社会連携事例紹介
レビュー
まちづくり
2023.5.5
【2022年度助成レビュー】タキナオ 「umino-ito ~かつての海辺でうまれる縁の糸」
文:井上昇治/「OutermostNAGOYA」主宰
名古屋市南区にある笠覆寺(笠寺観音)
2022年度に採択されたクリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成事業のうち、「社会連携」をテーマにした助成A・助成Bの専門家によるレビューを、4回に渡りご紹介しています。最終回は井上昇治さんによるレビューです。
【助成A】
助成事業名:umino-ito ~かつての海辺でうまれる縁の糸
実施者名:タキナオ
連携分野:観光・まちづくり
日時:2023年3月13日(月)~19日(日)
会場:笠寺観音境内会館前(名古屋市南区笠寺町)
■井上昇治 「OutermostNAGOYA」主宰
笠寺観音の境内。本堂の横に、木材フレームを組んだインスタレーション作品が置かれている。高さ2メートル超。前方が開いた半ドーム型の立体が羽を広げたような形状である。フレームには、半透明のフィルム素材が張られている。この作品と前に広がる空間が、3月19日夜に繰り広げられたパフォーマンス「海を孕みくる」の仮設舞台である。
全体が《umino-ito》と題されたこのイベントは、パフォーマンスだけで完結するものではない。参加する人が変わりながら、出来事が継起的に展開し、つながっていくのである。一連のプロセスで、人と人、人と歴史、地域を結びつける。もっと言えば、これまで笠寺のまちづくりに関わってきた人たちの活動がベースにあって、全体の流れができている。
会場のインスタレーションは、3月13日から17日まで、制作過程が公開された。公演前日の18日には、ワークショップ「いま、うまれる音」が開催され、地域の子どもたちが、食品容器、紙筒などのリサイクル素材、ビーズ、ゴム、風船などで楽器を制作。ちんどんやさんのように音を鳴らして楽しんだ。
公演当日19日の夕刻、開演前に訪れると、午後5時半ごろから、まちあるきのイベントに参加できた。前日に子どもたちが作った楽器を引き継ぎ、鳴らしながら笠寺観音の周辺を歩くのである。これが楽しかった。NHKの「ブラタモリ」のように、笠寺観音周辺でまちづくりに取り組むガイドの方と一緒に歴史の痕跡を発見するのである。
名古屋生まれでありながら、全く知らなかったのだが、このあたりの笠寺台地は、かつて「松巨島(まつこじま)」という南北3キロ、東西1.5キロのくさび形の島で、周囲は海だった。尾張四観音に数えられる笠寺観音は、1300年近い歴史をもつ。縁結びの玉照姫伝説が伝わり、門前を旧東海道が通っている。戦災を免れ、大通りを避けて歩けば、在りし日の名残をしのぶことができる。
ひんやりとした空気が夕闇にしみわたった午後6時半、いよいよパフォーマンスの幕開けである。このイベントの主宰者である名古屋市在住の画家、タキナオの映像を中心に、ダンサー、ミュージシャンなどがクリエイションに参加したコラボレーション作品である。
半ドーム型のインスタレーションに張られたフィルム膜がスクリーンになって、映像が投影される。深く謎めいた原始の海、母胎の羊水のイメージが流動感とともに変化していく。光をはらんだ多彩な色がうつろい、宇宙の煌めきのようである。少女2人と女性のダンサーがステージを歩き、ゆっくりと体を動かしながら、しなやかに自身を空間に溶け込ませる。宇宙とつながりながら、重力をも感じ、柔らかく揺らめきながら命をはぐくむように交感し、和合する神秘的な、静かなダンスである。光と音、映像の中でたゆとう3人は、精霊のようにもシャーマンのようにも見える。やがて、光を発するオブジェ《光の種子》がステージに置かれる。静寂に包まれ、エンディングである。
かつて周囲が海だったこの地で、生命の誕生、かけがえのない命とそのつながりが主題化されたパフォーマンスである。作品の制作・発表のプロセスそのものが、人と人のつながり、地域の歩みと価値の再発見とも重なっていた。終演後、《光の種子》が細かく分けられ、その破片が希望する観客に分有された。光は生命の恩寵、命のつながりのあかしである。命の1つ1つが奇跡である。いま、この瞬間に存在することの意味、出会いとつながり、過去と未来、そして循環。10年以上にわたって笠寺に関わってきたタキナオの、人と地域、歴史への思いが詰まったパフォーマンスだった。
(写真:STUDIO COM 三田村壮志)