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2025.7.2
【CLN活動レポート】つながる∽つなげるトークシリーズ“リンク・カフェ”「名古屋のアート拠点の挑戦」
名古屋のアートシーンの現在地とこれからを語る——リンク・カフェ「名古屋のアート拠点の挑戦」開催レポート
2025年3月12日、松坂屋名古屋店本館8階のカフェ「unique」にて、クリエイティブ・リンク・ナゴヤ主催によるトークショー&交流会「名古屋のアート拠点の挑戦~3つの新拠点が描く未来図~」が開催されました。本イベントは、名古屋市に2024年に新たに誕生した3つのアート拠点「SLOW ART CENTER NAGOYA」「PALET.NU」「ART HUB NAGOYA」の関係者が登壇し、それぞれの拠点の取り組みやビジョンを紹介しながら、名古屋のアートシーンの未来について語り合う貴重な機会となりました。
日時|2025年3月12日 19:00~21:00
会場|松坂屋名古屋店 本館8階 ART HUB NAGOYA内 カフェ「unique」
パネリスト|SLOW ART CENTER NAGOYA プロジェクト コーディネーター 安藤卓児氏
PALET.NU クリエイティブ・ディレクター 浅井信好氏
株式会社大丸松坂屋百貨店 本社営業本部MDコンテンツ開発第1部 専任部長 アート担当 荒川知二氏
モデレーター|山本さつき氏(美術批評/キュレーション)

開催の様子
3つのアート拠点について
それぞれの拠点は、立地や運営主体、展開のかたちは異なりますが、地域に根ざしたアート活動の新たな可能性を模索する場として始動しています。
■「SLOW ART CENTER NAGOYA」
中区・旧名古屋市教育館跡地に誕生した、屋外のパークと屋内施設からなる複合型の文化拠点。屋外ではアーティストによる展示やイベントが行われ、屋内にはラボやアートスクールのほか、日本最大級の大型サウナやグルメエリアが併設されています。アートと日常が緩やかに交わる空間として設計されており、訪れる人それぞれのペースで過ごせる場所となっています。公式サイト
■「PALET.NU(パレットニュー)」
中川運河沿いに期間限定で開設された、創造交流拠点。地域住民、アーティスト、市民団体、企業、行政など多様な主体が関わる中川運河再生の取り組みの一環として位置づけられています。施設内では展示やイベントのほか、文化資源の再発見や活用を目的としたワークショップなどが行われており、常駐のコミュニティマネージャーによるサポートのもと、誰もが気軽に参加できる協働の場が育まれています。公式サイト
■「ART HUB NAGOYA」
2024年12月、松坂屋名古屋店8階の全面改修により誕生した新たなアート発信拠点。若手育成や地域との連携によって東海エリアのアートマーケットのハブとなることを目指しています。公式サイト

会場となった ART HUB NAGOYA のロゴ
イベント前半は、パネリストがそれぞれの施設の理念や取り組みについて紹介しました。
大規模改修を経て装いを新しくした松坂屋名古屋店ART HUB NAGOYA内の会場には、美術関係者やメディア関係者、アートファンなど幅広い層が集まり、満席となる盛況ぶりを見せました。イベント前半ではパネリストが各施設の理念、取り組みについて紹介しました。
「SLOW ART CENTER NAGOYA」では解体可能なネオメタボリズム建築が採用されており、レストランやサウナと共存する施設構造となっています。そこで、地域住民と協働する「SLOW ART MARKET」や「明後日朝顔プロジェクト」など、アートを通じたコミュニティづくりを重要視した取り組みが多く行われています。
中川運河エリアで時限的にスタートした「PALET.NU」では地域密着型の取り組みが行われています。過去10年間にわたるアート助成「ARToC10」の展開を通じて蓄積されたアーティスト、市民団体、地域住民といった多様な資源を基盤として、農園部や子どもアート部、DIY部などの多様な「部活動」が実施されています。将来的には陸上と水上を活用して、地域の祭りの復興も目指しているそうです。
松坂屋の「生活と文化を結ぶ」理念に基づいた新しいフロア「ART HUB NAGOYA」では、アートギャラリーとしての運営だけでなく、ARToVILLA、The Chain Museum、AnotherADdressとの連携、公募展「いい芽ふくら芽」による若手育成、大学や地域企業との連携によるエコシステム形成など、多岐にわたる活動がなされており、商業施設内におけるアート発信の新たな可能性の開拓に力を入れているそうです。

ART HUB NAGOYA の取り組みについて話す荒川氏
イベント後半では、美術批評やキュレーションを手がける山本さつき氏をモデレーターに迎え、名古屋のアート施設のこれまでを振り返るセッションが行われました。

モデレーターの山本さつき氏

山本さつき氏のスライド(一部)
山本氏は、名古屋におけるアートの歩みを、「百貨店による公募展支援」、「文化施設建設ラッシュ」、「オルタナティブスペースの盛行」という三段階で整理。戦後、松坂屋をはじめとする百貨店が戦後の文化支援を担った点や、1980年代には最先端の文化施設を建築し地域の文化水準を先導するという政策のもと名古屋市美術館が開館され、名古屋圏のアート活性化に伴いICA, Nagoyaなど民間主導のオルタナティブな活動へ、さらにアーティスト・ラン・スペースが注目を浴びた90年代へ、そして近年のクリエイティブ・リンク・ナゴヤ設立までの流れを概観しました。
今回新たにオープンした3拠点がその文脈の延長線上にありながら未来を切り拓く可能性を持っていると締めくくり、次第に会場も熱気を帯びてきました。

左から山本さつき氏、安藤卓児氏、浅井信好氏、荒川知二氏
その後、登壇者全員によるトークセッション「名古屋のアートの未来図」へ。
「持続可能な拠点運営のあり方」、「地域とアートの関係性」、「アートという概念の広がり」など、それぞれの立場からアートを媒介とした都市の未来像が語られました。一部を抜粋してご紹介します。
「都市ゆえにバックボーンに関係なくアートを中心としたコミュニティを作れることができるが、成果を検証したりアーカイビングしたりすることも必要」(安藤氏)
「地域と共に歩んでいくのであれば、何をもってこの地域のアートとするかを考えつつも、アートが持つ潜在的な力によって何かが磁場として生まれることも信じている」(浅井氏)
「アートのもとで経済と文化を両輪で回し、地域独自のやり方でアートを盛り上げる」(荒川氏)
イベント終了後は、登壇者や参加者同士が名刺交換や意見交換を行うネットワーキングの場を設け、こちらも大きな盛り上がりを見せました。
名古屋におけるアートとまちづくりの新たな連携に向けた可能性を感じるひとときとなりました。
参加者からは「名古屋のアートに携わる各方面の方の生の声を伺うことができて有意義なイベントでした」「市民の生活が豊かになる持続可能なアートのエコシステムにつながると思いました!」「こういう話が聞ける場をもっと増やしてほしい」など、熱気と今後の期待に満ちた感想が多数寄せられました。
新たな拠点の誕生は、名古屋の文化芸術をより豊かにし、広く市民へと浸透させていく大きな契機となることでしょう。各施設の今後の活動にもぜひご注目ください。
■ 参考記事
トピックス|3月12日(水)開催 つながる∽つなげるトークシリーズ “リンク・カフェ”「名古屋のアート拠点の挑戦~3つの新拠点が描く未来図~」