採択事業者インタビュー② 認定NPO法人ポパイ「街が舞台!多様な主人公たち」 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

インタビュー

演劇

社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)

2023.11.7

採択事業者インタビュー② 認定NPO法人ポパイ「街が舞台!多様な主人公たち」

ポパイが運営するMO-YA-CO UNIQUE PROJECTお店外観

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの2023年度助成事業において、「社会連携」をテーマに採択された事業(助成A×3件、助成B×1件)を4回にわたってご紹介します。

各助成の詳細はこちらをご覧ください。

 

第2回は認定特定非営利活動法人ポパイの山口光さんにお話を伺いました。

 

■ 事業名 街が舞台!多様な主人公たち

千種区千種1丁目町内の地域やコミュニティにかかわる人々が共に語り合い、聴き取りを行い、物語を生み出し、演劇を制作。西念寺をはじめ、千種1丁目内の街中を舞台として商店街、路地や広場で上演する。「まちなかエンゲキ」の手法を使い、地域住民と知的・発達障がい者や学校に行っていない子どもたちや保護者、地域の若者などがゆるやかにつながり交流、エンパワメントすることを目指すプロジェクト。

 

本番公演の鑑賞を希望する方へ

詳細については下記をご確認ください:

 

■ 採択区分 A(社会連携)

■ 採択金額 ¥1,000,000

■ 実施者名 認定特定非営利活動法人ポパイ

■ 連携分野 演劇×まちづくり・福祉

■ 期日 2023年10月~12月(本番公演:11月26日(日))

■ 会場 西念寺・千種区千種1丁目町内

 

【実施者プロフィール】

愛知県名古屋市を拠点に、障がい者の地域生活を広くサポートし、生活の向上と地域福祉の増進に寄与することを目的としている。法人の活動コンセプトである「MO-YA-CO(もーやーこ、この地方の方言で”分けっこ、持ち寄り”の意味)」をキーワードに、私たちだけではできないことを多くの方々からアイデアや資源を持ち寄り分け合うことで持続可能な地域が生まれ、障がい者の生活そのものを大切に、芸術活動、就労機会の創出、存在と価値の向上のため、事業所内に留まることなくいくつかの企画、運営をしている。

 

 

―――今回の事業の概要について改めて教えてください

 

山口光さん

 

「まちなかエンゲキ」を実施します。これは元々、本プロジェクトのファシリテーター、おきなお子さんが実践しているもので、地域に入り込んで地元の人々と共に演劇を創り、もう一度自分たちの住んでいる街を捉え直そうとする、新たな演劇の形です。まず、千種区の西念寺を拠点に全5回のワークショップを行い、街を巡りながら地域の方々にお話を伺います。そうしてファシリテーターやコーディネーターと一緒に演劇を完成させ、11月26日(日)の本番公演を迎えます。

 

またポパイでは、これまでもおきさんと協働するなかで、ポパイの職員や、おきさんの勤務先の学生さんたちを交えて、演劇ワークショップに取り組んできました。そうした経験を踏まえて、今回は初めてメンバーを一般公募して演劇を創るという試みを行います。普段の生活では、年齢や性別などの様々な要因によって、私たちに充てられた役割が自然に決まることが多いですよね。また、障がいのあるなしによって、支援する側/される側というように、方向性が決まってしまいがちです。でもこの演劇をやってみると、そうした規律のようなものが一気に崩れていきます。

 

すでに自分の中で「自分はこういう立ち位置だから」と考えがちなところを、少しフラットな視点で見直して、新しい自分を発見する。そんな機会になったらいいなと思います。

 

―――全5回のワークショップを予定されていますが、どんなことを計画していらっしゃいますか。

 

基本的には、まずみんなで街の中へ出て行って、色々な人やものと触れ合っていきます。私たちの方で何度か下見に行った時も、素敵な出会いがたくさんありました。今の時代だと、知らない人の家に上がり込んだり、あるいは店頭で世間話に花を咲かせたり、というようなコミュニケーションが少なくなった気がします。でも実際に顔を突き合わせてみると、街の中には面白い人が大勢いるんだ、ということに気が付かされます。下見の際に出会った商店の方からは、街をめぐる思い出だけでなく、その方個人のとっておきのエピソードなど、たくさんのお話を聞くことができました。今回のワークショップでも、こうして街の人たちと関わる中で出てきた話を、どんどん台本に入れ込んでいったりして、みんなで演劇のシナリオを仕上げていきたいと考えています。

 

街を歩く中では、参加者同士のコミュニケーションを図るため、演劇的なゲームも行う予定です。例えば、二人一組でペアになって、一人が急にナイフのポーズをしたら、もう一人は相手の様子を見てフォークのポーズで返す。これを、言葉を使わずにやってみるんですが、演じ手によって多様なやり取りが交わされて、とても面白いんです。段々人数を増やして実際に動きを付けてみると、それだけで演劇になります。立ち位置は決めないので、自由に抜けたり、あるいは傍観者になってもらったりしても構いません。どうしても言葉が出てしまうという人も、無理に止めません。参加者のペースで、みんなで一緒に演劇を創っていきます。

 

このように、ワークショップは参加者との対話を通して変化させていくので、決まったプランというものはありません。様子を見つつ、進める速さや内容を決めていきます。

 

―――ファシリテーターのおきなお子さん、コーディネーターの岡林幸子さん、高木理恵さんとは、それぞれどのように出会われたのですか。

 

山口光さん

 

おきさんは、元々愛知県内の大学でお仕事をされていました。そこで学生さんたちと一緒に、地域の人と関わっていくという授業をされていて、その成果発表の場に私が足を運びました。おきさんも以前からポパイの事業に関心を寄せてくださっていたそうで、そこから仕事でご一緒するようになり、コロナ禍の時期にも一緒に展示を企画したりしました。

 

高木さんとは音楽活動を通じて知り合って、実はバンド仲間でもあります。アートだけでなく、子どもたちや街づくりのことにも強い関心を持っていらっしゃる方で、障がいのある人たちと一緒に体を動かすワークショップなど、多数のプロジェクトを実践されています。

 

岡林さんとは高木さんの紹介で知り合いました。岡林さんは、周りから「ゆっこさん」と呼ばれているんですが、坊守を務める千種区の西念寺で、子どもたちのためのフリースクールを運営していらっしゃいます。西念寺は、子どもたちが集まってバンドを組んだり、文化祭のようなイベントをやったりと、素敵なコミュニティが出来上がっている場所です。今回のまちなかエンゲキの会場としてもお世話になります。

 

今回のような企画自体は以前から構想していました。しかし一つの事業として進めるためには、ゲストの招へいなどのために、現実問題として大きな金額が必要となってきます。そこで今回クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成に応募し、採択されました。私たちポパイは福祉事業を行っている団体ですが、それを理由に仕事の代金を値切るようなことは決してしません。そういった意味で、助成金はプロジェクトを実践するうえで必要不可欠だったといえます。この多彩なメンバーと一緒にプロジェクトを行うのは今回が初めてで、一緒にお仕事をできることをとても嬉しく思います。

 

―――一般の人を加えてまちなかエンゲキを行うのは初の取り組みだそうですが、期待や不安はありますか。

 

10月22日 (日)に行われたワークショップ第1回目の様子

 

どんな方でも参加してもらえるように、できる限りの準備は行いました。車いすで来られる方や、障がいのある方などへのサポートは、私たちがしっかりと行います。そうしたところをクリアするのは大前提ですが、ワークショップを進めていく中では、やはり想定外のことも起きるでしょう。そして、そこから生まれる物語の面白さ、というのもきっとあると思います。予定がみっちり詰められていると、何もできないですもんね。ですので、私たちの方から参加者に対して何かを期待するとか、こうなってほしい、というようなことは考えないようにしています。

 

今回の事業では、関わり方をなるべく参加者に委ねられるようにするべく、十分に知見のあるファシリテーターやコーディネーターと協働してサポートをしてもらっています。大まかな時間配分や、天候への対応など、全体としてのディレクションはこちらで行いますので、あとは参加する全員で、自由に物語を生み出すことを楽しみたいです。

 

主催者側としては、「地域を巻き込む」というプロジェクトを行うにあたって、中途半端な気持ちでその街に介入することは良くないと考えています。今回のまちなかエンゲキのように、地域と関わりをもつ際には、良い関係性を作り上げていくために、長期的な視点をもって考える姿勢や覚悟が求められるでしょう。私たちも、これが簡単に成功するとは思っていません。そのため、ファシリテーターのおきさんを中心に、経験値の豊富なメンバーで、覚悟をもって今回のプロジェクトに臨んでいます。

 

多くの人たちのサポートのもと、演じる人や観る人が一体となって、想像していなかったような出会いや、新たな交流、発見を楽しんでもらえたら嬉しいです。