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2025.6.11
【CLN活動レポート】つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”「語ろう!名古屋らしいアートのかたちって何?」
2025年3月24日、つながる∽つなげるトークシリーズ “リンク・カフェ”「語ろう!名古屋らしいアートのかたちって何?」が開催されました。
日時|2025年3月24日 18:30~20:30
会場|SAKURA SAKAE ENTERTAINMENT RESTAURANT(SLOW ART CENTER NAGOYA)
内容|▼ 芸術の活動拠点としての名古屋――「知っているようで、実はよく知らない」
▼ “場”があることで人が集まり、そこから活動が広がっていく
▼ 「名古屋は適度に暇だからよい」。“人ベース“での活動の展開
リンク・カフェは、クリエイティブ・リンク・ナゴヤが主催するトークシリーズ。年に数回の開催を通して、今の名古屋の文化芸術シーンを多角的に見つめ直すオムニバス企画です。

SLOW ART CENTER NAGOYA
会場となったのは、SLOW ART CENTER NAGOYAの1階にある「SAKURA SAKAE ENTERTAINMENT RESTAURANT」。
ゲストは、キュレーターの服部浩之さん、作曲家の安野太郎さんという2019年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館の企画者とアーティストとして協働された旧知のお二人。そして長野県から信州アーツカウンシルのゼネラルコーディネーターを務める野村政之さんを加わっていただき、進行はクリエイティブ・リンク・ナゴヤ副ディレクターの谷口裕子が担当しました。

左から服部浩之さん、安野太郎さん、野村政之さん
芸術の活動拠点としての名古屋――「知っているようで、実はよく知らない」
冒頭に「名古屋らしいアートって何だろう?」を考えるあしがかりとして、谷口から「名古屋の芸術家等の活動状況に関するアンケート調査」を紹介。2024年1月〜3月にクリエイティブ・リンク・ナゴヤが実施したもので、名古屋で活動している705名の芸術家や関係者が回答しています。
「名古屋市に拠点を置く利点」としては、「都市の規模が大きすぎず、交流を持ちやすい」が44%。一方、「感じている課題」として同じく44%が「機会が固定され、新しいつながりが持ちにくい」と回答していました。
愛知県出身であいちトリエンナーレ(現「国際芸術祭あいち」)を機に2014年ごろから再び名古屋を活動拠点とする服部さんは、この回答結果を面白いと感じたそうです。「都市の規模が小さいほど、異なる業種や専門性の人がつながりやすいし、つながらざるを得ない。名古屋の場合はそれなりに都市規模大きく専門的にやっている方の人口もある程度多く、自分の興味関心があるところをフォローするだけでもエネルギーと時間を使う一方で、関東・関西・福岡ほど海外からの人の出入りは多くないので、機会やつながりが固定されたり、新しく作りにくいと感じたりするのではないか」と指摘されました。
2021年に埼玉から名古屋に移住してきた安野さんは、名古屋の交通事情とアート拠点の分布について「埼玉では鉄道を中心に街が形成されていて、電車での移動が非常にしやすかった。名古屋に来てみると、電車はあるものの、アートスペース間の移動が意外にしにくいと感じた」といいます。「名古屋は“車社会”の面が強く、車があれば便利だけど、持たない人にとってはアクセスが難しい。その結果、人の流れや交流の機会が、行きやすい場所に固定されてしまう可能性がある」と話す一方で「この地域には、芸術系の大学やスタジオが都心から少し離れた場所に点在していて、それが逆に名古屋独自のアートの形をつくっているのではないか」とも指摘しました。
今回唯一の県外参加者で、長野以外にも東京や沖縄、国外など様々な場所で活動してきた野村さんにとって名古屋は「知っているようで、実はよく知らない都市」。「演劇をしていたこともあって、七ツ寺共同スタジオなど栄や大須には来たことがあるけれど、それ以外のエリアにはほとんど行ったことがない。実際どうやって行けばいいのかもよくわからない印象がある」そうです。「名古屋市の人口は約230万人。長野県全体の人口が最近200万人を切ったのと比べるとやはり大きい。でも“大都市”と言っても東京や大阪ほどのスケール感はなく、鉄道網の密度もそこまで高くないように感じる」と、名古屋の都市としてのサイズや利便性にも言及しました。
“場”があることで人が集まり、そこから活動が広がっていく
切り口を変えて、谷口からの「若い頃過ごした場所で、何かのきっかけで活動の幅が広がったことがありますか」という質問に対しては、安野さんから横浜・埼玉での経験のシェアがありました。20代の頃、横浜市の元関東財務局の建物を改修したアート施設「ZAIM」で宿泊施設の管理人をしながら制作活動をしていた時期があり、生活のランニングコストを押さえながら活動ができたそうです。さらに、その後移り住んだ埼玉・南浦和でも、大家さんがアートに理解のある方で、面白い出会いもたくさんあり、新たな交流が生まれたとのこと。
谷口も「“場”があることで人が集まり、そこから活動が広がっていく」実例として、名古屋での不動産オーナーの方々の取り組みを紹介しました。
名古屋市北区の「金城市場」という古い公設市場の不動産オーナーは、月に一度マーケットイベントを開催しています。その場に共感する人々が集まり、空き家の多かったエリアに文化に関心のある人たちが増えるなど、ここ数年で盛り上がりが見られます。また、南区の内田橋商店街でも、街の祭りや劇団誘致など、文化とまちづくりを融合した取り組みを進めている積極的な不動産オーナーの存在についても紹介しました。
港エリアで開催されてきた『アッセンブリッジ・ナゴヤ』など行政が主導してきた“まちづくり×アート”の流れに加え、このような行政に依らない個人の取り組みが着実に地域に根を下ろし、新しい生活と芸術のかたちが生まれています。
それを受けて野村さんは「日本文化政策学会が行われた八戸のような20万都市などはある程度行政がリードしていくべきだが、名古屋は都市規模も大きく、行政でなくてもある程度の規模の人たちが動く可能性もある。地主さんとか不動産を扱う民間の方々が、自分たちがやりたいことを起こしていくのが、名古屋にとってのポテンシャルだと思う」とコメントしました。
谷口から「名古屋にもっとこうなったらいいなというのはありますか」と問われ、野村さんは以下のように話されました。
「信州アーツカウンシルの活動を通じて、支援を受けたアーティストたちが『自分と似た関心を持つ人が他にもいると知れたことが嬉しかった』と話してくれることが多く、そうした“視える化”自体が支援になっている。たとえば今回私自身も、名古屋に来るにあたり、クリエイティブ・リンク・ナゴヤの報告書を読み、『パルル』というオルタナティブスペースを訪ねてとても良い経験になった。名古屋の中で点在する個人の活動が“視える”ようになってきているのは、クリエイティブ・リンク・ナゴヤの存在によるものだと思います」
「名古屋は適度に暇だからよい」。“人ベース“での活動の展開
聴講者の皆さんには「Slido」というウェブサービスを通して、リアルタイムで感想や質問を投稿していただきました。後半にはその投稿の一部が読み上げられ、ゲストがそれに答えていく形でトークが進行しました。その中からいくつかご紹介します。
Q:前半の安野さんの(名古屋は)適度に暇だからよい」に同意します。
A:「適度に暇だと自分でやるしかないし、自分でやった方が面白いなってなってくるんですよね。その辺の塩梅が名古屋は両方あるんじゃないかな」(野村さん)
Q:名古屋はイベント開催地として飛ばされがち。
A:「あまり気になったことがないのですが、多分関東圏や関西圏と並びで見てしまうから「飛ばされる」という発想になるのかもしれませんね。国などにこだわらず全然異なる都市や地域の人とつながり、独自の交流や活動をつくり、名古屋でしかやっていないことが沢山あると認識してもらい、各地から来てもらえばよいのではないでしょうか。かつて山口に暮らしていたときに、中国・九州地方で人ベースのダイナミックなネットワークでいろんなことが起こっているのを見て、こういう信頼を軸に物事が起こる感じはとてもよかったなと思い出しました。」(服部さん)
名古屋での美術画廊をはじめとするコマーシャルシーンについての問題提起や、個別で海外アーティストの招へい活動を行っているコーディネーター、活発なオルタナティブスペースの動きなども言及され、進行とともに会場の空気はますます熱気を帯び、読み上げるごとにどんどん新たな投稿が追加されていきます。最終的にはすべてを紹介しきれないほどの反響が寄せられました。
最後には野村さんから「“耕す”ことが結構必要なんですよね。それは実は誰かにやってもらうのではなくて、自分でやろうとすればできたりする。そういう時にやっぱり県とか市とかのサポートも非常に重要。卵と鶏の話にもなってくるっていう意味で、両方あった方がいいですよね。(名古屋は)クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成制度とかがあるわけだから、条件は整っている。レジデンスできる遊休施設とか、不動産の人の関心もすでにあって、それをできるアートマネージャーもいる。あとはタイミングと規模だけですよ」との感想がありました。
名古屋の文化芸術の現場には、まだまだ語りきれない可能性がある——そう実感させてくれる夜でした。
「名古屋らしいアート」とは、決して一つの答えに収まるものではありません。だからこそ、こうした対話や共有の積み重ねの場が、名古屋で活動する方々の想いや取り組みを後押しする機会となればと感じます。
今後もリンク・カフェは、名古屋のアートを多様な視点で見つめ直す時間をつくっていきます。今回参加できなかった方も、ぜひ次の機会にご参加ください。
■ 参考記事
トピックス|3月24日(月)開催 つながる∽つなげるトークシリーズ “リンク・カフェ”「語ろう!名古屋らしいアートのかたちって何?」