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2024.5.29
【CLN活動レポート】2023年度採択助成事業報告会を行いました
クリエイティブ・リンク・ナゴヤでは、2023年度助成において18の事業を採択し、2024年3月までに全事業が無事終了しました。助成事業報告会では、「社会連携活動助成」に採択された4組の方々が事業を紹介し、さらにレビュー執筆者と対談形式で振り返りを行いました。
日時:2024年5月10日(金) 18:30~20:15
会場:メニコン シアターAoiビル9階 イベントスペース
プログラム:
■ 採択者による事業報告
■ レビュー執筆者とのクロストーク
■ 会場からの質疑応答
■ 助成C(キャリアアップ)成果物展示
■ 交流会
クリエイティブ・リンク・ナゴヤの田中英成理事長の開会のあいさつ、佐藤ディレクターの2023年度の助成事業の総括に続き、採択者とレビュー執筆者のクロストークがスタートしました。
採択者による事業報告・レビュー執筆者とのクロストーク
【助成事業A】
「METAMORPHOSIS I WHERE WATER FLOWS」
マーロン・グリフィスさん (通訳:グリフィス太田朗子さん)
レビュー執筆者:塩津青夏さん(愛知県美術館学芸員)
マーロン:出身国であるカリブ海の小さな島、トリニダード・トバゴでは、毎年2月にカーニバルがあります。私はそのパレードの衣装をつくるマス(衣装)アーティスト「マス・マン」でした。日本では地域の人たちと地域の物語をパレードという形で共有するアート活動を行っています。
トリニダードでは、カーニバルの1、2か月前に「マスキャンプ」を開き、地域のみなが集まってその年の衣装をつくります。私が着目しているのは、カーニバルの歴史的な成り立ちと、もう一つはマスキャンプのコミュニティにおける在り方です。今回のパレードでは、自分が住む鶴舞という地域でユニークなものを生み出し、鶴舞のコミュニティにインパクトを与えることを目標に、マスキャンプと題したワークショップを12日間実施しました。
はじめに、どうやって鶴舞が発展してきたか地域の歴史を図書館でリサーチし、マスキャンプに参加する皆さんには、かつての鶴舞の記憶を辿り、現在のコミュニティの姿を反映し祝福するパレードになることを伝えました。
もともと鶴舞に住んでいるので、地域の人や子ども同士のつながりもあって、マスキャンプに小学生が毎日来てくれたり、近所の方がダンボールを持ってきてくれたりすることもありましたね。そうやって、だんだんと一つのカタチができあがっていったのです。本番のパレードでは、多様性を反映しようと車いすの方に先頭をきっていただきました。最終的に、ワークショップに142人、パレードは80人の参加となりました。
塩津:マスキャンプと当日のパレードと2回お邪魔しました。レビューのテキストには「日常の祝祭」と書いたのですが、マーロンさんのパレードは非日常的な特別な高揚感とか、祝福されていると感じる祝祭感がありました。面白いと思ったのは、日常とのつながりです。準備のためにマスキャンプに地域の人々が集まってくる日常があって、それがパレードにつながっていき、終わればまた日常に戻っていく。ひとつのコミュニティがプロジェクトを通じて変化しながらも、みなでその経験を共有するという在り方は面白いですね。
聞いてみたかったのですが、日本のお祭りの文化と、トリニダード・トバゴのカーニバルの文化と、祝祭に対する感覚の違いはどこにあると思いますか?
マーロン:日本では一つのフォーマットに固定されていることが多いのですが、トリニダードではカーニバルでも新しいものをつくる機会だと捉えていることが大きな違いだと思います。
塩津:このプロジェクトは、1日限りの祝祭的なイベントだけでなく、コミュニティの活動が継続されることが大事だと思いましたが、今後どのような展開を考えていますか?
マーロン:次に機会があれば、より長い期間交流する場をつくっていきたいですね。鶴舞を語るのに1回だけのパレードで終わることはできませんから。2回目は戦時中の記憶、3回目は鶴舞の未来という形で発展させていけると思っています。
※今回は鶴舞の歴史から「Where Water Flows(「いつも水の流れる間」)」と題して実施。
【助成事業A】
「街が舞台!多様な主人公たち」
特定非営利活動法人ポパイ 山口光さん まなみんさん
レビュー執筆者:今泉岳大さん(岡崎市美術博物館学芸員)
山口:今回の「まちなかエンゲキ」はファシリテーターを務めた沖直子さんが取り組んでいる手法で、街中でインタビューをしてシナリオをつくり演劇にするというプログラムです。演劇をしたことのない人、会ったことのない人同士が集まり、ゲームのようなことを繰り返しながら徐々に演劇のカタチをつくり上げていきました。
私たちは障がい者福祉団体なのですが、こちらにいるのがまなみんさんです。
まなみん:まなみんです。統合失調症・ADHDで、妄想が入ったり、パニックになると混乱して泣き叫んだりすることがあります。
山口:彼女をはじめとするポパイのメンバー4人に加え、一般公募で集まっていただいた方々と、コーディネーターを務めてくださった地域の方にも参加いただき、本番の前に5回ワークショップを行いました。
あと、特徴的なのが地域の方のお話をストーリーに入れていくことで、千種区1丁目のお寺の方、和菓子屋さん、町内会長さんに街の話をいろいろと伺いました。
今泉:私は3回目のワークショップから参加させてもらいました。ワークショップ自体が、地域と地域の外側にいる人、地域の人と地域の歴史、普段会うことがない障がいを持つ人とか、そういうものをつなげる「出会い直し」のようなものだと感じました。
地域の歴史をつなげながら、ストーリーの軸は宇宙人が千種区1丁目に降り立ち、その視点から千種を見るというものでしたね。地球のことを知らない宇宙人が、「ピポ」っと手を合わせると、手を離せなくなるというのが面白い。その行為が「つながり」という記号となって物語が展開していきました。この要素は演劇の中で生み出されたのですか?
山口:この手の形はワークショップでポパイのメンバーがやっていて、面白いねって取り上げました。
ワークショップのゲームのテーマだった宇宙がなぜか伏線のようになって、最終的に命や感謝、希望などを表すシンボルのようなものとしてつながっていきました。
今泉:ワークショップに参加した後で千種区1丁目を通ると、この街にはこういう人が住んでいたのだなと思うことがあるので、外と中をつなぐ活動として生きていたのですね。あと、まなみんさんの「バンザーイ」って、魔術的にその場の人を瞬間的につなげていましたね。まなみんさんを含めさまざまな特徴をもつ方々を活かしながらストーリーを組み立てたのだと思いますが、みなさんで相談してつくるのですか?
まなみん:みなで話して、障がい者やいろいろな人の“いいことずくめ”を寄せ集めてつくったという感じです。
今泉:全5回のワークショップでどこまでストーリーが仕上がるか想定していたのでしょうか?
山口:最初にこういうストーリーにしようというものはありませんでしたが、沖さんは5回あればここまではいくだろうと想定していたと思います。障がいのある人や公募で集まった人たちとやるのは、沖さんにとっても挑戦だったのじゃないでしょうか。
今泉:最後にまなみんさんの「バンザーイ」をいただけますか?
まなみん:「クリエイティブ・リンク・ナゴヤのみなさん、バンザーイ!」
【助成事業A】
「飯田街道聞き取りアートプロジェクト」
廣田緑さん
レビュー執筆者:服部浩之さん(キュレーター、東京藝術大学大学院准教授)
(事前収録のビデオ出演)
廣田:このプロジェクトは私が代表となり、インドネシアの版画家集団グラフィス・フル・ハラと、山口情報芸術センターでキュレーターを務めるレオナル・バルトロメウスの三者によるユニットで申請しました。プロジェクトには大きく4つのプログラムがあって、スタートは2月4日の飯田街道散策ツアーでした。参加者を事前に募り、飯田街道沿いの昔の新栄をご存じの方に記憶を語りながら案内していただくツアーで、会場となった「新栄のわ」のオーナー新見氏にも語り部になっていただきました。
次に開催したのがオープンスタジオです。「新栄のわ」のスタジオ205で我々が制作している様子を来場者に見ていただき、さらに新栄の想い出などを聞き取り作品に反映させました。その後2日間行ったワークショップでは、参加者に版画のいろいろな技法を体験してもらい、その体験をカタチにして残すため、シルクスクリーンの枕カバー、リソグラフのzineを制作しました。グラフィス・フル・ハラのメンバーは版画の可能性を追求していて、ジャカルタでも学生や若手アーティストに向けた様々なパターンのワークショップを開いています。今回も様々な可能性を見せる事ができました。
プロジェクトの最後には制作した作品を10日間展示しました。地域の方と知り合う中で展示場所を提供してくださる方もいて、「新栄のわ」のイベントスペース「パルル」に加え飯田街道沿いの3店舗でも展示することができました。
私は、アーティストとして制作に関わるか、研究者としての役割を担うのか悩みましたが、フィールドワークという調査を担当することにしました。散策ツアーで聞いた、語り部の記憶の裏付け調査をして、歴史、記憶、地図をまとめた新聞を作成しました。
服部:そもそも飯田街道に着目したのはなぜですか?
廣田:最初は名古屋駅周辺を考えていたのですが、拠点が見つからなかったのです。拠点がないと国際交流もできないじゃないですか。どうしようかと思っていた時に、「新栄のわ」が協力してくださることになって。結果、正解でしたね。
服部:「新栄のわ」の周辺って、人々が屋外までじわじわと侵食し、活動やコミュニティが路上で展開されている感じがすごくアジア的。この環境は今回のプロジェクトと相性がいいですよね。街からインスピレーションを得て版画を楽しんだりするの、いいなと思いました。
廣田:そうですよね。海外から来た住民も多くて、インドネシアの作家たちもなじみやすいといっていました。
服部:参加型のアートプロジェクトでは、企画者やアーティストがある程度筋書きを決めてしまっていて、参加者はその物語に沿うような振る舞いを求められてしまうことが結構あるじゃないですか。でも、このプロジェクトは先に筋書きを決めるのではなく、街に詳しい語り部の話や参加した方の声を受け取ったうえで、そこからリサーチを進めていくのがすごく良くて。結論ありきではなく、プロジェクトに関わってくれる人の経験や声が不可欠で、そこからプロジェクトを組み立てていく態度がとても素敵でした。
廣田:今思えば、全てはあいちトリエンナーレからつながっている、文化のエージェンシーのようなことで、今後も「新栄のわ」でつながっていけたらこのプロジェクトは成功といえるのかもしれません。まだ、スタートでしかないと思っています。
【助成事業B】
「クリチャレ -名駅南クリエイティブチャレンジ- 2023」
名駅南地区まちづくり協議会 伊藤孝紀さん 加納実久さん
レビュー執筆者:関口威人さん(ジャーナリスト)
加納:私たちはクリエイティブの力を使って名駅南で魅力的なことをしようと2015年から活動しています。コロナ禍でイベントや人が集まることが難しい中、一昨年クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成を知り、改めて活動に向けて動き出しました。そのスタートとして2022年に開催したのが、「クリチャレKick Off 2Days」です。こういう風景がこの地域でも作れるんだと感じたことは、大きな収穫だったと思います。
そして昨年度は、「名駅南を面白がる会」というアイデア出しのワークショップを行い、クリエイターのみなさんの協力を得ながら何に取り組むか考えていきました。企業が多いこの地域に、実は5000人もの人が住んでいることわかり、いつかその5000人に会いたいね、という話から「五千人祭」というイベントにつながりました。クリエイターさんに出会うためのコンペも開催し、参加したヨガのインストラクターの方は、名駅南でもっといろんな人に会いたいとシェアキッチンにも出店してくださって。地域に根を下ろしてもらえたのはうれしいですね。名古屋市のまちづくり方針のパンフレットにも演劇の風景がイラストで掲載されて、私たちの取り組みが市のビジョンとして捉えられたことは大きな一歩だと思っています。
関口:クリエイターのコンペから参加しました。今年度の取り組みについて、伊藤さんのお話もお聞きしたいのですが。
伊藤:重要な視点として、まちづくり協議会でクリエイティブなことをやろうという時、住んでいる5000人の人を取り残してはダメですよね。いろいろな人が外で常に何かやっていると街の安心・安全につながるし、いざという時、コミュニティの基盤にもなると考えています。
街自体がアーティストのためのホールやライブハウスのような場所になっていることも良かったと思っています。場所を提供するだけじゃなく、ここでの活動がクリエイターの成長につながることが大事で、先ほどの話のヨガのインストラクターの方は、自らカレーやおでん屋さんにトライしている。今、いろいろな活動の芽が増えてきているのがいいなと思います。
関口:なぜ、こんな面白いクリエイターたちが集まったのでしょう?何か仕掛けはあるのですか?
伊藤:チャレンジするためのコンペにしたことも大きいでしょうね。競って勝ち取った方がやる気が増すじゃないですか。そういう仕掛けをつくって成長をサポートしようということがひとつあります。あと、彼らの活動が単なるイベントとして終わらないように、ちゃんと地域に根ざせる仕掛けも必要だと考えています。シェアキッチンがあったり、歩道の一部が定期的に使えたり、使う人が増えると我々もレベルを上げようという意識が高まります。来年度に向けて、都市再生推進法人の指定を取ろうと進めているのですが、まちづくり協議会としても成長することで、ここで活動する人も成長する、相乗効果を生むことに意味があると思っています。
関口:5000人に会うというお話でしたが、実際はどうでしたか?
加納:万人に響くものをつくるのは難しいのですが、5000人のまずは50人、次に100人に響かせて積み重ねていければいいと思っています。
伊藤:目標をクリアしなきゃダメだということじゃないのです。大きな目標を掲げないと、未来へ進んでいけませんからね。今、コロナ禍を経て副業や趣味を持つ人が増え、可能性を試したいという人が多くなったと感じていて、何かどこかでやりたいなら名駅南に来てほしいですね。こういう街が名古屋市内にいくつもあると、すごくいい街になると思います。挑戦するなら名古屋だね、という憧れの街にしたいですね。
会場からの質疑応答
質問:名駅南地区の「住民を取り残さない」という言葉がすごく響きました。そのためにどんな工夫をされたのですか?
伊藤:町内会のみなさんと対話したり、イベントにも参加してもらったりしています。地域の運動会や山車を出す機会に、まち協のメンバーが参加することもありますね。あと、街の清掃活動でお互いに汗を流すと一気に風通しも良くなって、そうした地道なことの積み重ねが大事だと思っています。
質問:今回、新栄のわのイベントスペース「パルル」を提供してイベントに参加させていただきました。今回のような活動を継続させていくには、みなさんは何が課題だとお考えですか?
伊藤:まちづくりだと最初から採算を合わせるのは厳しいです。ある程度やりながら人を集めて、さらに資金やいろいろなものが集まって成長していく、そう考えると1年、2年とクリエイティブ・リンク・ナゴヤで助成をいただいて、できれば3年目もお願いできると自走できるようになるんじゃないかと思っています。1回だけではなく継続していただけるのが、すごく意味があると思っています。
マーロン:同じように予算は課題です。あと、僕一人のプロジェクトではないので、コミュニティで関係を構築する、より多くの人を巻き込むにはどうすればよいかも課題ですね。
山口:資金面もそうですが、私たちの場合は福祉団体ですので、生きづらさを抱えた人たちと一緒にやっていく時、安心できる場を用意できるかということも課題だと思っています。
質問:助成金以外の面で、このプログラムに採択されて良かったと思うことを教えてください。
伊藤:立ち上げたプロジェクトを継続させる、新しいものをスタートアップさせる、この二つの視点で取り組めるようになったのは良かったですね。
加納:クリエイティブ・リンク・ナゴヤで同じプロジェクトに取り組む仲間たちの顔が見れたことが安心につながりました。このような場は意外とないんです。
マーロン:鶴舞公園という公共の場を借りる時、非常に力になってもらえました。個人にこれだけの資金援助をいただけるのは助かりました。チャンスをいただき、今回の参加者で「マス・ナゴヤ実行委員会」をつくろうと次につながってきて嬉しく思っています。
山口:今回のプロジェクトでは叶わなかった、生きづらさを抱えた若者を支える団体を紹介してもらって外とつながることができました。クリエイティブ・リンク・ナゴヤ主催の健康とアートのウォーキングイベント(「歩く、アート、栄」)にも参加しました。楽しかったですね。交流の難しいうちのメンバーも参加でき、プロジェクト以外でも素敵な1年でした。
まなみん:ウォーキングイベントが楽しかった!名古屋市だけではなく全国でやって欲しい。
助成C(キャリアアップ)成果物展示・交流会
田中理事長が会長を務める株式会社メニコン様のご厚意により会場を使わせていただいたイベントスペースは、名古屋の舞台芸術の新たな拠点であるメニコンシアターAoiも設置されている新社屋の中にあります。開放的な雰囲気のなか、登壇者、聴講者、関係者が和気あいあいと情報交換し、さまざまな出会いの場となりました。
今回の助成事業の概要やレビュー記事は、以下のリンクよりご覧いただけます。※別ウィンドウが開きます
【2023年度の採択結果について】
【採択事業一覧】
【コラム、インタビュー等】
助成A
・マーロン・グリフィス「METAMORPHOSIS I WHERE WATER FLOWS」 事業紹介 / レビュー(執筆:塩津青夏)
・特定非営利活動法人ポパイ「街が舞台!多様な主人公たち」 事業紹介 / レビュー(執筆:今泉岳大)
・廣田緑+Grafis Huru Hara+Leonhart Bartolomeus 「飯田街道聞き取りアートプロジェクト」 事業紹介 / レビュー(執筆:服部浩之)
助成B
・名駅南地区まちづくり協議会「クリチャレ -名駅南クリエイティブチャレンジ- 2023」 事業紹介 / レビュー(執筆:関口威人)
助成C
・若手アーティストたちによる成果報告会「私たち、こんなポートフォリオ作りました!」