まちづくり
2023.3.22
採択事業紹介① 「クリチャレ ー名駅南クリエイティブチャレンジー」
クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2022年度助成事業において、「社会連携」をテーマに採択された事業を4回にわたってご紹介します。主催者の皆さんの、各分野との「つながり」についてインタビューしました。
第1回は「クリチャレ ―名駅南クリエイティブチャレンジ―」を行う近藤多喜男さん(名駅南地区まちづくり協議会会長、近喜商事代表取締役)と伊藤孝紀さん(名古屋工業大学大学院准教授、タイプ・エービー主宰)にお話を伺いました。
【イベント概要】
事業名:クリチャレ ―名駅南クリエイティブチャレンジ―
実施者名:名駅南地区まちづくり協議会
日時:3月3日~10日
会場:名駅南地区
内容:レンタルスペース(クリばこ)と駐車場や祢宜公園を舞台に、来場者が劇場型パフォーマンス、ストリートアートなどに出会い、参加体験できる「クリチャレ SEED NIGHT」と、クリエイターと来場者の共作によってSPROUT(発芽)した作品を展示する「クリチャレ FLOWER WEEK」を開催します。この地域で持続的にクリエイティブな機運を高めるための社会実験であり、また来場者とクリエイターの出会いを促し、新たなコラボレーションやビジネス機会につなげることを目指すプロジェクトです。
【インタビュー】
近藤多喜男さん(名駅南地区まちづくり協議会会長、近喜商事代表取締役)、伊藤孝紀さん(名古屋工業大学大学院准教授、タイプ・エービー主宰)
クリエイティブチャレンジの拠点でもある「クリばこ」の前で、まち歩きMAPを手にする近藤多喜男さん(右)と伊藤孝紀さん
――まずは、この名駅南地区の歩みをお話いただけますか。
近藤 私の子ども時代の60年ぐらい前まで、この地区はさまざまな商店が立ち並ぶ活気あふれる街でした。しかしその後、街としては荒んでいってしまった時期があったので地域の住民が「安全安心なまちづくり」を目指して地元企業なども連携を始めました。
2010年代に入ると、リニア中央新幹線の開業を見据えて名駅周辺でさまざまなまちづくりの動きが活発化しました。そこでこの地区でも新たなまちづくりのビジョンを作ろうと、2016年に発足したのが「名駅南地区まちづくり協議会」です。
――その協議会が「クリエイティブ」を打ち出すようになったのはなぜですか。
近藤 まちづくりビジョンを検討する中で、文化の創造が一つのキーワードになっていました。また、この地区から東に連続する「栄ミナミ」地区では音楽祭など文化的イベントが非常に盛り上がっていました。実は、その音楽祭を見に行ったときに出会ったのが今アドバイザーとして関わっていただいている名工大の伊藤先生だったんです。
伊藤 私はもともと建築家ですが、クリエイティブの面から次の産業創造や人材育成が名古屋圏に必要だと考え、栄ミナミ地区の活動にも関わっていました。名駅南は「三蔵通(みつくらどおり)」によって栄ミナミと連続し、その通り沿いをクリエイティブにすることが、名駅地区と栄地区をつなぐことにもなると考えました。そこで両地区のまちづくり連合体として「NAGOYA創造協議会」を2015年に発足。クリエイティブをテーマに、まちづくり関係者を招いたフォーラムを開催し、三蔵通を中心とした名古屋の未来を議論しました。
名駅南地区の特徴と周辺地区との関係(伊藤さん提供)
――その後、伊藤さん自身が三蔵通沿いにオフィスを開いたんですね。
伊藤 近藤会長の所有する立体駐車場の1階をもっとまちづくりに有効に活用したいと紹介され、2018年に自らリノベーションしました。元の柱や筋交いは生かしながら、ガラス張りで開放的な雰囲気に。奥には自分のデザイン事務所を移転させ、手前は貸しスペースとして、まちづくりの活動に加え、ミーティングやイベント、ワークショップなどに使ってもらえるようにしました。クリエイティブな人たちの集まる場所という意味を込めて「クリばこ」と名付けています。
――ここが今回の「クリエイティブチャレンジ」の舞台でもあるんですね。
伊藤 はい、自動車と共存するリノベーションとしてのハードはできました。次はソフト面の動きとしてここを拠点としたクリエイティブサロン「クリさろ」を2018年と2019年に6回ずつ開催。防災やフェアトレード、日本舞踊やパン作りなどに取り組むクリエイティブな人たちを招き、交流が広がりました。2020年からは新型コロナウイルス禍で3年間、活動が休止してしまいましたが、再出発として2022年10月に開いたのが「クリチャレ」のキックオフイベントです。
――どんな人たちを招いたのですか。
伊藤 音楽家や演劇の学生グループ、書道家や舞踊家のほか、「ドラァグクイーン」にも来てもらいました。パフォーマンスは刺激的で、演劇とのコラボでも圧倒的な存在感が、このクリばこの空間を超えて屋外の道路まで広がっていきました。他に編集会社の建物とお寺の3カ所を会場にしたのですが、それぞれでクリエイターたちが互いに刺激を受け、新しいものを生み出す瞬間を見ることができました。
2022年10月の「クリチャレ」でパフォーマンスを見せる「ドラァグクイーン」の2人(伊藤さん提供)
「クリチャレ」で書と踊りのコラボを披露する日本舞踊西川流家元の西川千雅さん(伊藤さん提供)
――3月には助成事業として第2弾が開かれるというわけですね。
伊藤 ちょうど次の展開を探っているときに今回の助成事業があったので、応募させてもらいました。今回はクリばこと「祢宜(ねぎ)公園」という小さな公園の2カ所を会場とする予定です。1日目は夕方から来場者が劇場型パフォーマンスやストリートアートなどに出合い、参加体験できる「クリチャレ SEED NIGHT」を、2日目から1週間はクリエイターと来場者の共作によってSPROUT(発芽)した作品を展示する「クリチャレ FLOWER WEEK」を開催します。
――なぜ今回は新たに祢宜公園を会場に選んだのですか?
近藤 まち協では3年前からワークショップを重ね、喫煙者ばかりの“灰皿公園”となってしまった祢宜公園を、再び地域の子どもたちの公園に取り戻すため、いろいろな方策とビジョンを考えてきました。その流れで昨年11月から、人工芝を敷いて公園本来の利活用を再び生み出すための社会実験に、町内会や学区の方々と一緒に取り組んでいます。こういった地域の動きを加速させるために、クリエイティブという切り口を今回取り入れようとしたのです。
――どんな人たちに参加してもらいたいですか?
伊藤 エリア内の住民や働いている人たち、協議会の会員企業の社員や家族などです。コロナ禍でライフスタイルの価値観も変わっているので、クリエイティブを専業にする方々だけでなく、副業や趣味など多様な人材の発表や交流の機会になればと考えています。
この地域で持続的にクリエイティブな機運を高め、来場者とクリエイターとの出会いを促して新たなコラボやビジネスの機会創出につなげてもらいたいです。
近藤 この地区にはこれから巨大なマンションが出来て住民も増えるはずですが、何もしなければ地域との関わりはないままでしょう。日常的にクリエイティブと出会える街になれば、この地区に住むことの価値が高まり、さらに感度のいい人たちが集まってくるはずです。コロナで飲食店の経営が厳しいこともあり、飲食店を網羅したまち歩きマップも作りました。まだまだ手探りですが、実験的な試みを一つずつ実行していきたいと考えています。
シェアキッチンも設けられ、通りに開かれる「クリばこ」(伊藤さん提供)