採択事業者インタビュー① マーロン・グリフィス「Metamorphosis I —Where Water Flows—」 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2023.10.26

採択事業者インタビュー① マーロン・グリフィス「Metamorphosis I —Where Water Flows—」

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2023年度助成事業において、「社会連携」をテーマに採択された事業(助成A×3件、助成B×1件)を4回にわたってご紹介します。

助成Aの採択事業の詳細はこちらをご覧ください。

 

第1回はマーロン・グリフィスさんにお話を伺いました。

 

■ 事業名:Metamorphosis I —Where Water Flows—

鶴舞公園を舞台に1時間程度のパレードを実施。パレードの参加者は事前のワークショップに参加し、アーティストと制作活動を行う。都市空間で、普段の生活では交わらない地域の人々が、パレードやワークショップを通じ、交流し、つながることで、地域コミュニティ形成を目指す。加えて、アーティストの母国の文化であるカーニバルを知り、制作することで、人種や国籍を超えたアートによる国際交流を目指す。

 

パレードへ参加を希望する方へ

詳細については下記URLからご確認ください:

  • マーロン・グリフィス 鶴舞公園パレード 参加申し込みフォームはこちら(Googleフォームが開きます・ログイン不要)
  • 公式Instagramアカウント:@mas_nagoya
  • チラシはこちら(別ウィンドウが開きます)

 

■ 採択区分 A(社会連携)

■ 採択金額 ¥1,000,000

■ 実施者名 マーロン・グリフィス

■ 連携分野 美術×まちづくり・国際交流・教育

■ 期日 2023年11月18日(土)(雨天の場合、翌19日(日)に順延)

■ 会場 鶴舞公園

 

【アーティストプロフィール】

1976年トリニダード・トバゴ生まれ。名古屋を拠点とする現代美術アーティスト。故郷の伝統的なカーニバルをアートの形に昇華させ、多様な人々を結集させたパレードを制作する。制作過程で生まれる参加者同士の対話や体験の共有を重視し、コミュニティ内に新たな物語をもたらすことを目指す。2010 年グッゲンハイム・フェロー選出。 2022年ドクメンタ 15(ドイツ)、2015年ヨーク大アートギャラリー(カナダ)、2014年テートモダン(イギリス)、2013年あいちトリエナーレ(日本)。

 

 

―――今回の事業はどんな内容ですか。

 

鶴舞公園を舞台にパレードを行います。事前に「マスキャンプ」というワークショップを開催し、仮面や衣装を作って本番に臨みます。ワークショップではアーティストの制作を手伝うだけでなく、鶴舞という場所について理解が深まるよう様々な体験をしてもらえればと思っています。

 

―――「マスキャンプ」はどういった場なのでしょうか。

 

カーニバルは私の出身国であるトリニダード・トバゴの国民的行事の一つで、その一環として行われるパレードのためにマス(衣装)などを準備するのが「マスキャンプ」です。元々トリニダードのマスキャンプは、地域に対してオープンなスペースで、マスのデザイナーらを中心に多くの人が作業を共にしながら、一つのパレードを作り上げていきます。今回のプロジェクトでもこれと同じように、地域の人々が自由に行き来できるような場所を作りたいと思っています。

 

日本で「ワークショップ」というと、何か決められた作業を皆で一緒にやる、といったイメージがありますよね。でも今回のマスキャンプはそういった類のものではなくて、「皆が学び合い、教え合えるような場所」を想定しています。このプロジェクトを通じて、これまで他人だった人々が知り合い、会話を交わし、新たなコミュニティが生まれるということ自体が、私のアートの一部ともなります。単なる作業場ではなく、みんなが鶴舞をめぐる思い出を共有したり、情報交換をできたりするような、そんなスペースにしたいです。

 

パレードに出たいという人には、必ず1回はマスキャンプへ参加してもらいますが、マスキャンプだけに参加することもできます。あるいは、最終日に公園でパレード本番の様子を見る、という参加方法もありますよ。

 

―――グリフィスさんご自身は、パレードにどんな思い出がありますか。

 

マーロン・グリフィスさん

 

子供の時にパレードに参加したのは、今でも素晴らしい思い出です。そして年を重ねていくうちに、何かを創造するような人、つまりアーティストになってカーニバルに関わりたいと思うようになりました。

 

特に、ピーター・ミンシャル(Peter Minshall, 1941- )というマス・マン(カーニバルのコスチュームデザイナー)との出会いは、自分にとって非常に重要な出来事でした。ミンシャルは、オリンピックのセレモニーの演出に携わったこともある(※1)、トリニダード・トバゴを代表するデザイナーです。私が彼に出会った当時、彼はすでに大きな成功を収めたマス・マンでしたが、伝統的なものを打ち壊して新しいものを作るという革新性をもっていました。

 

中でも素晴らしいと思うのは、ミンシャルがカーニバルの参加者を、彼らが一番輝いた状態で見せることができるという点です。例えば、誰かが悪いことをすると噂話は長く続くけど、逆に良いことをした時には話題はすぐに消えていってしまいませんか?ミンシャルは、そうした人々が見逃しがちな「良いところ」みたいなものを、パレードを通じてとても上手に見せるんです。彼の作品には、時に政治的なメッセージも込められます。しかしそれだけではなく、動物や自然などの多様なモティーフを用いて、私たちが何者であるのか、という疑問にポジティブなやり方で応答しています。私の今回の鶴舞でのプロジェクトでも、これと同じようなことをしてみたいと考えています。

 

私は実際にミンシャルのもとで仕事をしたこともあるのですが、彼は制作について多くの助言を与えてくれました。彼とその作品は、今でも頭から離れることのない大切な存在です。

 

※1 1996年アトランタ五輪開会式の衣装デザインを担当した。(『トリニダード・トバゴ共和国概況』(2022年9月、在トリニダード・トバゴ日本国大使館)を参照)

 

―――グリフィスさんは、これまでも多くの国でパレード形式の作品を発表されていますよね。どうやってその土地について理解を深めているのですか。

 

今回の鶴舞でのプロジェクトを始めた時点では、まだ決まったアイデアはありませんでした。その後企画を進めるうちに、鶴舞公園やこの土地について少しずつ理解が深まり、ここが名古屋の歴史において重要な場所の一つであると知りました。そして、鶴舞公園について話すなら、昭和区、あるいはもっと広い視点で歴史を捉える必要があると考えるようになりました。鶴舞については、一人の住人として生活を通じて知ることもありますし、また歴史について書かれた本を読んだりもしています。

 

―――鶴舞でのプロジェクトはどのように展開していくのでしょうか。

 

鶴舞の風景

 

Metamorphosis(「変容」の意)は、虫などの生き物が多様に変化しながら成長していく様子を意味する言葉でもあります。最初は、鶴舞という場所がいかなる変化をみせ、今後どのように進んでいくのか、というストーリーを中心にプロジェクトを構想していました(※2)。しかし、この土地に関する知識を深める中で、鶴舞(つるま)という地名が元々「いつも水の流れる間」という意味であったと知ったんです。そこで、今回の作品のタイトルを「Where Water Flows(「いつも水の流れる間」の意)」とし、さらにこれを「Metamorphosis」と題した大きなシリーズ作品の第一作目に位置付けることにしました。

 

Metamorphosisシリーズについては、まだ構想中ではあるものの、最終的には鶴舞を舞台にした三部作のような形にしたいと考えています。壮大なチャレンジになりそうです。

 

※2 当初の事業タイトルは「Metamorphosis 都市の変容」。

 

―――グリフィスさんにとって、鶴舞という場所で作品を発表することにはどんな意味がありますか。

 

これまでの仕事では、自分が外国に行って、自分とその場所との関係性に注目して作る作品が主でした。ですが今回は、私が住んでいる鶴舞という場所で作品を発表するので、より私自身の内面的な色が出るのではと思っています。

 

特に、自分の生活している場所だからこそ、ここで作品を発表するのはとても大事なことです。よく私の拠点について、「なぜ東京じゃないのか」と聞かれたりするのですが、私は名古屋という土地を「正しいバランスがある場所」だと感じています。確かに、東京や日本の他の大都市もエキサイティングな場所ではありますが、名古屋は地理的にちょうど真ん中に位置していることもあり、とてもニュートラルな感じがするんです。そのおかげで、実験的なプロジェクトを行うのに完璧な場所であるように思います。

 

どう表現するべきか難しいのですが、ここにいて、ここで何か活動するというのは、私にとって意味のあるアクションです。アーティスト、そして鶴舞の住人の一人である私が、この街で作品を発表することで、周りの人たちが地域に関して新たに気付いたり、何かを考えたりしてくれたら嬉しいです。

 

―――今回のプロジェクトを通じて、どんなことを楽しみにしていらっしゃいますか。

 

あいちトリエンナーレ2013での《太陽のうた》の様子
Photo by Akiko Griffith-Ota

 

人々がどんな反応をしてくれるのか、これから何が起こるかはまったく分かりません。私の作品は、参加してくれる人々無しでは成しえないものです。参加者それぞれがどれだけアクティブに加わってくれるかによって、このプロジェクトがどういう方向へ進むかは変わっていくでしょう。

 

今回の私のプロジェクトは、単に街の歴史を時系列的に並べて概観しようとするものではありません。もちろん歴史も街の一部ですが、それだけではなく、マスキャンプの場などを通じて、参加者それぞれが街をめぐる思い出や意識を共有してもらえればと思っています。こうした体験を経て、参加者の間に新たなコミュニティが生まれ、そこにアーティストである私自身がアート的な側面を加えることで、最後に一つのパレードが完成するのです。

 

私は全体を導く存在としての役割を果たしますが、ここからどんな物語を紡ぎ出していくか、またそれをどのように受け止めるかは、参加者同士での対話を通じていかようにでも変化します。どんなことが起きるか分からないからこその期待もありますし、また将来的にはこのパレードが一つの伝統行事のようになっていってくれたら嬉しいですね。

 

鶴舞という場所で、私と皆さんで互いに知識や思い出を共有し、それぞれの思いをパレードという形で表現できることを楽しみにしています。

 

 

*本記事の作成にあたり、グリフィス太田朗子さんにご協力を賜りました。心より御礼申し上げます。

 


 

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