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2025.12.25

【2025年度助成レビュー】なごや裏山芸術祭実行委員会「なごや裏山芸術祭2025」文:武藤隆(大同大学教授)

なごや裏山芸術祭が開催された西山商店街    写真:相模友士郎

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2025年度助成プログラムのうち、「社会連携活動助成」で採択された事業の模様を、6回に渡ってご紹介します。第2回は武藤隆さんによるレビューです。

 

【社会連携活動助成A】
事業名|「なごや裏山芸術祭2025」
採択者名|なごや裏山芸術祭実行委員会
活動領域|まちづくり
連携先の分野|美術
実施日・会場|2025年11⽉1⽇(⼟)〜24⽇(⽉・祝)の⼟⽇祝 計10日間 未完美術館、空き店舗2箇所ほか(名東区)

公式ウェブサイト|なごや裏山芸術祭2025 / Instagram|@urayama.artfes

 

■ 武藤隆 大同大学教授

なごや裏山芸術祭 2025

 

今年は国内でも多くの芸術祭が開催され、筆者も多くの地を訪れた。

時系列で記すと、BEPPU PROJECTによる[ALTERNATIVE-STATE #5] Bluebird Sign/青い鳥のしるし、瀬戸内国際芸術祭2025(春会期・夏会期)、国際芸術祭あいち2025、中之条ビエンナーレ2025、アートサイト名古屋城2025、ひろしま国際建築祭2025、岡山芸術交流2025、瀬戸内国際芸術祭2025(秋会期)、そして今年の最後に訪れたのが「なごや裏山芸術祭 2025」だ。瀬戸内やあいちのように、6回目で15年を数えるものから、ひろしまや「なごや裏山芸術祭 2025」のように今年立ち上がったものまで、さまざまだが、どこもまちなかを使って展示をしていることが共通点だ。そんな比較も交えながら「なごや裏山芸術祭2025」について振り返ってみたい。

 

未完美術館で展示されたヤスダキヨシの作品    写真:相模友士郎

 

「なごや裏山芸術祭2025」は今年立ち上げられた芸術祭で、名古屋中心部から見て東山の“裏”にあたるエリアを会場として開催された。その「裏山」エリアから新しい芸術文化を芽吹かせ、まち全体に広げていくことを目指し、多様なアーティストと地域の人々が協働して企画され、主会場を、西山商店街の「ニシヤマナガヤ」を始めとし、付近の空き店舗も活用するとともに、アクセス地でもある星ヶ丘エリアにも展開していた。展示・音楽ライブ・ワークショップ・パフォーマンスなど、ジャンルを横断するプログラムを通して、日常と芸術が重なり合う新しい時間と空間を届けることに挑戦していた。

 

小澄源太によるライブペインティング(和太鼓奏者・浅野聡太とのコラボレーション)    写真:CLN事務局

 

小澄源太 ワークショップ「精霊のお面を作ろう!」    写真:なごや裏山芸術祭実行委員会

 

この芸術祭を語るには、2018年に企てられた名古屋市による「ナゴヤ商店街オープン」にまで遡らなければならない。

西山商店街は、少子高齢化が言われる中でも子育て世代の流入が多く、市内でも一二を争うマンモス小学校を持つ立地であるが、60年ほど前に住宅都市整備公団が整備した街の中に作られたこの小さなショッピングモール的な商店街は、空き店舗が目立つ存在となっていた。近隣の星ヶ丘テラスの影響を跳ね返すような「目的の場所」になるコンテンツを導き出すためのワークショップをきっかけに、本芸術祭の主催者の一人でもある植村康平の提案により、「ニシヤマナガヤ」の計画が作られただけでなく、植村夫妻らが自ら事業者としてそこに拠点を構えて、再生のきっかけを作ったのが始まりだ。その後「ニシヤマナガヤ」を拠点として、西山商店街の空き店舗が一つ、また一つと植村たちの手により魅力化され新規に利用されるようになり、賑わいが取り戻されつつある中で、その界隈を利用していた建築家、美術家、デザイナー、アーティスト、大学教員が、出会い、意気投合し、企画されたのが、この芸術祭だ。

 

野村祐介の総合ディレクションによる「植物と記憶の部屋」、へへへのおへや    写真:相模友士郎

 

なごや裏山芸術祭とやや大上段に構えた名称とは裏腹に、地道に続けられたコンパクトな地域のまちづくりと連動し、土日祝のみを開催日として集約化しつつ、界隈を利用している住民の参加や、Instagramを中心とした広報によって引き寄せられたこのまちを好きになりそうな人たちが集まることによって、微笑ましい光景がこの界隈のそこかしこでみられることとなった。

 

押忍!手芸部[部活]「ハート ドキドキ」ワークショップで制作した大きなハート、椙山女学園大学体育館/部長:石澤彰一    写真:相模友士郎

 

一方、今後も継続を試みるとのことだが、「ニシヤマナガヤ」を起点とし「なごや裏山芸術祭」に至る魅力化によって、自ら小さなジェントリフィケーションを生んでしまい、展示展開のできる空き店舗がなくなってしまい、活動の展開が危ぶまれる可能性や、同じ企画者と出展者による展開が続くと来場者に既視感を与えてしまう可能性もあり、地域の魅力を最大限生かしつつ、今回とは異なる魅力をどのような企画で生み出していくのかに期待したい。

 

小松大×長尾晃司DUOによる音楽パフォーマンス、Live at H GARAGE    写真:CLN事務局

 

なごや裏山芸術祭のインフォメーション拠点となった「コトづくり研究所」    写真:相模友士郎

 


■ なごや裏山芸術祭実行委員会の事前取材記事もあわせてご覧ください。

 

2025年度助成採択事業紹介③ なごや裏山芸術祭実行委員会「なごや裏山芸術祭2025」