アトリコナゴヤ
パイロット事業
インタビュー
2025.9.11
アトリコナゴヤ②「芸どころ・名古屋を再発見してください」 – 日本舞踊西川流 四世家元 西川千雅さん
クリエイティブ・リンク・ナゴヤがこの度スタートする特集記事「アート・リコメンド・ナゴヤ(アトリコナゴヤ)」は、名古屋をもっと楽しむための文化芸術ガイドです。芸術の秋、「国際芸術祭あいち2025」も開催される本年は、名古屋でもさまざまなアートイベントがめじろおし!その中で何を観に行こうか迷っているあなたに、その道のプロフェッショナルの方々が、美術・音楽・舞台などから推しのイベントをリコメンドします。
第2回は、日本舞踊西川流を継承する四世家元の西川千雅さんです。
西川千雅さん プロフィール
1969年、西川流三世家元・西川右近の長男として名古屋市に生まれ、6歳で初舞台を踏む。高校まではアメリカンスクールに通い、渡米してニューヨークの美術大学を1992年に卒業。帰国後に日本舞踊家として本格的に活動を始め、2014年から西川流四世家元を継承。70年以上続く公演「名古屋をどり」を主宰し、全国で芸妓・舞踊家の指導にあたっている。舞台やドラマ出演のほか、「にっぽんど真ん中祭り」や「やっとかめ文化祭」の運営、愛知県の観光PR団体「あいち戦国姫隊」や岡崎市の「グレート家康公『葵』武将隊」の立ち上げを行う。日本舞踊を使った健康体操「NOSS(ノス)」の普及に努め、2019年に藤田医科大学医療科学科修士取得。名古屋外国語大学、中部大学客員教授、愛知淑徳大学非常勤講師。
私のリコメンド 1
名古屋城正門の向かいに位置する名古屋能楽堂では、年に6回、定例の公演が催されています。9月は生誕100年の三島由紀夫が現代劇に翻案した源氏物語と紫式部に関わる能の2作品などを、10月は三島が代表作『金閣寺』の中で触れた能「弱法師(よろぼし)」などを上演するそうです。
実は、私自身も能を習いに能楽堂に通っています。日本舞踊のルーツを感じさせて非常に面白いのです。江戸時代の武家社会から盛んだった能は、名古屋で今も盛んな「習い事」の原点のようなもの。その重要な拠点である能楽堂で、芸どころ名古屋の歴史の奥深さを感じてみてはいかがでしょうか。
私のリコメンド 2
名古屋を拠点に琴を広める音楽団体「正絃社」は、北海道から九州まで各地に教室があり、全国的に知られています。初代家元・故野村正峰さんの創作曲を中心に、古典から現代音楽まで幅広く演奏し、今年は創立60周年で御園座の舞台に約200人が出演して「松竹梅」「美吉野」「月の船」「回転木馬」などの24曲を披露するそうです。琴がずらりと並んだ舞台が回り出すという、あっと驚く仕掛けでも有名で、けれん味のある派手な演出を好む名古屋芸能の真骨頂と言えるかもしれません。
私のリコメンド 3
第78回を数える日本舞踊西川流の「名古屋をどり」を、エンタメ色豊かな「NEO」スタイルで再構築する舞台。芸妓の競演や女流落語の旗手・蝶花楼桃花の落語、その噺を元にした舞踊劇「元禄おんな忠臣蔵」を上演します。今年のゲストはフィギュアスケーターの高橋大輔さん。私の相手役として赤穂浪士の大石主税役を演じます。氷から板の上に舞台を変える高橋さんが、どんな演技と舞踊を見せてくれるか、乞うご期待です。あくまで楽しいイベントを目指しており、食や買い物のついでに観劇したら、その中に日本舞踊が入っているというぐらいの感覚で観に来てください。
私のリコメンド 4
名古屋の歴史・文化の魅力を一堂に集めたまちの祭典として2013年度に始まった「やっとかめ文化祭」は、2023年度から名称に「DOORS」を付け足して、名古屋文化への入り口となる「扉」をより増やそうという試みがされています。私は「まちなか芸披露」の担当ディレクターとして、今年は栄の地下街での辻狂言などを企画中。辻狂言は、街を歩いていると偶然、出合ってしまうゲリラ活動のような芸能です。ぜひ見に来てください、というより、街を歩いて偶然出合ってください。
私のリコメンド 5
愛知県芸術劇場の芸術監督で「Dance Base Yokohama(DaBY)」アーティスティックディレクターの唐津絵理さんが企画・プロデュースした作品群が、国際芸術祭「あいち2025」の期間にあわせてフェスティバル形式で上演されます。唐津さんはローカルに世界の宝を持ってくるという視点で、とても質の高い芸術を紹介してくれます。また、会場の一つであるメニコン シアターAoiは、地元名古屋の企業が文化的な視点を持って2年前にオープンさせた劇場で、やはり全国の良質な舞台や人を名古屋に呼び込んでいます。そうした二重の意味で価値のある公演だと言えるでしょう。
ナゴヤにコメント
名古屋は確かに「芸どころ」として栄えてきましたが、上方(関西)と江戸(東京)に挟まれ、どうしても「主役を迎える」立場でした。ですから本来の意味で名古屋由来の芸能というのは少なく、定期的な公演も限られているのが現実です。
そうした中で、上記の公演の他にも円頓寺を拠点にする「カブキカフェナゴヤ座」は熱狂的なファンが通い詰め、外国人にも喜ばれる日本でも数少ないエンタメ拠点になっています。大衆演劇場では、熱田区に「雷鳴座」という常設の芝居小屋が2020年にオープンしています。大衆演劇の舞台は、日本舞踊も取り入れながら超現代的な“日本のHIP-HOP”と呼べるほど衝撃的です。
歴史的な拠点としては「大須演芸場」があります。経営難で一時閉館後の2015年に営業再開してから今年で10周年となり、10月には記念興行もあるそうです。場の再生という意味では東区の「文化のみち橦木館」も要注目。旧商家の洋館と和館を利用した文化施設で、現在は料亭「河文」の若女将だった香川絢子さんが館長となって斬新なイベントを企画しています。ぜひこうした場で「芸どころ・名古屋」を再発見してください。