【2022年度助成事業レビュー】鈴木一絵「PLACENESS」文:勝田琴絵/名古屋市美術館学芸員 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2023.5.3

【2022年度助成事業レビュー】鈴木一絵「PLACENESS」
文:勝田琴絵/名古屋市美術館学芸員

 

2022年度に採択されたクリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成事業のうち、「社会連携」をテーマにした助成A・助成Bの専門家によるレビューを、4回に渡りご紹介しています。2回目は、勝田琴絵さんによるレビューです。

 

【助成A】
助成事業名:PLACENESS(作品展示・トークイベント・アーティストブック)
実施者名:鈴木一絵
連携分野:国際交流
日時:2023年3月11日(土)・12日(日)
会場:Q SO-KO(名古屋市中川区外新町2丁目 84)

 


 

■勝田琴絵 名古屋市美術館 学芸員

 

鈴木一絵が主宰し東南アジアと日本の交流活動をおこなうSEASUNと、現代美術の展示や施工をおこなう集団ミラクルファクトリーで借りている中川区の旧倉庫スペースが、「Q SO-KO」としてオープンした。

そのオープニング企画として、タイ出身のプラープダー・ユンとロンドン在住のさわひらきによる、「PLACENESS」をテーマとした展示とアーティストブック制作がおこなわれた。また3月11日と12日の2日間には彼らによるトークと映像上映が開催された。

 

 

プラープダー・ユンは、「エコーロケーション(反響定位)」をタイトルのモーショングラフィックスを制作。彼は、名古屋に住む東南アジア人に、「故郷」から遠く離れた日本での暮らしについて尋ね、彼らが答えている声を抽象的な形象によるアニメーションに転換させた。

さわひらきの制作したインスタレーションは、室内に人が入れるほどの小屋を建て、なかに映像作品や絵画を配置したものだ。寒いロンドンのスタジオ内で温まるためにつくりはじめ、スタジオ退去とともに手放さなければいけなくなった小屋が、作品として再生されている。

 

 

 

 

 

アーティストブック内で彼ら自身が認めるように、プラープダーとさわは、それぞれの住む場所でどこか外から見るような「よそ者」の感覚を感じる、という共通点がある。プラープダーはアメリカで長く過ごし、「タイ出身ではあるが自分を東南アジア人と呼ぶことにいつも違和感を感じてきた」。また、さわは高校卒業後からロンドンで学ぶが、まだ常にどこか「ヒリヒリしながら生きている」感覚があると語る。

 

 

一方で対談のなかでは、二人の制作態度の違いも明らかになった。プラープダーは映像作品等ひとつのプロジェクトを具現化させる過程でさまざまな人と協働することを楽しむが、さわは一人で仕事をするのが好きで、一人で黙々と絵画を描くように映像作品やインスタレーションを作りたいという。

 

 

これらの違いは、今回展示された作品にも表れていると言えるだろう。プラープダーの映像作品に登場する人々は、自分の位置を確かめるために他者へ語る。外へ発信して反響を得ることによって、他者や世界との接点が生まれるという考え方だ。一方で、さわによる小屋の作品は、異邦人であるさわにとって安全なシェルターのように機能していた場所を象徴しているものだ。そうした場所を確保しておくことで、他者や外の世界と交流できるということだろう。

 

 

展示のテーマとなった「PLACENESS」とは、抽象的な「場所感覚」のことで、物理的な「位置(location)」や「帰属意識(belonging)」とは異なる語だという。むしろそれは、おそらく他者や世界との関係の築き方と密接に関わる問題であり、本展ではまさに二人の「PLACENESS」の共通点や差異が浮き彫りになっていた。さらに展示や対談イベントを通して、鑑賞者はそれぞれに、自らの「PLACENESS」についても内省を促されたことだろう。

 

 

 

 

スペースを活用した今後の活動について、SEASUNの鈴木は、頻繁に東南アジアのアーティストが来る場所、そして名古屋にいる色々な人たちが気軽に集まれる場所にしたい、と語る。

東南アジアのアートは、食文化と比較してまだあまり浸透していないため、まだまだ今後の可能性があるだろう。また、アーティスト・イン・レジデンス機能をもつ場所として、同スペース内にはミラクルファクトリーの工房があるため、招聘したアーティストがアイディアを具現化する手助けまで行える、というメリットをもつ。

 

コロナ禍を経て海外との行き来が再開しつつある今、名古屋で新たな交流が生みだし多様な価値観を共有する拠点として、Q SO-KOは機能していくことだろう。すでに名古屋港周辺を拠点に展開している「Minatomachi Art Table, Nagoya」や「アッセンブリッジ・ナゴヤ」との連携による、点から面への活動の拡がりも期待される。

(写真:STUDIO COM 三田村壮志)