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2025.5.27
【CLN活動レポート】2024年度採択助成事業報告会を行いました|後半
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは、2024年度助成において16の事業を採択し、2025年3月までに全事業が無事終了しました。助成事業報告会では、「社会連携活動助成」に採択された6組の方々が事業を紹介し、さらにレビュー執筆者と対談形式で振り返を行いました。
報告会前半はこちら。
▼【トーク】社会連携活動助成A|矢田義典(communis代表)「Plant It Green!」× 清水裕二(愛知淑徳大学教授)
▼ 【トーク】社会連携活動助成A・継続|マーロン・グリフィス(Mas Nagoya実行委員会)「Metamorphosis II — YEAR OF THE ROOSTER—」× 塩津青夏(愛知県美術館 主任学芸員)
▼ 【トーク】社会連携活動助成B|ささしまスタジオ(有限会社イメージ設計)「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造 ~ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて~」志水久雄 × 安住恭子(演劇評論家)
▼ 交流会
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社会連携活動助成採択者とレビュー執筆者によるトーク
【社会連携活動助成A】矢田義典(Communis代表) 「Plant It Green!」
レビュー執筆者|清水裕二さん(愛知淑徳大学教授)

左から矢田義典さん、清水裕二さん
――― セミナー、展示、映画上映といった複合的なプロジェクトでしたが、構成するにあたって、どういったところに注力されたか教えてください。
矢田 今回のテーマは「都市の緑をコモンズとして見直す」という抽象的なものでしたが、それをどうすれば参加者にわかりやすく、自分ごととして捉えてもらえるかに注力しました。特に考えたのは3点です。まず一つ目は、誰にでも伝わりやすいネーミング。応募段階で「Plant It Green!」というタイトルをつけました。これはローリング・ストーンズの「Paint It, Black」をもじって、名古屋を緑で満たそうというメッセージを込めたもので、最初に手応えを感じました。
次に悩んだのは登壇者の選定です。ジル・クレマンの「動いている庭」という映画および背景となる思想を扱うことは決まっていたので、関係の深いエマニュエル・マレスさんや澤崎監督には早めに声をかけましたが、それ以外の方の選出に苦労しました。マレスさんの紹介で文化的景観の専門家・惠谷浩子さんに、また思い切ってランドスケープ ・ アーキテクトの石川幹子先生にもお願いし、快く引き受けてくださいました。さらに、体験型の要素として、環境循環の活動をされているアーティストの村上慧さんにも加わっていただきました。
最後に、全体の構成をどうするか。最初からコモンズを前面に出すと難解になってしまうので、文化的景観の話から入り、徐々にテーマに近づけていく流れにしました。結果として、理解しやすく興味を持ってもらえるプログラムにできたのではと思っています。

アーティスト村上慧氏による落ち葉の発酵熱を使った「足湯」
――― まちづくりや国際交流、教育の分野においては、どのような取り組みをされましたか。
矢田 僕たちはこのプロジェクトを長く続けていこうと考えていて、今回はまず「学び」から始めました。実際、円頓寺の人通りの多い場所を使って、村上さんによる落ち葉の発酵熱を利用した足湯を設置したのですが、これが近所の方や観光客に好評で、気軽に立ち寄れる場として親しまれました。中には研究者の方も来られて、発酵のプロセスを教えてもらったりと、こちらも学ぶ機会になりました。こうした交流を通じて、「緑を中心としたまちづくり」の可能性を実感できたと思います。
国際交流の面では、当初ジル・クレマンさんを名古屋に招く予定でしたが、高齢のため実現しませんでした。それでもマレスさんや澤崎監督を通して「動いている庭」の考え方に触れ、ヨーロッパとアジアの環境の違いによる庭の在り方の変化など、興味深い学びがありました。
教育面でも、小学生が足湯のワークショップに参加し、発酵や落ち葉の循環について楽しく学べる場になりました。高校生や大学生もセミナーに参加し、特にシンポジウムでは活発な意見交換が行われ、参加者が「緑」について深く考えるきっかけを作れたと感じています。
――― 清水さんは足湯にもシンポジウムにもいらっしゃいましたが、どういったところが興味深かったですか。
清水 「都市の緑をコモンズの視点から考え直す」という副題にまず惹かれました。コモンズという言葉は近年まちづくりの分野で注目されていて、私自身も興味を持って調べています。ここ数年、高齢化が進む長久手の地域で地域をつなぐ場所づくりに取り組んでいたところだったので、非常に関心がありました。
緑を切り口にコモンズを考えるという発想も面白くて、公園や街路樹といった身近な存在である一方、落ち葉が迷惑だと感じる人もいれば、もっと増やしてほしいという人もいる。緑に対する意識や距離感には人それぞれの違いがあって、公共性について考えるのにいい切り口だと感じ、この企画に関わることを決めました。

澤崎賢一監督『動いている庭』上演
――― 矢田さんへの質問をお願いします。
清水 今回、さまざまなレクチャーやシンポジウムを通じて、名古屋の緑についての課題や可能性が見えてきたかと思うのですが、そのあたりで感じられたことがあれば教えてください。
矢田 可能性については、石川先生がおっしゃっていたように、名古屋はまだ十分に取り戻せるという言葉がとても印象に残っています。僕自身も、まだまだ可能性はあると感じていますし、それを来年以降につなげていけたらと思っています。頑張っていきたいですね。
――― 矢田さんにとってこの助成金を受けられてよかったところがあれば教えてください。
矢田 僕たちは事業を走らせながら考えて進めていたので、クリエイティブ・リンク・ナゴヤさんの伴走にはとても助けられました。月に一度のミーティングでしっかりサポートしていただいて、「あ、これ忘れてたな」と思い出しながら進められたのは大きかったです。それから、足湯を取り入れるきっかけも一連の伴走のアドバイスからでしたし、なにより今回こうして公的に認められて、採択されたということが、広報や協賛の面でもとても大きな後押しになりました。本当にありがたかったです。
最後は、プロジェクト名の「Plant It Green!」の通り、落ち葉の足湯で使った落ち葉を、参加者に堆肥として持ち帰っていただくところまでできて、きれいに締めくくれたと思います。
【社会連携活動助成A 継続採択】マーロン・グリフィス(Mas Nagoya実行委員会)「Metamorphosis II — YEAR OF THE ROOSTER—」
レビュー執筆者|塩津青夏さん(愛知県美術館 主任学芸員)

左からグリフィス太田朗子さん、マーロン・グリフィスさん、塩津青夏さん
――― 2023年度に引き続き2回目の採択となりましたが、2年目のプロジェクトではどのようなところに注力しましたか。
マーロン(通訳:グリフィス太田朗子さん) 昨年の「Where Water Flows」に続く継続プロジェクトとして、今回はかつて水に覆われていた鶴舞エリア が、どのように今の姿になったのかを描く中で、戦時中から戦後の鶴舞に焦点を当てました。
テーマの性質上、当時を知る方々の体験に丁寧に耳を傾けることが重要だと考え、リサーチではその声を大切にしながら作品づくりの指針としました。戦争というテーマは扱いが難しいですが、語られないことで「なかったこと」になってしまうのは違うと思います。広島や長崎、沖縄に比べて、鶴舞の戦時中の姿を知る機会は少ない中で、子ども時代の体験を語っていただけたことは大きな意味があったと感じています。

鶴舞公園でのパレード
――― まちづくり、国際交流、福祉、教育といった分野との連携は、どのように取り組みましたか。
マーロン 私のプロジェクトでは他分野との連携が大切な要素となります。今回は国際交流、教育、街づくり、福祉、伝統芸能とのコラボレーションに取り組みました。
国際交流では、トリニダード・トバゴと日本の国交60周年にあたり、外務省の日カリブ交流年の事業認定を受けたので、名古屋でのアート活動を世界に発信できました。教育面では、「鶴トーク」と題したトークセッションで、戦中戦後の鶴舞を知る方にお話を伺い、地域の歴史を共有しました。まちづくりでは、鶴舞公園内の奏楽堂前でマルシェを開催し、パレードの参加者同士の交流を深めました。地元の方々からテントの貸し出しやボランティアなど、多くの支援もいただきました。コロナ禍で地元のお祭りがなくなった今、こうやって世代を超えて交流できるイベントは大切という声が聞かれました。福祉では、車椅子ユーザーがパレードに参加してくださり、多様性のある場をつくることができました。また伝統芸能では、東海太鼓センターや一宮の和太鼓グループ「彩響衆 樂」に参加いただき、迫力ある演奏がパレードを盛り上げてくれました。
――― 昨年に続いてレビューを執筆いただいた塩津さんから見て、どのような点が興味深いと思われましたか。
塩津 前回のパレードも見に行かせてもらったのですが、今回はパレードだけでなく、その前に行われた「鶴トーク」にも参加しました。戦争を経験された方のお話を直接伺い、とても衝撃を受けました。逃げるときの恐怖や辛さを語ってくださって、心を揺さぶられました。
私は普段、名古屋の現代美術やアートについて調べたり考えたりしているのですが、今回レビューを書くにあたって、「名古屋の空襲」を正面から扱ったアート作品って、これまでどんな作家が取り組んできたのだろうと思い、知り合いの学芸員に聞いてみたところ、すぐに思い浮かばないという声が多く返ってきました。そう考えると、今回のプロジェクトは、名古屋の空襲をテーマにしながら、これほどの規模でアートとして形にした初めての試みかもしれず、非常に意義深いと感じました。

パレードの衣装を作るマスキャンプ 2024ⒸMasNagoya実行委員会
――― マーロンさんに聞いてみたいことがあれば、教えてください。
塩津 戦争というテーマはとてもセンシティブです。記憶として残すべきだという考えもあれば、辛い記憶としてできるだけ触れたくないという人もいると思います。そうした中で、今回のパレードでは空襲を直接的に表現するのではなく、衣装やデザインはとても抽象的なものになっていました。そこでお聞きしたいのは、生存者の話を聞くというプロセスがありながら、なぜ最終的に抽象的な表現に至ったのか、ということです。
マーロン 悲惨な体験を理解し、それを表現するのはとても難しいことです。アーティストとしての表現方法を考える中で、戦後の日本のアートムーブメントである「具体(GUTAI)」を参考にしました。激動の時代に、彼らがどのようにして自由への思いや、混沌とした社会の空気を表現していたのかを手がかりに、自分の表現を考えました。
――― 継続の採択を受けて、よかったことがあれば教えてください。
マーロン クリエイティブ・リンク・ナゴヤの皆さんが、社会的な視点やアーティストの思いに寄り添いながら支援してくださっていることに、心から感謝しています。私のプロジェクトに対しても、強い社会的な意識を持ってサポートしてくださっていると感じています。今回のパレードのテーマである「戦争」のように、日本では扱いが難しいテーマにも、金銭的・運営面の支援をいただけたことは、作品づくりだけでなく、地域の歴史や経験の共有、そしてコミュニティのつながりを育むうえでも、本当に大きな意味があったと思います。
【社会連携活動助成B】ささしまスタジオ(有限会社イメージ設計) 「公共空間における新たな文化芸術活動空間の創造 ~ささしまライブ地区における野外劇のプロデュースを通じて~」 代表|志水久雄さん
レビュー執筆者|安住恭子さん(演劇評論家)

左から志水久雄さん、安住恭子さん
――― プロジェクトにあたってどういったところに注力されましたか。
志水 私が運営するささしまスタジオは、2019年に古い建物をリノベーションして劇場として使い始めました。5年間、劇場の中で公演やワークショップを続けてきましたが、1980〜90年代にあった小劇場ブームのような熱気が今は感じられず、少し寂しさを感じていました。コロナの影響やSNSの時代背景もあり、皆で演劇を観るという文化が薄れていると感じたのです。
そこで、演劇そのものを外に出して見てもらえる環境をつくろうと、ささしまライブの公園での野外劇に挑戦することにしました。公園は劇場と違って照明や音の制限など課題も多かったですが、逆にそれが新しい挑戦にもなりました。演劇をあまり見たことがない人や、大劇場のイメージしかない人にも「こんな場所で演劇ができるの?」と驚きと興味を持ってもらえるのではないかと思ったのです。
ただ、やるからには観客にとって記憶に残る面白い舞台にしなければ意味がないので、クオリティにはこだわりました。そして、公園という制限ある空間でも最大限に活かせる演出ができる作家として、オイスターズの平塚直隆さんに依頼し、今回のプロジェクトを立ち上げました。

キャナルパークささしま1号公園で上演された『オイスターズがささしまの公園でつくる野外劇』(平塚直隆作・演出)
――― まちづくりという面においては、どういったところが特徴的だったと思いますか。
志水 私のスタジオはささしまライブの南西にあり、人通りが少ない場所です。そこに人の流れを生み出し、将来的には中川運河とささしまライブのまちづくりの拠点になればと思い、スタジオを開設しました。この地域には「一般社団法人ささしまライブまちづくり協議会」という団体があり、相談を重ねて野外劇の開催にこぎつけることができました。
まちづくりには様々なアプローチがありますが、ささしまライブは公園や水辺など魅力的な公共空間が整備されていて、それを市民やアーティストが活用することが求められていると感じています。ただ、この地域はまだ整備途中で、複数の関係機関が関わるため、手続きが煩雑でワンストップで相談できる体制が整っていません。将来的には、誰でもアクセスしやすいハンドブックのようなものを整備し、アーティストや市民が自由に企画ができるようになるといいなと思っています。
――― 安住さんから見てどういったところが興味深かったか、教えていただけますか。
安住 今回の舞台は、ささしま1号公園に設置された60人乗りの客席が、人力で動かされるというユニークな仕掛けがありました。出演者たち自身が客席を押して移動させることで、背景の風景が変わっていきます。最初は中京テレビなどのビル群が見える都市的な景色、次は堀川沿いの素朴な風景、さらに回転すると遠くにささしまライブ駅の明かりが見え、まるで未来の光のようにも感じられる構成でした。このように、空間全体を演出に取り込む工夫がとても印象的でした。
さらに、今回は照明や音響が自由に使えないという厳しい条件の中で上演されました。野外劇でこのような制約があるのは異例で、通常なら設備で補うところを、すべて俳優たちの身体と声で成立させていたのです。効果音もBGMもなく、代わりに生の声やハミング、歌などで表現が組み立てられていました。23人の出演者たちが次々と役を変えながら舞台を動かし、まるで演劇の原点を見ているような感覚を覚えました。
また、登場人物に「王様」と書かれたものを身につけさせると、その人が王様になるというような、子どものごっこ遊びにも通じるような設定もあり、役を与えられた人がそのまま演じるという構造も興味深かったです。厳しい条件の中で、想像を超える表現が生まれていたことに強く感心しました。

野外劇ではささしまライブの建築物を背景に、出演者が役を変えながらストーリーが進んでいく
――― 志水さんに聞いてみたいことはありますか。
安住 前述した演出効果は最初から予想していたのでしょうか。私は本当に驚いたのですが。
志水 もともとは高架下の広場で上演する予定で、オイスターズの6人の役者が既成の台本『ここはカナダじゃない』を演じる計画でした。でも実際にやってみると、水が流れる音が大きすぎて声が聞こえづらく、「ここは無理だ」と判断しました。
それでマウンドのある公園に移動して試してみたところ、地形も良く、いくつものマウンドがあって、周囲には放送局や商業ビル、大学などがあり、駅も見えました。散歩中の人や自転車で通る人もいて、そうした背景も含めて活かせばいいと思ったんです。
ただ、客席を回すという発想は私にはなかったんですね。背景を全部見せてほしいとは平塚さんに伝えていましたが、「じゃあ客席を動かそう」と考えたのは、彼の創造力のなせる業だと思っています。
――― 今回の助成金を受けられてよかったと感じるところがあれば教えてください。
志水 文化や芸術への助成は、アーティスト本人やそのプロダクションに対するものが多いのですが、私のようにスタジオを運営しながら、舞台の主催者や共催者として制作に関わっている立場にも助成対象が広がっているのは、とても珍しくありがたいことだと感じています。いわゆるプロデューサー的な立場でも参加できる制度というのは本当に貴重です。
アーティストの中には、マネジメントや社会との連携に慣れていない方も多いので、そうした人たちにとっても、プロデューサーと一緒にプロジェクトを組んで参加できる機会は、とても有意義だと思います。
交流会
交流会では助成事業の紹介パネルや成果物であるポートフォリオを囲みながら、登壇者や聴講者、関係者が自由に交流し、和やかな雰囲気の中で活発な情報交換が行われました。多くの出会いやつながりが生まれる、貴重なひとときとなりました。
今回の助成事業の概要やレビュー記事は、以下のリンクよりご覧いただけます。※別ウィンドウが開きます
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