのもいい例です。「音楽のまち・かわさき」を市民が利用するようになってきたのです。東京都心に近いというメリットだけでなく、音楽や文化のあるまちだから引越してきたという方も多く、音楽が外から人を呼ぶツールになっています。

 

多様な主体が「音楽のまち・かわさき」を牽引する

――― たくさんの音楽イベントがありますが、誰が動かしているのですか。

 

 

協議会が自ら主催するよりも「音楽のまち・かわさきアジア交流音楽祭」や「かわさきジャズ」の実行委員会に関わったり、市民や企業の活動にメディア広報や出演者紹介などで協力・後援する形が多いです。あくまで私たちは市民の音楽活動を支援するという立場ですが、昨年主催事業として実施した作詞作曲ワークショップ「8小節プロジェクト」は、授業で作詞作曲ワークショップをしていた学校の先生との交流で生まれた企画です。市内のミュージシャンに声掛けし、チームを結成して市内で16回のワークショップを実施して市民のみなさんとその人それぞれの個性を生かした曲を作りました。これは、20年間で築かれた「音楽のまち・かわさき」サイトを通じて蓄積されたデータやネットワークが、何かやろうとした時につながりを生みやすくしているおかげです。

 

音楽が生活の一部となり、心と暮らしが豊かになるホール

――― ミューザ川崎シンフォニーホールはどんな役割でしょうか。

 

ミューザ川崎シンフォニーホールは、「音楽のまち・かわさき」の中核施設としてクラシック音楽を中心とした質の高い公演を開催し、鑑賞の場を提供しています。海外オーケストラのコンサートや東京交響楽団の定期演奏、名曲全集コンサートだけでなく、音楽との多彩な関わり方を提案するコミュニティプログラムや、ワンコインで平日昼40分間のランチタイムコンサートなども実施しています。シニアの女性がお友達同士でコンサートに来て前後にランチに行く様子をよく見かけます。多彩な企画がコアなクラシックファンだけでない幅広い層に浸透し、来客の幅を広げ、気軽に楽しめる企画や雰囲気づくりにより、音楽が市民にとって身近な存在となり、生活の一部になっています。クラシックをミューザ、それ以外の音楽を協議会が担い、両輪となって「音楽のまち・かわさき」の活動に取り組んでいます。音楽を愛する愛好家とそれを提供する劇場といった音楽文化振興に留まらず、音楽を振興することで文化的な社会づくりにつながっています。

 

市民に浸透した音楽のまちづくりを展開するためのヒント

――― どのような環境が整ったら、音楽とまちづくりが連携し、市民に浸透した音楽のまちを展開できるでしょうか。

 

チケットを売る対象として市民を見るのか、ホールで得られる豊かさを市民に感じてもらいたいと考えるのか、誰にどんなアプローチをするのかという「コミュニケーション」が大切です。いつもコンサートを聴きに来る人だけを対象にするのではなく、市民の生活シーンで目にするところに広報すべきです。地域を見つめて、このまちはどんなまちで、どうありたいのかと広くとらえて伝えることが大事です。

 

連携や協働することが多くなりますが、行政との関係や企業との関係で、いつも一方がお願いするのでは長続きしません。「お願いではなく一緒に」できることや、互いに楽しくできることを探せると良いと思います。

 

「戦略的人材配置」も大切ですね。設立当初の協議会メンバーが産官学民の様々なメンバーで構成されていたことで、連携協力がしやすかったと言えます。

 

「音楽のまち・かわさき」の肝となっているのが協議会の公式サイトであり情報誌です。音楽資源がまとまっていると、情報が得やすくなり何かやろうと思った時のハードルが下がり、音楽のことならここに聞けばいいと相談先が分かりやすい状況になります。「情報が一元化されていること」は大切です。

 

「音楽のまち・かわさき」のここがすごい!


 

マスコットキャラクターの「かわさきミュートン」は、アニメ「ガールズバンドクライ」に出演して、大人気

 

公式サイトは「音楽のまち・かわさき」の肝。川崎の音楽資源が詰まったデータベースで、双方向の情報ツール

 

大活躍するプロから地域密着のアマ、応援する市民まですそ野が広く、身近な暮らしに音楽のまちが浸透している

 

イベントの機材準備など裏方を支えるNPOも育っている

 

20周年事業「8小節プロジェクト」は素敵なエピソードを生み出している

 

「音楽のまち」ブランドの広報が大事。ここに行ったら楽しいぞ!って再来してもらいたい

 

新しい音楽企画にエントリーしたい人は?と問うと、手を挙げる協力者がたくさんいる

 


 

「音楽のまち・かわさき」推進協議会
前田明子さん

 

「音楽のまち・かわさき」推進協議会
川崎市制80周年の2004年に発足。音楽を中心とした多様な市民の多彩な文化、芸術活動の創造を通じた、活力とうるおいのある地域社会づくりをめざす。川崎市民の音楽活動分野はクラシック、ジャズ、ポップスと幅広く、全国各地の郷土芸能はもとより、朝鮮半島や中国をはじめとするアジア、世界の民族音楽にかかわるものまで多様にあり、市民や企業オーケストラが活動したり、音楽大学が地域に根ざした取組みを展開しているのも川崎の大きな特徴となっており、市民の主体的な活動と連携しあいながら「住んでよかった」「住んでみたい」<新しいふるさと・かわさき>づくりを進めることを目的とする。公式ウェブサイト

 


 

■ インタビューレポート全文および調査報告書も、あわせてご覧ください。

【2024年度 調査研究】「文化芸術と他分野の連携活動事例」のインタビューレポートおよび報告書を公開しました