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2025.10.1
2025年度助成採択事業紹介① Communis「Let It Green!」
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは2025年度も助成事業を実施しています。今年度採択された「社会連携活動助成」事業(助成A×5件、助成B×1件)を、全6回にわたっての連載で採択者がそれぞれの取り組みについて語ります。社会連携活動助成A・Bの詳細はこちらをご覧ください。
第1回はCommunisの皆さんによる事業紹介です。
詳細については下記リンクからご確認ください:
- [ワークショップ]旅する木陰 -Caravan in the Shade of Trees-|申込みフォーム
- [ワークショップ]「Let It Green ! 」アーティストデザインTシャツをカスタマイズする!|申込みフォーム
- [セミナー]「持続可能な都市における街路樹とアーバンフォレストリー」|申込みフォーム
ウェブサイト|Let It Green! / Instagram|@letitgreen2025
【採択者プロフィール】
2024年名古屋にて設立。建築・美術・映画・文学・その他広範に文化一般を関心の対象とし、それらについて思考・愛好する人々の交流を目的とする。2024年度に「Plant It Green!」を開催。2025年度実施の「Let it Green!」はその続編となる。
■ 都市の緑化をテーマにしたアートプロジェクト「Let It Green!」
なぜ「都市の緑」が少ないのか以前から疑問に思っていました。名古屋の街中には木陰が圧倒的に少なく、緑陰がある場所とない場所では夏場の路面温度が20度近く違うともいわれています。特に今年の夏は記録的な猛暑だったこともあり、緑陰の必要性を強く感じました。
しかし、単に「緑を増やしましょう」と呼びかけても関心を持っていただくことは難しいと考え、木陰そのものが旅をする「旅する木陰」という形で緑陰(りょくいん)の大切さを体感していただきたいと思いました。
「緑の隊商」は「旅する木陰」に加え、アートワーク「Coかげぼうし」やマルシェを連れて各地を巡ります。時にはヴァイオリニストやダンサーも加わり、旅芸人のような楽しいパレードをご覧いただけます。都市の緑について考えるきっかけになれば幸いです。

「旅する木陰」ベースキャンプ(円頓寺商店街内)
■ Communisの概要とメンバーの活動
Communis(コムニス)は建築家を中心とした任意団体です。メンバーには造園関係者や文房具評論家など、多様な文化分野の人々が参加しています。特別な決まりはなく、各自が思考し愛好するテーマを自由に掲げて活動しています。
前身はDYMSY(ダイムシイ)という団体で、ジル・クレマンの「動いている庭」の上映会や座談会を開催してきました。その経験を引き継ぎ、昨年Communisを設立しました。クリエイティブ・リンク・ナゴヤの社会連携活動助成に採択されたことが大きなきっかけです。
今回の「旅する木陰」という発想は、造園家である池上さんが以前行っていた活動の写真が大きな手掛かりとなりました。ミーティングで具体的なテーマが固まり、リヤカーで引く案もそこで決まりました。

左から⽻柴順弘さん、道家洋さん、代表の矢田義典さん
■ 街を旅する「Green Caravan 緑の隊商」が届ける体験
「Let It Green!」は「tourism」に「green」と「art」を融合させ、都市の緑を考えるプロジェクトです。中心となる「Green Caravan 緑の隊商」には、「旅する木陰(green)」と「Coかげぼうし(art)」、そして「マルシェ(まちづくり)」を伴って各地を巡ります。
ガーデンツーリズムやグリーンツーリズムが訪問や滞在を前提にしているのに対し、こちらは人が旅をするのではなく緑陰が旅をする点が特徴です。訪れた場所では木陰の下でアートを体験し、マルシェで飲み物やお菓子を楽しみ、音楽やダンス、小噺も味わっていただけます。
■ 緑とアートに触れる2つのワークショップ
10月4日午前の「旅する木陰をつくる!」では、旅する木陰を牽引するリヤカーに、参加者のみなさんが緑を植えます。緑を愛し育てることを「他人ごとではなく自分ごと」として感じていただきたいと思っています。
午後には「アーティストデザインTシャツをカスタマイズする!」を開催し、アーティストがデザインしたTシャツに自由に絵や文字を描いて、オリジナルの一枚を作っていただきます。
最後には下草を記念にお渡しし、ご自宅で育てていただく予定です。これらの体験を通して、緑をより身近に感じていただける機会になればと考えています。

「旅する木陰」の下草
■ 都市の緑を測る指標「樹冠被覆率(じゅかんひふくりつ)」を学ぶセミナー
樹冠被覆率とは、樹木の枝葉が地表を覆っている土地の面積割合のことです※1。樹木が作る木陰の割合と考えると分かりやすいでしょう。日本を含む落葉樹林の多い温帯地域では、都市で40%を目標とする例があります。
こうした取り組みは海外でも進んでおり、オーストラリア・メルボルンのアーバンフォレスト戦略がよく知られています。都市の中に森を作るのではなく「森の中に都市を育む」ことで気候変動に立ち向かう試みで、樹冠被覆率の向上が柱になっています※2。
今回のセミナーでは、この考え方を学んだあと、広小路や桜通など緑の多さを比較できるルートを歩き、専門家とともに良い場所や課題を確認しながら名古屋の緑を考えます。
※1 東京新聞 2025年9月7日
※2 當内匡 他著『街路樹は問いかける』(2022年)岩波書店

桜通の街路樹

街歩きの終点となる那古野エリア
■ 「旅する木陰」と「Coかげぼうし」―緑と影をともに旅するアートプロジェクト
「旅する木陰」は緑陰を連れて旅をする企画です。「Coかげぼうし」は、共同を意味する“Co”と、影を連れて歩く“かげぼうし”を組み合わせた名称で、どちらも“影をともに旅する”ことを大切にしています。緑は公共性が高いのに他人ごととして捉えられがちですが、自分ごととして感じてほしいと思っています。
この考え方を具体化するうえで、美術や造園の分野と問題意識を共有し、相乗効果を生むよう連携しました。麦わら帽子を四人でかぶって作る大きな木陰や、木陰の下でお茶を楽しむ体験など、アート作品としての試みもその一例です。
また、移動式の木陰を実現するための工夫として、当初はアクアソイルを使うと重量が200kgを超える恐れがありましたが、発泡材で底上げして軽量化し、一人でも引けるリヤカーを完成させました。
■ 緑への関心を育み、持続可能な社会を考える体験プログラム
「旅する木陰」や「Coかげぼうし」を通して、まず緑に興味を持っていただきたいと考えています。気候変動が深刻化しているにもかかわらず、日本ではまだ問題意識が低いと感じます。
緑を増やし、樹冠被覆率を高めることは、気候変動に立ち向かう最も単純で効果的な手段の一つです。まちづくりでは賑わいや利益が優先されがちですが、レジリエントで持続可能な社会に目を向けるきっかけになれば幸いです。
■ 学びから実践へ 観光×緑×アートを融合した今年の挑戦
当初から三年計画を念頭に置き、「ホップ・ステップ・ジャンプ」で進めることを想定していました。昨年度はホップの段階として学びを重視し、セミナーや映画鑑賞、シンポジウムを中心に多くの知見を得ました。
今年度はステップの段階にあたります。昨年の学びを踏まえて実践に移し、「tourism」に着目して公益性を高めつつ、「green」と「art」を融合させています。「green」は私たちの共通テーマであり、仮設と移動を重視して、どこにでも緑陰を運び、Coかげぼうしとともに木陰を楽しめるようにしました。市民参加型へ移行したことで反応も広がり、「見に行きたい」という声を多くいただいています。
来年度はジャンプの段階として、さらに飛躍し、緑とともに新たな旅を目指します。「一緒に行くよ、一緒においで」――旅は道連れとして、皆さまとともに楽しみたいと考えています。
■ 事業名 Let It Green!
建築家を中心とする団体が、「都市の緑」をテーマにアーティストや造園家と協働するアートプロジェクト。学びを中心とした前年度から展開を広げ、ワークショップや街歩き、マルシェ、セミナーなどを実施。アートの視点から、都市の緑、都市景観、環境を考えるきっかけとする。
■ 採択区分 社会連携活動助成A
■ 採択金額 ¥1,000,000
■ 実施者名 Communis
■ 活動領域 まちづくり
■ 連携先の分野 美術、造園
■ 日時・会場
1|ワークショップ
日 時:2025年10月4日(土)※雨天中止
会 場:「旅する木陰」ベースキャンプ(円頓寺商店街内、西区那古野1-35-15)
① 旅する木陰-Caravan in the Shade of Trees-」をつくる!
②「Let It Green !」アーティストデザインTシャツをカスタマイズする!
アートコレクティブ<サンニン> 今村哲、染谷亜里可、鋤柄ふくみ
2|セミナー・街歩き
日 時:2025年10月11日(土)※雨天決行
会 場:SLOW ART LAB(SLOW ART CENTER NAGOYA 2F、名古屋市中区錦3-16-5)
講 師:當内匡(樹木医)
3|旅する木陰
10月5日(日) 名古屋駅・ミッドランドスクエア公開空地(中村区名駅4-7-1)
10月12日(日) 納屋橋・シャムズガーデン(中区錦1-15)
10月18日(土) 栄・オアシス21 緑の大地(東区東桜1-11-1)
10月19日(土) 円頓寺商店街「旅する木陰」ベースキャンプ(西区那古野1-35-15)
10月25日(土)・26日(日) ケヤキヒロバ(栄ヒサヤオオドオリパーク、名古屋市中区丸の内3-5)
ウェブサイト|Let It Green! / Instagram|@letitgreen2025