【CLN活動レポート】2024年度採択助成事業報告会を行いました|前半 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.5.27

【CLN活動レポート】2024年度採択助成事業報告会を行いました|前半

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは、2024年度助成において16の事業を採択し、2025年3月までに全事業が無事終了しました。助成事業報告会では、「社会連携活動助成」に採択された6組の方々が事業を紹介し、さらにレビュー執筆者と対談形式で振り返を行いました。

 

2024年度助成事業報告会 概要

日時|2025年5月7日(水) 18:30~20:30
会場|メニコン シアターAoiビル9階 イベントスペース
内容|
■ 社会連携活動助成採択者とレビュー執筆者によるトーク
■ キャリアアップ支援助成成果物展示
■ 2025年度助成公募説明
■ 交流会

 

 

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤの田中英成理事長による開会のあいさつ、名古屋市の広沢一郎市長のあいさつ、佐藤友美ディレクターによる2024年度の助成事業の総括に続き、採択者とレビュー執筆者によるトークがスタートしました。

 


【トーク】社会連携活動助成A|おどり場「風景:みえる」桂川大 × 辻󠄀琢磨(建築家)
【トーク】社会連携活動助成A|鈴木一絵「なごやのハラルフードを深堀りするアートプロジェクト」× 能勢陽子(キュレーター/美術批評) 
【トーク】社会連携活動助成A|HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」× 水野みか子(作曲/音楽評論)
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社会連携活動助成採択者とレビュー執筆者によるトーク

【社会連携活動助成A】おどり場 「風景:みえる」 代表|桂川大さん

レビュー執筆者|辻󠄀琢磨さん(建築家)

 

左から桂川大さん、辻󠄀琢磨さん

 

――― 「風景」プロジェクト自体は第1期、第2期と実施されている2年がかりの長いプロジェクトですが、当団体が支援した第3期プロジェクトを組み立てるにあたってどのようなところに注力しましたか。

 

桂川 大きく3つのポイントに配慮しました。まず1つ目が鑑賞者、つまり来場される皆さんにどういう体験をしていただけるかということ。2つ目は、出展作家の方々がこの街の中で、どのように滞在し、どのように街の風景を制作に取り込んでもらえるか、その環境を整えられるかということ。そして3つ目は、開催場所の地域の皆さんと、作家や鑑賞者の間をどのようにつないでいけるかということです。

 

調整というほど大げさなものではないかもしれませんが、限られた期間の中で、これら3つの点に配慮しながら体制を整えていきました。

 

円頓寺商店街の入口に設置されチケットセンター

 

――― 今回連携先として挙げた「まちづくり」や「観光」の分野において、どのような取り組みを行われましたか。

 

桂川 コロナ禍を経て人の移動や集まりに慎重な時期であった2022年に、このプロジェクトは「観光から鑑賞へ」というテーマを掲げスタートしました。円頓寺という文化・歴史的にも魅力のある地域において、単なる観光では見えない風景や生活の側面を、来場者にどのように体験してもらえるかを模索しました。

 

プロジェクトは、「鑑賞者へのアクション」「参加作家へのアクション」「地域へのアクション」という3つの視点から進められました。作家さんとはホスト-ゲストの関係ではなく対等な立場で協力しながら、鑑賞者にどのように円頓寺という地域の魅力を再発見してもらえるかについて共に3つの会期中を経て考えました。那古野界隈で空き家活用を推進するナゴノダナバンクの代表である市原正人さんや四間道・那古野界隈まちづくり協議といった地域の方々とは道路使用や会場調整について丁寧に相談を重ね、「ガイダンスセンター」の設置によってツアーガイドなど地域と鑑賞の接点となる場所も設置しました。また鑑賞者には、展覧会前にカタログ的な情報を郵送するなど、限られた鑑賞時間を豊かにする工夫を行っています。

 

――― 辻󠄀さんは展覧会の1日目にお越しいただきましたが、どのような点が興味深いと感じられましたか。

 

辻󠄀 オープン直前に訪れた際、ほとんどが施工中で、その状況自体が象徴的でした。完成された美術作品を美術館で鑑賞するのではなく、街を歩くことそのものが鑑賞体験になりうると気づかされました。材木屋の沖正商店さんや、レストランの中を通って上階に上がるコモンズビルの会場など、移動を含めた一連の流れの中で、堀川の構築物など、街の風景そのものが印象に残りました。

 

芸術作品をきっかけに、鑑賞という行為そのものの枠が広がるような感覚があり、完成していなくても十分に説得力を感じました。円頓寺や那古野を知る入り口にもなり、芸術、観光、まちづくりが一体となった実践がされていたように思います。

 

特別公開された伊藤家住宅での写真展示

 

――― この場で桂川さんに質問してみたいことはありますか。

 

辻󠄀 いわゆる芸術祭のように、街全体を使って美術館のような空間をつくるプロジェクトは他にもあると思います。ただ今回のように、同じ作家が同じ地域を舞台にして、回ごとに違う場所で別の表現をしていくという形は、少し特徴的なのではないかと感じています。例えば、1回目では円頓寺のある一角で展示されていた作家さんが、2回目ではまた別の場所に点在しながら新たな作品を発表していて、それが地域に何か蓄積されていくような感触があるのではないかと思いました。

 

実際に2回取り組んでみて、そのあたりについてどのような手応えを感じていらっしゃいますか。

 

桂川:一回限りの展示ではなく継続的に関わってもらえたことで、作家によっては1回目をリサーチ的に捉え、2回目で制作に取り組んだり、逆にあまり変化を見せない人もいて、その多様な反応が新鮮でした。鑑賞者にどう伝わったかはわかりませんが、そうした違いが生まれたのは面白かったです。

 

また、アーカイブについても記録として閉じ込めるというより、「持続するアーカイブ」として、プロジェクトが終わったあとも何かが残る形を意識しました。実際、会場のひとつだったブックショップは今もブックショップ兼ギャラリーとして続いており、私たちが街の変化に介入していくような感覚がありました。

 

――― クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成を受けてよかった点があれば、教えていただけますでしょうか。

 

桂川 もともと私たちのプロジェクトは自主事業的な取り組みだったのですが、助成を受けたことで「公共性」が確保され、それによって実現できたことが多くありました。例えば、道路や文化財の使用、商店街やまちづくり協議会の方々からの協力・助言など、自分たちだけでは手が届かなかった部分が実現でき、プロジェクトの幅が広がりました。

 

そうした背景のもと、「では追加で何ができるか?」と考え、会場運営のボランティア体制を整えることにしました。助成が決まってから急いで準備を進め、フォーマットの整備やボランティア研修を行い、芸術を一般の方にどう伝えるかという視点も共に考えることができ、フィードバックを得られました。実際には西区内の中学生から60代の方まで20〜30人ほどが参加してくれて、当日の会場に常駐し、来場者とのコミュニケーションを担ってくれました。この関係構築によって、撤去する際に発生した資材は地元の高校に寄付されました。学祭の設営資材として使ってもらえたようで、地域内でのエコシステムにも貢献しています。

 

また、クリエイティブ・リンク・ナゴヤのスタッフが何度も現地に足を運んでくださったことも大きく、自分たちのプロジェクトをどう発信するかを改めて考えるきっかけになりました。

 


 

【社会連携活動助成A】鈴木一絵「なごやのハラルフードを深堀りするアートプロジェクト」

レビュー執筆者|能勢陽子さん(キュレーター/美術批評) 事前収録動画

 

鈴木一絵さん

 

――― このプロジェクトを組み立てるにあたってどのようなところに注力しましたか。

 

鈴木 今回のテーマは「ハラルフード」だったのですが、この会場にいらっしゃる方々を含め、あまり聞きなじみのない言葉かもしれないと思い、一般の来場者の方にも広く知ってもらえるように工夫しました。特に「食」をきっかけに、ハラルへの理解を深めてもらえるよう、レクチャーやイベントの企画に力を入れました。

 

ハラルというテーマへの理解は、同時に、招聘したアーティストのバックグラウンドを知ってもらうことにもつながります。今回のアーティストは、自身でコーヒーを焙煎するなど日常的に食と関わっている方だったので、コーヒーやハラルフードを媒介に、トークイベントやレクチャー、食事を交えたイベントなどを開催し、より深く伝える機会を設けました。

 

最終的には、展覧会というかたちでその成果を発表しました。

 

プラット・ピマーンメーン「An Anonymous Starship Brings Fragments of Dreams」展

 

――― 今回連携に取り組まれた「観光」や「国際交流」の分野においては、どのような取り組みを行いましたか。

 

鈴木 まず「観光」の分野では、2026年に名古屋でアジア大会が開催される予定ということもあり、いわゆるインバウンドをテーマにしました。アジアはムスリム人口が非常に多い地域なので、観戦に訪れる方々や選手の中にもムスリムの方が多いことが想定されますし、また愛知県は日本で2番目に在留外国人が多い地域で、多くのムスリムの方が暮らしています。そういった背景から、観光とムスリム文化を結びつけたリサーチを行ったのがこの分野でのポイントです。

 

具体的には、インバウンド環境に関する聞き取り調査を行ったり、飲食店を訪ねて、観光客誘致の一環としてハラルフードを提供している実態を調べたりしました。

 

次に「国際交流」の分野では、海外からアーティストを招いていることもあり、異文化理解の促進をさらに広げる取り組みを行いました。大学を訪れて学生との交流を図ったり、私が運営しているスペースを活用してトークイベントを開いたり、コーヒーを飲みながらアーティストの背景について語り合うようなイベントを実施しました。こうして国際交流の機会を広げることを目指しました。

 

――― 今回のプロジェクトでどのような点が興味深かったでしょうか。

 

能勢 鈴木一絵さんはタイについてとても詳しく、タイ語も話せて、アートとタイをつなぐことができる、日本でも稀有な存在だと思っています。今回は「ハラルフード」を切り口に、タイの深南部と名古屋をつなぐようなプロジェクトを展開されていて、とても興味深かったです。

 

私自身、長く名古屋に住んでいながら、ハラルフードを提供しているレストランがあることも、ハラルフードを必要としている人たちが身近に暮らしていることも知りませんでした。アートを通して、こうした身近な人々の存在に目を向け、想像力を広げるきっかけになったことが、このプロジェクトの大きな意義だったと感じています。

 

「An Anonymous Starship Brings Fragments of Dreams」展オープニングイベント

 

――― 鈴木一絵さんに質問したいことがありましたら教えてください。

 

能勢 鈴木さんは今後、タイに限らず東南アジアと日本の美術界をつなぐ活動を展開されると思いますが、今回のようにハラルフードを切り口にアーティストが作品を展開するのは、身近な他者について考える良いきっかけになると感じました。今後、料理や音楽、パフォーマンスなど視覚表現以外も含めて、どのような関心で活動を広げていかれるのか、お話を伺いたいです。

 

鈴木 今回のプロジェクトを通じて「名古屋にこんな一面があったんだ」とか、「身近にハラルフードのレストランがあるなんて知らなかった」といった声をいただきました。名古屋には東南アジア出身の方々など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが暮らしており、アートを通してそうした見えない他者の存在に目を向け、自分たちの生活とつながっていることを感じる機会をつくっていきたいと思っています。

 

また美術に限らずカルチャー全体を通して、アジアの中の日本や名古屋を見つめ直すことも続けていきたいです。無意識のうちに内面化している西洋的価値観についても問い直しながら、アーティストや来場者の方々と一緒に考える場をこれからも作っていけたらと思います。

 

――― クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成を受けてよかった点があれば、教えてください。

 

鈴木 私は中川区の倉庫を改装して、東南アジアのアートやカルチャーを紹介するイベントを行っているのですが、ニッチな分野のせいか、来場者は関心のある方に限定されがちです。

 

しかし、今回は「食」をテーマにしたことや、クリエイティブ・リンク・ナゴヤさんを通じて市内の図書館や文化施設にチラシを配っていただいたおかげで、普段は届かないような方々にも興味を持って来ていただくことができました。「こんな場所でこんなことをやってるんですね」と言ってもらえることも多く、いろんな方に楽しんでもらったり、理解を深めてもらえたりしたのは本当にありがたかったです。

 


 

【社会連携活動助成A】HIEI 「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」

レビュー執筆者|水野みか子さん(作曲/音楽評論)

 

左からHIEIさん、水野みか子さん

 

――― このプロジェクトを組み立てるにあたってどのようなところに注力しましたか。

 

HIEI 一番力を入れたのは、「音で空間をデザインする」というサウンドデザインのコンセプトを打ち出す、という点でした。やり方によっては、「ただライブやDJをやりたいだけ」と誤解されて捉えられてしまうこともあると思います。そのために、ワークショップを通じてその意図を伝えることにしました。3回のワークショップによって、「身体と音楽」「建築・空間と音楽」「テクノロジーと音楽」というテーマで、多面的に音と空間の関係を考える機会を設け、サウンドデザインの考え方を広くアピールできたのではないかと思います。

 

MIDLAND SQUARE 屋外展望台 スカイプロムナードでのLIVEイベント

 

――― 観光の分野においては、HIEIさんはどのような企画に取り組みましたか。

HIEI 観光という点では、主に名古屋市周辺の方に来ていただくことを想定して企画しました。県外や海外の方へのアプローチはあまり考えていませんでしたが、逆に市内の方々にどのように魅力を伝えるかは意識しました。

 

その中で、名古屋のランドマーク的な場所をピックアップし、そこでDJやライブを行うという構成にしました。たとえば、ミッドランドスクエアのスカイプロムナードでは、ダムタイプの山中透さんと一緒にライブを実施しました。ナディアパークも、名古屋のデザイン拠点として重要な意味を持つ場所として選びました。また、新しい施設であるコートヤード・バイ・マリオット名古屋でもイベントを行いました。

 

歴史的な名所ではなく、名古屋の現代的で洗練された側面にフォーカスし、ミニマルな空間の中で音がどう響くかという観点から場所を選んだのが特徴です。名古屋の都市としての魅力を、音を通じて体感してもらうことを意識しました。

 

――― 今回ご覧になって、どういったところが興味深かったかに教えてください。

 

水野 まず、ロケーションの選び方にHIEIさんのセンスや考え方がよく表れていて、とても良いなと感じました。名古屋を押し付けるのではなく、名古屋らしさを感じさせつつ、他の都市でも通用しそうな3つの場所を選んでいた点が印象的でした。

 

また、「サウンドで空間をデザインする」という考え方自体は歴史がありますが、今回のようにホールやクラブといった専用の場ではなく、開かれた場所で行うことで、聴く側が自由に関わることができるのが良かったです。座ってじっくり聴いてもいいし、ふと立ち寄って通り過ぎてもいい。そんな中で、音があることで都市の風景が少し特別に感じられる、名古屋ではこれまであまり見られなかった新しい試みだったと思います。

 

ナディアパーク アトリウムでのLIVEイベント

 

――― 水野さんからHIEIさんに聞いてみたいことがあれば、ぜひ教えてください。

 

水野 今回のようなプロジェクトを企画される際、音の選び方やDJなどプレイヤーの人選も含めて、たとえば「名古屋だったらこの人が合う」とか、「自分がパフォーマンスするなら名古屋ではこういう感じかな」といった感覚ってありますか?名古屋ならではのセレクトみたいなものがあれば、ぜひ伺ってみたいです。

 

HIEI 名古屋だったら、今回のコンセプトに合うアーティストとして選んだのが、ダムタイプの山中透さん、Ableton Liveを使った電子音楽を手がけるSakura Tsurutaさん、そして青木孝允さんです。皆さん、いわゆるダンスミュージックの枠にとらわれず、さらに実験的な、エクスペリメンタルな音楽を作られている方々です。

 

名古屋って、ものづくりの街で、しかも最先端の技術が集まっている場所だと思うんですね。だからこそ、空間に自然に溶け込みながらも、新しい可能性を感じさせてくれる音が合うと考えました。ライブって、どうしても「躍らせる・見せる・聴かせる」になりがちですけど、今回は、空間そのものをどうデザインするか、居心地のいい音をどう作るかという視点でアーティストを選びました。そういうことができる人は実はすごく限られていると思います。

 

――― クリエイティブ・リンク・ナゴヤの支援を受けてよかったところがあれば、教えてください。

 

HIEI 音楽を前面に出して「イベントをやります、来てください」と人を集めるのではなく、音が空間に自然に溶け込んでいくというスタイルのプロジェクトにしたので、入場料を取って開催するような内容ではなくなってきますし、こうした実験的な試みを自費で続けるのは正直難しい部分もあります。だからこそ、助成をいただいて実現できたのは、本当にありがたいことでした。

 

もうひとつは、個人で活動していると会場を借りる際などに「どんな団体なんですか?」と聞かれることも多いのですが、助成を受けていることで「公的なプロジェクトなんですね」と受け止めてもらいやすくなりました。今回も関連企業様の方とのやりとりがとてもスムーズに進みましたし、さまざまな面で支えていただけたことに感謝しています。

 

 

後半に続く。

 


 

今回の助成事業の概要やレビュー記事は、以下のリンクよりご覧いただけます。※別ウィンドウが開きます

 

【2024年度の採択結果について】

■ トピックス|「2024年度助成 採択事業が決定しました

 

【採択事業一覧】

■ 社会連携活動助成|採択事業

■ キャリアアップ支援助成|採択事業

 

【コラム、インタビュー等】

■ おどり場「風景:みえる」 インタビューレビュー

■ 鈴木一絵「なごやのハラルフードを深掘りするアートプロジェクト」 インタビューレビュー

■ HIEI「URBAN SOUND DESIGN PROJECT」 インタビューレビュー

■ 矢田義典(Communis代表)「Plant It Green!」 インタビューレビュー

■ マーロン・グリフィス「Metamorphosis II — YEAR OF THE ROOSTER —」 インタビューレビュー

■ ささしまスタジオ「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造〜ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて〜」 インタビューレビュー