2025年度助成採択事業紹介③ なごや裏山芸術祭実行委員会「なごや裏山芸術祭2025」 | つながるコラム | クリエイティブ・リンク・ナゴヤ

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2025.10.29

2025年度助成採択事業紹介③ なごや裏山芸術祭実行委員会「なごや裏山芸術祭2025」

 

クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは2025年度も助成事業を実施しています。今年度採択された「社会連携活動助成」事業(助成A×5件、助成B×1件)を、全6回にわたっての連載で採択者がそれぞれの取り組みについて語ります。社会連携活動助成A・Bの詳細はこちらをご覧ください。

 

第3回はなごや裏山芸術祭実行委員会の代表、植村康平さんによる「なごや裏山芸術祭2025」の紹介です。

 

芸術祭にご来場の方へ

なごや裏山芸術祭では、展示作品の鑑賞や音楽イベント、ワークショップの参加にはパスポートの購入が必要です。

下記イベントでは、パスポートに加えて別途ご予約をお願いいたします。

公式情報・最新情報はこちら

 

【採択者プロフィール】

2025年発足。名古屋市東部での芸術祭開催を通じ、文化芸術の発展を目指す。代表は建築家・植村康平、副代表は美術家・ヤスダキヨシ。ともに名東区在住。植村は西山商店街での空き家設計をきっかけにまちづくりに関わり、2020年からは「未完美術館」プロジェクトも展開。

 

■ なごや裏山芸術祭とは

 

なごや裏山芸術祭は、名古屋の中心部から見て東山の“裏”にあたる閑静な住宅街や商店街、ギャラリーを舞台に、アーティストによる展示やワークショップを行う取り組みです。名古屋市内の文化芸術イベントは中心部に偏りがちですが、その裏側から文化を広げることで、まち全体の魅力を底上げしたいと考えています。人口が多く新しい文化が芽吹きやすい地域であり、子どもや若い世代にとってアートに触れる貴重な機会にもなります。また、空き家や空き店舗が点在しており、地域課題の解決にもつながる可能性があります。こうした場を通じ、地域住民や訪問者が関わる文化的拠点を少しずつ育て、創造性を高めていくことを目指しています。

 

実行委員会のメンバーとは、6年前に〈ニシヤマナガヤ〉をつくったことをきっかけに出会いました。アートや教育に関わる人が多く、たまたま今回のエリアにも縁があるメンバーばかりで、「いつかこの場所で何かアートイベントをやりたいね」と話していました。個人で5年間続けてきた〈未完美術館〉プロジェクトも、次のステージへ進みたいと考えていたところ、助成情報をきっかけに構想が一気に広がっていきました。西山エリアは転入者が多く、固定的な地縁が比較的薄い一方で、新しい活動を受け入れる柔軟さがあります。土着的な商店街とは違い、外からの視点も混ざる“風通しの良さ”が、この芸術祭には合っていると感じています。

 

芸術祭会場となる西山商店街 ©なごや裏山芸術祭実行委員会

 

■ 芸術祭テーマ「こえる」に込めた思い

 

なごや裏山芸術祭では「こえる」をテーマに掲げ、3つの“こえる”を体現するアーティストを選んでいます。アートへの敷居を越え、誰もが身近にアートを感じられること。既成概念や常識を超え、新しい視点や価値観を示すこと。そして、自分の限界や壁を超えて挑戦し続けることです。アーティストと参加者が共に「面白いこと」を生み出し、来場者一人ひとりが何かを“こえる”体験ができる場を目指しています。こうした体験を通じて、来場者の発想や感性に新しい刺激をもたらし、日常では得られない学びや発見を提供します。

 

「こえる」という言葉は構想初期からあったわけではなく、芸術祭の形が見え始めた後、ヤスダさんと話し合う中で生まれました。山を越える、垣根を越えるそうした感覚が裏山芸術祭らしいと感じたからです。僕自身も、若い時には敷居が高くて美術館に足を運べなかった経験があり、最初の一歩を越えるきっかけをつくりたいという思いがあります。この「こえる」という言葉は、今後テーマが変わっても芸術祭の核として残っていくと感じています。

 

■ アーティスト選定の基準

 

アーティストの選定では、個性や挑戦心に加えて、限られた空間や人数でも多くの人を巻き込み、大きな力を生み出せるかを重視しています。展示するだけでなく、ワークショップなどを通じて参加者が主体的に関わり、思わず誰かに伝えたくなるような体験を生み出せることが大切です。裏山芸術祭のテーマ「こえる」に沿って、触れたり関わったりしながら一緒に楽しめる方を選びました。源太さん、彰一さん、野村さん、小松大さんなどは、多くの人を巻き込みながら場をつくれると感じています。

 

また、作品やプログラムを通して地域や風景と自然に結びつき、文化的な価値を育てられるかどうかも重要な視点です。多様な表現や手法を持つアーティストが集まることで、来場者に幅広い刺激と発見を届け、地域や社会にとって意義のある芸術祭を目指しています。思いを持った地域の方々とともに、質の高いプログラムを形にしていきたいと思っています。

 

なごや裏山芸術祭について語る代表の植村康平さん

 

■ 地域とともに育てる芸術祭

 

実行委員会は、地域にゆかりのあるメンバーで構成されています。アートの発想で常に前進を促してくれるヤスダさん、アートプロデューサー兼デザイナーとして企画やデザイン面を支えてくれている野村さん、全国各地で様々なイベントの企画にも携わる経験豊富な小松大さん、そして星ヶ丘と西山の間に位置する椙山女学園大学の先生であり、商店街でも活動を共にする𣘺本先生など、それぞれの得意分野が補い合いながら、芸術祭の土台を形づくっています。

 

会場を提供してくださるオーナーさんにも趣旨を理解してもらい、地域を盛り上げたいという思いに共感いただいています。星ヶ丘のH GARAGEもその一つで、地域の活動拠点として芸術祭の会場として活用させていただいています。商店街でも、理事長や店主、物件オーナーの方々と協力しながら進めています。それぞれの思いが集まることで、地域の歴史や特性を尊重しつつ、アートが日常に溶け込み、新しい価値や発見を生む環境が生まれると考えています。こうした関係性は芸術祭の根幹を支えるものです。

 

最近では、大ナゴヤ大学による街歩きツアーや、商店街のピアノ教室、私設図書館での読書会など、地域側から自発的に派生する企画も生まれています。僕たちが働きかけるだけでなく、住民の方が「自分ごと」として関わってくれる流れができつつあることを嬉しく感じています。

 

展示とワークショップ、音楽ライブが行われる H GARAGE ©なごや裏山芸術祭実行委員会

 

■ 広報だけではない、つながりから生まれる集客の力

 

芸術祭では、個性豊かなアーティストによる展示やワークショップの質にこだわり、来場者がじっくり楽しめる体験づくりを心がけています。その魅力を伝えるため、SNSを中心に写真や動画で発信し、飲食コンテンツも取り入れることで初めての方も参加しやすい場を意識しています。地域の方にはチラシや口コミで丁寧に伝え、遠方の方にはオンラインで情報を届けています。パスポートは大人、高校・大学生、中学生の3種類で、小学生以下は無料とし、家族でも来やすい仕組みにしました。

 

加えて、実行委員それぞれのつながりを活かした広報も行っています。ヤスダさんの行きつけの店、美術系大学に通う野村さんの教え子、𣘺本先生の大学、小松大さんのラジオ出演など、多様なルートから情報を届けています。僕自身も西山小学校に伺い、チラシを全校配布してもらえることになりました。

 

インフォメーションとなるコトづくり研究所

 

■ 未来の世代へ託したい体験とまなざし

 

なごや裏山芸術祭では、子どもから若い世代まで参加できる展示やワークショップを用意しています。アートに触れることで、自分の感性や発想が刺激され、日常では出会えない発見や挑戦のきっかけになればと考えています。テーマ「こえる」のもと、限界や固定概念を少し越えてみる体験を通じて、柔軟な考え方や創造力が芽生えることを期待しています。家族や友人と一緒に楽しむことで、世代を超えてアートに親しむ機会となり、地域や社会全体の文化的な関心が広がることも願っています。

 

子ども向けには、彰一さんと巨大作品をつくるワークショップや、小澄源太さんのライブペインティング、翌日の「お面づくり」、ヤスダさんのスマイルミュージアムなどを用意しています。こうした体験を通して、子どもから大人までが一緒に驚きや発見を共有し、心が動く瞬間が生まれる場になればと思っています。

 

美術家ヤスダキヨシさんと一緒に ©なごや裏山芸術祭実行委員会

 

■ これからのなごや裏山芸術祭

 

今後もこの地域に点在する空き家や空き店舗を活用しながら、商店街や住宅地、ギャラリーなど地域の資源を舞台に芸術祭を続けていきたいと考えています。アーティストや地域の方との関係を大切にしつつ、2回、3回と回を重ねるなかで、少しずつ文化的な拠点を増やしていけたらと思っています。参加者がまた訪れたくなる体験や、次の世代にも魅力的だと感じてもらえる内容を意識しながら、ゆくゆくは名古屋を代表する芸術祭へと成長させ、名古屋市全体の文化や魅力をさらに良くしていくことも目指しています。

 

一方で、次回開催に向けた課題もあります。今年展示会場として使っている空き店舗の一部は来年には新しい店が入る予定で、使える場所を探し続ける必要があります。街を歩きながら、ガレージや住居の一室など新たな可能性を見つけていくことも重要だと感じています。実行委員会の体制も含め、地域とともに持続できる形をこれから模索していきたいです。

 

未完美術館前にて、植村さん

 


 

■ 事業名 なごや裏山芸術祭2025

名古屋中心部から見て東山の「裏」にあたる西山商店街を中心に芸術祭を開催。倉庫を改装した「未完美術館」のほか、空き店舗も会場として活用し、国内外から招へいするアーティストたちによる展示やワークショップを実施。地域に根差した新たな文化拠点を創出する。

■ 採択区分 社会連携活動助成A

■ 採択金額 ¥1,000,000

■ 採択者名 なごや裏山芸術祭実行委員会

■ 活動領域 まちづくり

■ 連携先の分野 美術

■ 日時・会場

開催期間|2025年11月1日(土)~11月24(月·祝) 土日祝日の10日間
開催時間|各日10:00~17:00
開催場所|名古屋市名東区・西山商店街界隈から千種区・星ヶ丘界隈
・小澄源太ライブペインティング 2025年11月15日(土) 14:00~15:00
・Live at H GARAGE 2025年11月24日(月·祝) 11:00~16:45

ウェブサイト|なごや裏山芸術祭2025 / Instagram|@urayama.artfes